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「なんだ、これ?」
足元に転がっていた10センチ程のピンク色の物体。それを拾い上げて、くるりと表に返す。
「あれ、これってもしかして……」
「どうしたんですか?社さん」
何事かと覗き込もうとした蓮から、咄嗟に拾い物を後ろ手に隠した。

「ふふふ~~ん、見たい?」
「……いえ、なんとなく嫌な予感がするので結構です」
またかと言わんばかりに露骨に顔を顰めた蓮に、にんまりと笑いかける。
「人生そんな消極的な事でいいのか、蓮。後悔するぞ」
「人生を語るほどの事とは思えませんが。どうせ見たところで社さんに遊ばれて後悔するのは分かりきってますからね。あなたがそんな顔をするのはあの子関係でしょう」
「分かっているなら余計だ。同じ後悔するなら見ておかなきゃ損というものだろう?」
「別に、何事もなかったと思えば後悔なんてしませんよ。では頭を切り替えて次の現場に急ぎま」
「もーーーーっ! 全くどこに落としたのかしら! 台本を出した時に落ちたのなら、この辺にあるはずなんだけどっ」
俺にとって全く面白みのない後ろ向きな蓮の言葉は、殺気立って歩いて来たツナギ姿の黒髪の少女によって打ち消された。

「琴南さん、どうしたの?」
声をかけた直後、ギンッと音がしそうな目つきで睨まれて、その迫力に思わず一歩下がる。
「琴南さん……?」
「……敦賀さん、社さん、おはようございます」
話しかけてきた相手が蓮と俺――つまり、彼女にとって目上にあたる存在――と気付いてか、琴南さんは通り一遍の挨拶はしたものの、意識は何やら下の方へと向けらたままで心ここにあらずといった様子だ。
「何か探し物?」
「え、ええ、まあ……」
問いかける蓮に、琴南さんが言葉を濁した。彼女が探しているのは十中八九、俺の手の中にある物だろう。

「もしかして、これかな?」
細い紐を摘んでぶら下げて見せると、あっと目を見開いた。……のは彼女だけでなく、蓮も同様。
「かわいいね、これ。キョーコちゃんの手作り?」
「はあ……誕生日プレゼントだと押し付けられまして……」
素っ気無く言う彼女の表情は、嫌々ながらというよりはむしろ大いに照れているようで、真っ赤に染まった頬がそれを物語っている。何とも微笑ましい光景だが、その横では俺の指の下で揺れている人形を驚きの眼差しで注視している男がいる。
――ほら、やっぱり損しただろう? 素直に手にとって見れば良かったのに。
とりあえずそんなヤツには構うことなく、俺は本来の持ち主の手に人形を返した。

「よくできているね、キョーコちゃん人形。一所懸命探していたところを見ると、大事にしているんだ。本当に二人は仲がいいねぇ」
「そういう訳では……厄除けだから毎日持ち歩くようにと言われているだけです」
「へえ、毎日持ち歩いているんだ?」
少しばかり驚いて聞くと、「そうしないとあの子がうるさいんです」と琴南さんは言い訳じみた肯定をした。
「厄除けかあ、いいなあ。キョーコちゃんが守ってくれるなんて効果がありそうだ。なあ、蓮、欲しいよな?」
「俺は人形を持ち歩く趣味はありませんから」
「そうか? 俺は欲しいけどな。今度キョーコちゃんに頼んでみるとするか」
「社さん?」
常よりも低い声で、蓮が俺の名を呼んだ。そんなに凄んだ声を出すぐらいなら最初から欲しいと言えばいいだろうに、こんなところで独占欲を発揮してどうするんだ。この捻くれ者め。

「それにしても最上さんは色々と器用だね。その人形、見せてもらってもいいかな?」
手にとって見てみたいという欲求に勝てなかったらしく、蓮が琴南さんに率直に申し出た。
「……どうぞ」

「だめぇぇぇぇえ!モー子さんっっっ!!!」
蓮に人形が渡されようとした時、この場にいる三人にとっては聞き覚えがありすぎる絶叫が響いた。
「それを敦賀さんに手渡したりしたらダメーーッ」

声の主は琴南さんに駆け寄ると、人形ごと彼女の両手を握り締めホッと息を付いた。
「良かったぁ、ギリギリセーフだったわ」
「……何がセーフだったのかな、最上さん?」
地の底を這うような声にギクリと肩を震わせたキョーコちゃんは、恐る恐ると言った体で蓮を振り返った。
「え、ええと、これはそのぅ、色々と事情がありまして……」
「ふぅーーーん?」
そんな答えで俺が納得するとでも?
……といった調子で、蓮は刺すような視線をキョーコちゃんに送っている。
「あの、実はこれ、厄除け人形なので敦賀さんが触れると効果がなくなってしまう可能性があるんですっ」
「へえ……俺が触ると人形が毒されるとでも言うのかな? 最上さんにそんな風に思われているなんてちょっとショックだな」
傷ついたと言うよりは、脅すような声音。本当にコイツはキョーコちゃんに関してはクッションなく感情を顕わにする。 
しかし誰に見られるか分からないこんな場所で本性を出して、『敦賀蓮』のイメージをダウンさせるなよ。
……とマネージャーとしては注意すべきなんだろうが、怒りの矛先がこちらに向くのは必至なのでとりあえず黙っておく。実際に誰かが通りがかってから考える事にしよう。

「毒されるなんてとんでもない! むしろ逆で、それに今の敦賀さんが人形を持っても全く問題はないんです。でも唯一この効果を無効にできるのはやっぱり敦賀さんだけなのでわざわざ危険を冒す必要はないですし、君子危うきに近寄らずと申しますか……」
「最上さん?」
何やら意味不明なことを必死に言い繕うキョーコちゃん。その彼女に綺麗過ぎるほどの笑顔で笑いかける蓮が恐い。
「えっ…とですね、その……」
「ちょっとキョーコ」
汗を流しながら墓穴を掘り続けているキョーコちゃんに、それまで沈黙を守っていた琴南さんが声を掛けた。
「え、何っ? モー子さん?」
蓮に対するのとは打って変わって、キョーコちゃんが反射的に嬉しそうな表情を浮かべる。
「アンタね、厄除け人形が元で厄を引き寄せてどうするのよ。敦賀さんもどうやらコレに興味があるようだし、ごちゃごちゃ言ってないで、この際だから一つ作って差し上げたらどう?」
「いや、俺は別に人形が欲しい訳では……」
「そんな事でいいのなら、お安い御用です!」
琴南さんの含みのある言葉に蓮が往生際悪く否定しようとしたが、その続きは胸をドンと叩いて請け負うキョーコちゃんに阻まれた。
「了解しました!早速、厄除け人形を作らせていただきます。社さんの型のお人形でいいですか?」

「どうしてっ!?」
「なんでそうなるのよ!?」
「なぜ俺っ!?」
三人に一斉に突っ込まれて、キョーコちゃんがたじろいだ。
「だって敦賀さんを守るガーディアンと言ったら、やはり『夜の帳』である社さんじゃないですか」
ガーディアン……『夜の帳』ってそういう意味だったのか。どちらかと言えば蓮のイメージに近い言葉だし、不思議に思っていたんだけど、なるほどな……と納得している場合じゃない!
「最上さん、俺は男の人形を持ち歩く趣味はないんだけど」
「俺としてもそれは極力遠慮したいよ、キョーコちゃん」
「単純にアンタの型の人形でいいんじゃないの?」
俺達の言葉に、キョーコちゃんが目を丸くした。
「え、だって私の人形なんて敦賀さんに差し上げても効果がなさそうだし、返ってご迷惑と言うか……」
「効果があろうとなかろうと、アンタの人形じゃなきゃ意味がないのよ!」
断言してキョーコちゃんに詰め寄る琴南さんを見て、苦笑する。
どうやらバレバレだな、蓮。まあ、あれだけキョーコちゃんを追い詰めれば感づかれるのは当然か。

キョーコちゃんは腑に落ちないといった表情で琴南さんを見たが、それ以上言ったところで水掛け論になると悟ってか、蓮に向き直って口を開いた。
「私の人形では敦賀さんを守るなんて、そんな大それた効果は期待できません。それで宜しければ作らせていただきますが……」
キョーコちゃんは困惑しきった顔で蓮を見上げ、小首を傾げる。
「本当にいいんですか?」
「まあ…正直なところ、俺はあまり人形には興味が無いんだ」
「そうですよね、男の人が喜ぶような物ではないですし」
やはりとばかりにキョーコちゃんが頷く。

「でも最上さんが心を込めて作ってくれるなら、俺は喜んで受け取るんだけどな」
ふわりと笑って答える蓮に、キョーコちゃんは目を見開き、顎に手を当てて少しの間考え込んだ。
「もし……敦賀さんが本当に嬉しいと思ってくださるなら、私、一針一針想いを込めて作らせていただきます」
真摯に言う彼女に、蓮は眩しいほどの神々しい笑顔を浮かべた。


「いいやぁぁぁあ、やっぱり敦賀さんに浄化されてるわーーっ!!モー子さん、ごめぇぇんっっ」
蓮がしっかりと約束を取り付けて二人と別れた後、後方から二度目の叫び声が聞こえてきた。
「あの声……キョーコちゃんだよな……?」
「そうですか? 気のせいですよ」
気のせいってお前……あれだけはっきりと聞こえてきたものが空耳の訳ないだろう。
口を開け固まっている俺に、蓮が済ました顔で答えた。
「必要な事は話し終えていますし、今俺達が行ってできる事もないでしょう。のんびりしていると次の現場に遅れますよ、社さん」
藪を突付いて蛇を出す気はないということか。理由はよく分からないものの、今の絶叫に蓮が関係しているのは間違いないし、オイシイ所はいただいて早々に退散という腹だな。
それにしても一体何が起こったんだろう。気になる。気にはなるのだが時間がないのもまた本当で……
「社さん、置いて行きますよ?」
蓮に再度促され、気持ちが固まる。

ごめんっ、キョーコちゃん……!
心の内で彼女に合掌し、俺は蓮の背を追って次の撮影現場へと足を速めた。

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