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「Om Mani Padme Hum」のHINAさん宅より拾ってきました、「I LOVE YOU を訳しなさいバトン」。
内容は下記の通りなのですが……

ルール:その昔「I LOVE YOU」を夏目漱石が『月がキレイですね』と訳し、二葉亭四迷は『わたし、死んでもいいわ』と訳したと言います。さて、あなたなら「I LOVE YOU」をなんと訳しますか?もちろん「好き」や「愛してる」など直接的な表現を使わずにお願いします。

蓮キョ変換で小説を、ということで遅ればせながら参加させていただきましたv





「『I LOVE YOU』をどう訳すか?」
「はい、敦賀さんならどんな表現になるかなと思いまして」

5日ぶりに会った少女は開口一番、思いがけない質問をしてきた。彼女にはあまりにも不似合いな問いかけに、まさかと思いつつも念のために探りを入れる。

「最上さん、もしかして好きな人ができたとか……?」
「いいえ、とんでもありません」
きっぱりと言い切る彼女に、ホッと息を付く。この子は良くも悪くも、そう簡単に恋愛を受け入れはしないと分かってはいる。だが恋を否定したところで堕ちる時には堕ちるのだと身をもって知った俺としては、安心しきれないのも実情だ。
俺の心の内の葛藤など全く気付かずに、彼女は話を続けた。

「先日お話ししたドラマの収録が、午前中にあったんです」
「ああ、携帯小説をドラマ化した話題作に出演する事になったんだよね」
「はい。そこでスタンバイしている時に共演者さんに聞かれたんです。夏目漱石はこの言葉を『月がキレイですね』と訳したけれど、君ならどんな風に訳すかって」
「……それは男の人から聞かれたの?」
「はい、そうですけど」
何事もない様子で返事をする彼女に、思わず眉根が寄る。

「どんな人…?」
必要以上に低くなりそうな声を理性でコントロールして、情報を得る事を優先させた。

「主演の俳優さんで、小谷隆一さんです。敦賀さんもご存知かもしれませんが、すごく仕事に対して真面目な人で色々と教えていただいています」
小谷……確か1年ほど前に共演した覚えがある。俺よりも2、3歳年上で、実直な感じの男だったが……!

「小谷さんの意訳は『君に話したい事がたくさんあるんだ』でした。在り来たりだけど精一杯の告白かな、って照れ笑いをして……真面目な小谷さんらしいなと思いました」
「それで、君は何て答えたんだ?」

社長に『愛の欠落者』と言わせる彼女が、小谷に対してどんな答えを出したのか……出す事ができたのか。
最上さんは俺の問いに、一瞬困ったような笑みを浮かべた。

「私は答えられなかったんです。丁度、撮影が再開したものですから。でも他の皆さんが色々な解釈で訳されて、興味深かったですよ」
「他の皆さん?」
「はい、私の他にも何人かの方が一緒に休憩をしていたので……ど、どうしたんですか、敦賀さん!?」

がっくりと肩を落とした俺に、最上さんが慌てて声をかけた。全く、この娘はどうしてこう無意識に俺を翻弄するのだろう。質問にかこつけた告白かと、緊張してしまった自分があまりにも滑稽だ。

「いや、何でもない。ちなみに他の人はどんな答えだったの?」
「え…と、例えば『世界はバラ色だ』とか、『綿菓子の上を歩いているみたい』。あとはダイレクトに『俺について来い』とか。性格が出て面白いですよね」
「そうだね」
片思いと両思いとではニュアンスも変わってくるのだろうが、それでも個人の感性の違いというものは確かに伝わってくる。

「それからちょっと捻ったところでは、『指折り数えています』でしょうか」
「指折り?…ああ、そうか……」
「敦賀さん、分かるんですか?」
小首を傾げて聞く最上さんに、「勿論」と笑いかける。

「あと何日であの人に会えるとか、今日は目が何度も合ったとか、そんな些細な事を知らず知らずの内にに数えてしまう……そういう事だろう?」
「はい、そうです!流石ですね、敦賀さん。一流の俳優となると、そういう微妙な心の動きもきちんと把握されているんですね!」

流石も何も、俺自身が君に対してそういう心境にあるのだと、そう言ったらこの子はどんな顔をするだろう。今、既に顔を合わせていながら次に会える日はいつかと数えてみたり、他の男とどのぐらい話していたかをチェックしてみたり……もっとも後者に関しては言わぬが花と言うヤツだ。

「それで、最上さんならこの言葉をどう表現するんだ?」
「私ですか?」
「ああ、君の訳を聞いてみたいな」
「……本当に、聞きたいですか……?」
ドロドロとした空気を纏い始めた彼女に、やはり愛の欠落者は健在かと、若干の諦めと共に再認識する。

「私にとって『LOVE』と言う単語は、破滅・絶望・自己満足・迷走・悪夢・禍根・後悔・盲目・混乱等、マイナスの意味合いを持つ言葉しか思いつきません」

思いつかないって、何もそこまで丁寧に負の言葉を羅列しなくてもいいだろうに。この子は、妙に几帳面なところがある。

「もっとも『結婚は墓場だ』なんて言う人も世の中にはいますから、まるっきり世間の定義と外れているわけではない気もしますが」

そんな人生に疲れきった男が言うようなセリフを、世間の定義にしないで欲しいんだが……。もっとも例え一般論がどうであろうと、この子は己の考えを曲げるような子ではないけれど。

「でも気付いてはいるんです。それを肯定していては、前に進めないという事を」
「……え…?」
ネガティブな発言が続くのだろうと斜に構えていた俺は、思いがけない彼女の言葉に耳を疑った。

「私は愛情というものに対してマイナスのイメージしかもっていません。だけど全ての人にとって、それが当てはまるわけではないという事も分かってはいるんです」
最上さんは目を細めると何かを思い出したのか、ふっと柔らかく微笑んだ。

「お世話になっているだるま屋のご夫婦は傍で見ていても強い絆で結ばれていると感じますし、先生は奥様をとても想ってらっしゃるのがお話だけでもよく伝わってきました。確実に育つ愛情もあるのだと知ったんです」
「最上さん……」
「私がラブミー部に入ったのは、人としての感情を取り戻すためでした。だからここで破滅的な持論を振りかざしていては成長できません」

驚いた……と言うのが、正直な感想だ。彼女は頑なに愛情を否定し続けていると、そう思っていたから。

「では君は、答えを見つける事ができたのか?」
「いいえ……他の人の意訳を聞く分には、感覚的に理解できるんです。でも、自分の言葉として出てこない。浮かんでこないんです」
「人を愛する自分が想像できない?」
「そう…ですね。そういう事かもしれないです」

うーん、と考え込んでしまった最上さんの様子に、彼女が思った以上に真剣にこの問いについて向き合っている事が感じられる。

「敦賀さんに聞けば何かを掴めるかもと思っていたんですが、やっぱり私には無理なんでしょうか」
「どうして俺に聞こうと思ったの?」
「えっ?」
最上さんがパチクリと、さも意外そうに瞬きをした。

「どうしてと言われましても……敦賀さんしか思い浮かびませんでした。敦賀さんならどう訳すだろうと、そう思って」
「君が考えを改めるきっかけになった下宿先のご夫妻や、君の先生の方が的確なアドバイスをしてくれるかもしれないのに?」
「あ……!」
最上さんは一言声を上げると、叱られた子犬のようにしょぼんとうな垂れた。

「すみません、甘えすぎですね、私。何かと言えばすぐに敦賀さんに頼ってしまって」
「いや、それば別に……」
「…ごめんなさい…っ」

謝らせるつもりで言ったわけではない。にも拘らず、この子はいつも早合点をして落ち込んでしまう。

……いや、悪いのは俺なんだろう。自分の一方的な想いで嫉妬をしたり、欲しい言葉を得ようとむやみに追い詰めたり。それでいて手札はしっかり隠しているのだから、この子が誤解をしても無理はないんだ。
ふうと息を吐いて、俯いた彼女へと視線を移した。

「こら」
人差し指でトンと軽くおでこを突付くと、最上さんは大きな目を見開いた。

「思い込みで突っ走らない。君が頼ってくれるのを、俺は嬉しいと思っているよ」
「ご迷惑では…ないですか」
「とんでもない。だからその事で悩む必要はないから」
「本当ですか?……良かった……」
最上さんはほわりと、はにかむ様に微笑んだ。

彼女はいつも百面相をしているような喜怒哀楽の激しい子だが、こんな風に気を許した笑顔を見せてくれるようになったのは、それほど前の事ではない。警戒心のない、庇護欲を感じさせるその表情は、男の前で見せるにはあまりに危険だという事に気付いてはいないだろう。

君への愛の言葉を語れと言うなら、胸の中に幾らでも溢れている。時に春の陽だまりのようなそれは、時に一転して吹きすさぶ嵐となって全身を駆け巡る。油断すれば自分さえ飲み込んでしまいそうな、制御不能で不安定な感情。

でもそれを取り出して見せたなら、君はきっと怯えてしまうだろう。
だから――

「笑って欲しい、かな」
「え……?」
「『I LOVE YOU』の意訳だよ」

俺から何かを掴み取ろうとしいる君に、言葉を飾るのは不適切な気がした。見失った感情は決して特別なものではなく、身近なところにあるのだとそう感じ取ってくれたなら。

「シンプルすぎて、ご期待に沿えていないかな?」
「い、いいえ、そんな事ありません!」
きょとんと俺を見ていた彼女が、弾かれたように慌てて首を振った。その様子にふっと口角が上がる。

「君は感情表現が豊かで見ていて飽きないけれど、やっぱり笑顔を見せてくれるのが一番嬉しいな」
「は、はあ、そうですか……」
真っ赤に頬を染めた君は、俺の言葉の意味するところにはまだ気付いていない。

――望むのは君の笑顔だけ。

だからね、笑っていて?
それが俺から君へのI LOVE YOU。

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