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彼の子供達

この子は本当に嬉しそうにあの人の事を話すな……

クーについて身振り手振りで説明をする最上さんが微笑ましく、テーブルに肘を付いて弾む言葉に耳を傾ける。

「先生の食欲にはとにかく驚かされましたけど、その中でも特にびっくりした料理があるんです」
「何、それは?」

あの人の食べっぷりが常軌を逸しているのは昔から嫌というほど見知っているから、例え100人分のちゃんこ鍋を食べたと聞いても今更驚きはしないけれど。

「目玉焼きです」
「目玉焼き?」
「はい。正確に言えばクオン少年が作った目玉焼きです」

目玉焼き……果たして俺は彼のためにそれを作った事があっただろうか?

―――覚えがない。

覚えがないどころか、あの家ではフライパン一つ持ったことがないはずだ。
食に対する嫌悪感のようなものを植えつけられた俺としては、あえて料理など作る気にはならなかったというのが実情なのだが。

「クーが君に『クオンの作った目玉焼き』をリクエストしたの?」
「え?」
最上さんが俺の質問に目を丸くした。

「あ、いえ、違います。言い方が紛らわしかったですね。私がクオン少年ならこう作るだろうなぁと思って作った目玉焼きのことです」

ああ、そういう意味か。
しかしなぜそれが『びっくりした料理』になるのだろう。

「ご両親に可愛がられて育ったクオン少年ですから、きっと料理などした事はないだろうと思いまして」

それは確かに、調理器具一つ持った事はなかったけど。

「玉子を割った事もない子供を想定して作ったんです」

いくら何でも玉子ぐらい割った事はあった……はずだ、多分。

「結果、胃に悪そうな焦げ焦げの目玉焼きが大量にできてしまったんですよ」

どれほど黒焦げで身体に悪そうな食べ物でも、あの人が口にしないわけがない。
何しろ彼の妻の、あの個性的過ぎる料理を食べ残した事がないのだから。

「にも係わらず、先生はそれを美味しそうに食べてくれたんです。バリンボリンと」

やっぱり食べるよな、バリンボリンと……って、え?

「ちょっと待って。バリンボリンって、それは目玉焼きを食べる音ではないだろう?」
「そうなんです。手違いで殻が入っていまして私も慌てたんですが、先生は『カルシウムも一緒に摂れていいだろう』とニコニコしながら食べてくれたんです。『さすが私の子だ、頭がいい』とクオンをベタ褒めしながら」
「……さん、あなたという人は……」
「え?」

俺の小さな呟きを逃さなかった最上さんに聞き返されてしまい、苦笑しつつも取り繕う。

「いや、それは幾ら子供に甘いと言っても度が過ぎるのではないかな、と思ってね」
「そうですよね。私も同じように思いました」

はは、そうだよな……

自分で言った事とはいえクーを崇拝している彼女にさえもきっぱりと同意されて、どうしようもなく恥ずかしさが込み上げてくる。

「まあ、所謂親バカというやつだね」
溢れ出る羞恥心から逃れるために、わざと軽く言い放った。

「ええ……でも、なんて素敵な親バカなんでしょう」

投げやりとも言える言葉を受けたにも係わらず、最上さんはふわりと微笑んだ。

思いもかけない柔らかな笑顔に、何かが弾けた。
それは俺が見失っていたもの……目を逸らし続けていたもので……

ああ、本当に君にはいつも驚かされる。

「…最上さんは相当のファザコンだね」
「そうですよ、勿論私だけでなくクオン少年だって相当のファザコンだったはずです」
「そうだね」

遠いアメリカの空にいる彼の人を思い、俺達はクスクスと笑い続けた。


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