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前回の「I LOVE YOU を訳しなさいバトン1」で、バトンのテーマに合わず外したエピソードを分岐話としてUPします。内容的には1の続きとなりますが、テーマとしては別物となります。





「私にとって『LOVE』と言う単語は破滅・絶望・悪夢等、マイナスの意味を持つ言葉しか思いつきません」

そう断言した彼女が、俺に「I LOVE YOU」の意訳をして欲しいと言う。

「なぜ俺に?」
疑問を投げかけると、最上さんは空気の抜けた風船のようにしょんぼりと沈み込んでしまった。

「甘えすぎですね、私。何かと言えばすぐに敦賀さんに頼ってしまって。すみません……」

少しは俺を意識してくれているのだろうか。そんなささやかな期待をして言ってはみたものの、やはり事はそう上手く運ばないかと、あまりに彼女らしい答えに心の内で嘆息する。

「最上さん」
呼びかけると、彼女はひどく申し訳なさそうな面持ちでそろりと俺を見た。

「君が頼ってくれるのを、俺は嬉しいと思っているよ。だからそんな風に落ち込まないで」
「でも、ご迷惑ではないですか」
不安に揺れる瞳が、おずおずと尋ねる。

「君に相談される事を迷惑だと思ったことはないから。だけど、もし俺を気遣ってくれるというのなら、一つ頼みがあるんだ」
「何でしょうか」
「笑ってくれないか」
「え?」
最上さんが狐につままれたような表情で、疑問の声を上げた。

「君が笑ってくれるなら、俺はそれだけで幸せだから」
「あ、あの……」
「他の誰でもない、君だけが俺に幸せをくれる」

戸惑う彼女の傍に近づき、俺の肩よりも更に下にある耳元へと顔を寄せる。小さく息を吸って、一言最上さんに囁いた。

「I love you」

柔らかな髪が触れそうな距離で発した言葉は、思いがけず僅かに掠れを帯びた。最上さんは、時が止まったかのようにピクリともせずに下を向いたまま動かない。肩を指先で軽く叩いて促すと、彼女は恐る恐るといった体で顔を上げた。

「あの……」
「笑っていて。それが俺の意訳だよ」
「意訳…?」

見詰める眼差しににっこりと頷く。すると最上さんは俺の胸に両手を付いて、勢い良く背後へと飛び退いた。

「つ、敦賀さんっ、演技過剰です!普通に答えていただければ、それで十分に理解できますからっ」
「本当に理解できる?」
「勿論です!それにこんな言い方をして、おかしな勘違いでもしたらどうするんですか」
「おかしな勘違いって…?」
鸚鵡返しに聞くと、最上さんは「うっ」と言葉を詰まらせた。

「何でもありませんっ、聞き流してください…!」
ぷいと横を向いて話を打ち切ろうとする彼女に、わざと大仰に肩を竦めた。

「そう。……まあいいけどね。勘違いするのは君の勝手だ」
「な…そんな言い方…っ」
「おや、俺には聞き流せと言いながら、君は流せずに食いついて来るんだ?」
腕を組んで冷めた視線で見下ろすと、彼女は真っ直ぐに下ろした両手をぎゅっと握り締めた。

「こんなの、敦賀さんらしくありません…!」
「あいにくだけど、俺は君の中にある俺のイメージがどんなものかは知らないんだ」
「敦賀さんっ」
「正直なところ、君が『勘違い』するのは一向に構わないと思っている。むしろ俺としては大歓迎だね」
「だ、大歓迎って……ふざけないで下さいっ!」

最上さんは声を張り上げるとキッと上目遣いに俺を睨みつけた。最近の彼女にしては珍しいなと、出会った頃のことをふと思い出す。

「ふざけてもいないし、君を怒らせるつもりもない」
「ではどういうつもりなんですか!?」
怒りに震える肩に両手を置き、彼女の眼を真っ直ぐに見詰めた。

「君の言う『勘違い』が実は『真実』だと、そう考えてみる事はできないか?」
「そんなの、性質の悪い冗談としか思えませんっ」

最上さんはうっすらと涙を浮かべて、搾り出すように言葉を返した。その様子に、拗ねてこのまま追い詰めてみたところで欲しいものは遠のくばかりだと悟らざるを得なかった。

この子を泣かせたくはない……悲しませる事が目的ではないんだ。

「性質の悪い冗談か。どうせ冗談だと思うなら、いっその事笑い飛ばしてくれないか?」
「敦賀さん…っ」
「もっともそれはそれで複雑だろうけどね」

言いながら、思わず自嘲の笑みが浮かんだ。俺の好意を受け入れて微笑む彼女よりも、やはり冗談だったんですねと笑う彼女の方があまりにも容易に想像できて。

彼女の肩に置いた手を力なく下ろすと、右腕に温かみを感じた。温もりの場所に視線を移すと、まるで引きとめるかのように最上さんが両手で俺の腕を掴んでいた。

「敦賀さん、なんだかおかしいです。どうしたんですか?私、敦賀さんを怒らせるような事をしてしまったんでしょうか」
「なぜそう思う。怒っていたのはむしろ君の方だろう?」
「だって……」
最上さんは次の言葉を探るように、数秒の間黙り込んだ。

「敦賀さんはむやみに挑発めいた事を言うような人ではないと思います。何か理由があるんじゃないですか」

ああ……どうしてこの子はこうピンポイントに鋭いのだろう。俺の気持ちには気付かないくせに、俺の感情にはひどく敏感で本質を鋭く突いてくる。

「……確かに理由はある。ひどく身勝手な理由だけどね」
「どんな理由ですか?」
「聞いても面白い話ではないよ」
「それでも、訳も分からずにもやもやとした気持ちでいるよりはずっとマシです……!」

「だから話して下さい」と覚悟を決めた表情は、燃えさかる火に自ら飛び込むウサギを連想させた。この子には防御本能というものがあるのだろうかと、心配になるほどの潔さ。何事にも真っ直ぐに体当たりで……だからこそ、そのベクトルで彼女の意識が他の人間へ向かう事が恐ろしい。

「嫌だったんだ。『Love』という言葉に対して、君が他の男の事を連想するのが」
「え…っ」
「彼を連想したからこそ、君は考えを改めようと思ったんだろう?」

最上さんはギクリと身体を強張らせた。ここで正直に態度に出てしまうところが彼女らしい。燻っていた火に油を注いだのだから、もう少し構えておくべきだろうに。

「な、何のお話でしょう……っ」
「君にとって『愛』の定義は破滅や絶望だ。それを『I LOVE YOU』と直訳するなら答えは簡単に出る」
腰が引け気味の少女に一歩近づくと、彼女は同じ距離を後方へと後ずさりした。

「『あなたに絶望を味合わせてあげる』だ」
「………!」
「気付かないと思った?」
最上さんはゴクリと息を飲んだ。

彼の話題は俺の逆鱗に触れると、彼女は経験上知っている。だから恐れて口を閉ざす。……その理由を見極めようともせずに。

「なるほど、愛情と憎しみは紙一重とはよく言ったものだね」
「そんな事ありませんっ」
皮肉を込めて放った言葉に、最上さんが叫ぶように否定した。

「絶対に、絶対にありえません!考えるだけで鳥肌が立ちますっ!想像したくもありません!」

ブンブンと頭を振る彼女の気持ちに、偽りはないと分かっている。だが、反応が大きければ大きいほど彼女の中の彼の存在を殊更に感じてしまうのも事実だ。

「……俺もね、嫌だと思ったよ。もしかしたら君以上に」

そう、嫌だった。
引き合いに出されたのが日本語だったなら、これほどのわだかまりは抱かなかったのかもしれない。

I love you.

子供の頃から馴染みのある、優しい感情を伴った響き。それが彼女にとって他の男を連想するきっかけになるなど耐えられなくて、彼よりも先に俺を思い出して欲しいと単純に願ってしまった。

だから彼女に伝えた。
俺の想いを、俺が本来使っていた言葉で。

「君に笑って欲しい」。それはまぎれもない心からの願い。
けれど、「俺だけを見てくれ」と叫ぶ心の声は、君にはまだ届かない。

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