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「なんだって?」

まるでありふれた世間話でもするかのようにさらりと語った蓮の言葉に、思わず驚きの声を上げた。
「お前、キョーコちゃんに人形を作ってもらえなかったのか」
「そういう事になりますね」

確かに、あの日の別れ際でのキョーコちゃんの絶叫は何事かと気になってはいたけど、しかし約束が反故になるとは思わなかった。
キョーコちゃん……いくら何でも蓮を相手に勇者すぎるだろう。コイツは興味ないと言いながらも、キョーコちゃんの手作りの品を楽しみにしていたに違いないんだから。

「理由は聞いたのか?」
「聞くには聞いたんですが、よく理解できないんです。彼女の作った人形は俺の傍に置いておくと厄除けとして成り立たないらしくて、琴南さんの人形も浄化されて作り直す事になったと涙目で言われました」
……『浄化』って、何だそれ? キョーコちゃんの手作り人形には何が入っているんだ? 悪魔か、怨霊か、あるいは未緒か!?

「『敦賀さんは元々人形には興味がないようですから、厄除け効果がない物を差し上げてもご迷惑かと思いますので……』と、彼女なりの理由とやらを説明されましたよ」
「そっ、そうかぁ。それは残念だったな、蓮」
……としか、俺も言いようがない。事情は今イチ理解できないが、蓮がキョーコちゃん人形を手に入れ損ねたのは確かだし、話の内容からしてこれから先ももらえる見込みはなさそうだ。
「仕方ないですよ。元々彼女の好意でくれると言ってくれたものですから、無理強いするわけにはいきません」
「それはそうだが、お前楽しみにしていたんじゃないか」
「別に人形に拘わっていた訳ではありませんし、最上さんの気持ちが嬉しかっただけですからいいんですよ」
「…………」
「社さん?」
そうだな、確かに言っている事は正論だ、蓮。だがお前……あまりにも落ち着きすぎていて、返って違和感があるぞ。

「蓮」
「何ですか?」
「お前、何をもらった?」
「え?」
「彼女の性格を考えるに『そんな訳で敦賀さんにお人形をあげられなくなっちゃいました。ごめんなさ~い、てへ♪』なーんて感じで、今時の子っぽく軽く済ませるわけないよな。きちんと代替品が用意してあったはずだ」
「本当に想像力が豊かですね、社さん。色々な意味で」
「推理力と言ってくれ。なんなら裏づけをとってもいいぞ」
キョーコちゃんに聞けば一発で分かる事だからな。
そう付け加えると、蓮は小さく首を竦めてジャケットの内ポケットに手を入れた。

「分かりました。別に隠すつもりはなかったんですが」
「隠すつもりはなくても、話題が出ない限りはだんまりを決めこむつもりだったんだろう」
「それはまあ、わざわざ話すような事ではありませんしね」
済ました顔で言いながら、蓮はスッと携帯電話を俺の目の前に差し出した。不幸な経緯で使い物にならなくなった前機種同様、全く飾り気がなかったはずの携帯にぶら下っているのは、二本のチェーンがついたストラップだ。鎖の先には銀の飾りが付いている。

「いつも持ち歩ける物をという事で作ってくれたようです。最近はアクセサリー作りにも目覚めたそうですよ。いろいろと器用ですね、彼女は」
アクセサリー作りと言えば、アレか。蓮が手の込んだ仕掛けでキョーコちゃんに受け取らせた恐ろしく高額な石――憶測の域ではあるが、ほぼ間違いない――を使ったペンダントトップ。ワイヤーで手作りしたと聞いた時には驚いたよ。

常備品の手袋をはめて蓮の携帯を借りると、シャラリと二本の細い鎖が揺れて指の先から零れ落ちた。チェーンについている銀細工の飾りの内、一つは鍵の形をしている。そして、もう一つは――
「これ、お前のペンダントの飾りだよな……?」
蓮がプライベートの時には常に身に着けているペンダント。そのペンダントトップと同じ形の飾りが鎖の先で光っていた。
「最上さんは本当によく観察してますよ、実物もなしで簡単に作れるほど単純な形ではないと思うんですけどね」
「そうだな。見事なもんだよ」


――社さんはご存知ですか?
――いや、あれについては俺も特に聞いた事がないな。

蓮に返答をしながら脳裏に蘇ったのは、以前キョーコちゃんと交わした会話。あれは確か、蓮がスランプを克服した後のことで、ダークムーンの収録待ちをしていたキョーコちゃんと壁際で話をしていた時だった。

「女の子と違って、男同士だとアクセサリーについて盛り上がって話をしたりはしないからね。確かにいつも身に着けているから、思い入れはありそうだな」
「そうですよね。私も大切に持ち歩いているものがあるので、敦賀さんにとっても同じようにお守りみたいな物なのかなと思ったんです。あるいは……戒め……とか……」
「戒め?」
呟くように続けられた言葉をあえて拾って聞き返すと、キョーコちゃんはふるふると手を振った。
「あのっ、私が勝手にそう感じただけなので、勘違いかもしれないんですけど」
「いや、案外そういう意味合いもあるかもしれないな。あいつは自分に対して厳しすぎるぐらいだから……仕事にも、恋愛事にも」
最後の言葉を思い切り強調すると、意外にもキョーコちゃんはふと陰りを帯びた表情を見せた。
……これは、もしかして脈ありか?

「社さんもそう思いますか? 敦賀さん……スランプから抜け出す前は、雁字搦めに身体に巻きつく鎖が見えるようでした。誰も触らせないように心の奥深くに鍵をかけているようで、踏み込むこともできなくて……」

恋愛に関しては綺麗にスルーで、至極真面目に返されてしまったが……まあ、これがキョーコちゃんなんだし、こういう子だからこそ俺も、蓮とうまい事いって欲しいと思うわけなんだけど。
――今回の事では心配かけてしまったな、キョーコちゃんには。

「あのさ、キョーコちゃん。俺は蓮の心に踏み込む事ができるのは、キョーコちゃんだけだと思っているよ」
言おうとした言葉は、収録の開始を知らせにきたスタッフが来た事によって、伝える事はできなかった。


「蓮さまーーー!!」
元気な明るい声と共に春を思わせる桜色のドレスがふわりと宙を舞い、俺の思考はあっさりと中断された。軽々と抱き上げられたマリアちゃんは、嬉しそうに蓮の肩に手を回す。その向こうでは、目に鮮やかなショッキングピンクがペコリとお辞儀をした。……キョーコちゃんだ!

少しばかりの雑談をした後、キョーコちゃんに携帯を手渡すと彼女は一瞬不思議そうな顔をしたが、それが蓮の携帯だと気付くと、あっと小さな声を上げた。
「敦賀さん、携帯につけてくださってるんですね、ストラップ」
「ああ、とてもよくできていて気に入っているよ。早速愛用させてもらっている。社さんにも今、見せていたところなんだ」
優しげな眼差しで話す蓮に、キョーコちゃんが照れたようににこりと笑った。彼女は最近、驚くほど邪気のない子供みたいな笑顔をするようになった。可愛いなと率直に思う……が、こんな事は口が裂けても隣で微笑んでいる男には言えない。

「マリア様、そろそろお祖父様とのお約束の時間です」
アジア系の民族衣装を着た青年が音もなく歩み寄ると、マリアちゃんに恭しく声をかけた。
「それでは蓮様」
地面に下ろされたマリアちゃんは、スカートを優雅に摘むとチョコンとお辞儀をした。
「本物の蓮様とお会いするのは久しぶりでとても名残惜しいのだけれど、今日はこれで失礼しますわ」
「本物の俺?」
「ええ、いつもはお姉様がくださった蓮様人形が傍にいてくれるの。私、とっても幸せ!」
「そ……そうなんだ……良かったね……」
「蓮様ー、また近いうちに会いしましょうねー!」
手を振るマリアちゃんを見送る蓮の顔が、心なしか引き攣っている。多分、それは気のせいではないはずだ。1m以上もある自分に瓜二つの人形なんて、その存在を認めることすらかなり微妙な上に、それが好きな子の手作りで、違う女の子のところに身売りに出されたとなれば心中複雑極まりないだろう。

「……あのぉ、私もそろそろ失礼します」
「待って、最上さん」
「な……何でしょうか」
蓮の様子に何かあると悟ったのか、キョーコちゃんの声に緊張が走る。
「マリアちゃんの誕生日に君が贈ったリアルな俺の人形……あれも厄除けなのかな? 君の話だと、俺は人形の厄除け効果を無くしてしまうんだろう? そんな俺の人形を作っても意味がないんじゃないか」
「あ、それは問題ないです。厄除けを無効にしてしまうのは本物の敦賀さんだけですし、マリアちゃんにあげた人形は元々目的が違いますから」
何を言われるのかと身構えていたキョーコちゃんは、それが単なる人形についての質問だと思って安心したらしく、ツラツラと説明を始めた。
「目的が違う?」
「はい、そうですね、言うなれば『愛玩用』でしょうか」

…キョ……キョーコちゃんっ……何をどこまで考えて、そんな表現をするんだ! なまじリアルすぎる出来の上に贈り主に合わせた等身大では洒落にならんぞ、とそう考える俺の方が穢れているのか!?

「……ふーん……そうなんだ……『愛玩用』、ね」
ほら、やっぱりここにも穢れた男が一人っ。俺、今は蓮の顔を見たくないぞ! 気持ちが分かるだけに尚更怖い……!
「ねえ、最上さん」
「は……はいっ」
「俺にもやっぱり作ってもらえないかな」
言葉のにこやかな響きとは裏腹に、伝わってくるのはドス黒いオーラだ。蓮のヤツ、怒りを隠す気もないらしい。
「な……何をでしょうか?」
「最初に作ってもらえる予定だった最上さんの人形だよ。厄除けの効果はなしで構わないから……」
言葉を切った蓮に、ヤバイと思いながらも視線が吸い寄せられる。そこにいたのは、今までに見た事の無い壮絶さで、妖艶に笑う男……!
「君の等身大の人形を、『愛玩用』で作ってくれるかな。勿論一体だけの特注品で、俺の為だけにね」

「い……、い…っ、嫌あぁぁぁぁぁーーーー!!!」

キョーコちゃんの絶叫が高らかに辺りに響き渡った。
……蓮、お前最近は本当に見境ないぞっ。セクハラで訴えられる前になんとかキョーコちゃん落としてくれ! 頼むよ、本当に!

「どうして嫌なの?」
「おい、蓮!」
まだ突っ込むのか、お前……と、思わず待ったをかけようとした時、キョーコちゃんが蓮に向かって半泣きで訴えるように答えた。
「だって、敦賀さんにストレス解消用で苛められるなんて、本体の私にも影響がありそうで怖すぎますから~~っ!」

そう来たか……
それにしてもここまで言ってセクハラとすら認識されないとは、問題があるのは蓮のクリーンなイメージか、キョーコちゃんの無知なる純真さか。

「もう二度と敦賀さんの許可無く人形を身売りさせるような事はしませんので、どうかお許しを~~~」
叫びながら脱兎の如くキョーコちゃんは逃げ出した。

「蓮、お前キョーコちゃんのこと苛めすぎだ」
「少しはお灸を据えないと、俺の忍耐の方が持ちませんからね」
「こんなやり方ではなくて、もっと正攻法でいってもいいんじゃないのか?」
天下の敦賀蓮に好意を寄せられるなんて、世の女性達にとってはそれこそ天にも昇る心地だろう。
「正攻法では今の最上さんには通じるどころか、徹底的に歪曲して受け止められるか、拒否反応を示されるのがオチですよ」
思いがけず返って来た真面目な声に、蓮がそれなりに彼女の状況に対して配慮していることに気付く。愛を失っているキョーコちゃんにとって、真正面から示される好意は苦痛にしかならないのかもしれない。

「まあ、いいけどな。お前がジャイアンなことをしている間に、出来杉クンに奪われないようせいぜい気をつけろよ」
「……前向きに考えてみますよ」
分かっているのか、いないのか。当てにならないセリフを吐く蓮の指の隙間から、銀色のストラップが笑うように揺れていた。


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