更新履歴


カテゴリー


タイトル一覧


リンク


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
「笑わないで下さい!」
「最上さん…?」
「お願いですから、笑わないで下さい…!」

敦賀さんに必死の思いで訴えた。この人と本気で向き合いたいとようやく決心したのに、形ばかりの笑みで話を逸らされたくはない…!

「敦賀さんは本音を笑顔で隠してしまう。誤魔化してしまう…!それでは嫌なんですっ」
「俺は君を誤魔化そうとなどしていないよ?」
「私はあなたから見て、そんなに鈍く見えますか…?私だって気づいていたんです。あなたがずっと前から、悩み事を抱えていたことを」

少し驚いたように、敦賀さんが目を見張った。形の良い唇をうっすらと開けたまま……おそらくは反論しようとしていた言葉を呑みこんで。

「私には何の力もないけれど、それでも敦賀さんを少しでも支える事ができたならと思っていました。だけど……だけど敦賀さんは、『何でもないから』と穏やかな笑顔で牽制して、私の言葉を封じ込めてしまう。これ以上探るなと突き放してしまう…!」

――寂しかった…ずっと……

深く尋ねることを禁じられて、それをする資格がない事を思い知らされて……私は笑うしかなかった。
敦賀さんに合わせて同じように微笑み返せば、苦悩を秘めた瞳の上に穏やかな光が浮かんだから。

だから私は笑い続けた。知らない振りをして、気づかない素振りをして、精一杯微笑んだ。そうする事しかできなかった。

でもそれは、決して交じり合う事のないガラス越しの対話をしているようで、縮まる事のない距離に切なさは増すばかりだった。

「ちょっと待って、最上さん。俺は何も隠す気はない」
「そんなはずありません!今もご自分をずるいと認めた上で、笑顔で話を終わらせようとしたじゃないですか!」

笑ってうやむやにするのは、敦賀さんの常套手段だもの。さっきの何か意を決したような、思い切りの良さすら感じる笑顔……あれを受け入れたら、私は伝えるべき想いを一言も口にできないまま永遠に封じられてしまいそうな気がする。

「敦賀さんはかつて私に『笑って欲しい』と告げてくれました。でも私は欲深くて、どうしてもそれだけでは満足できないんです」

敦賀さんが笑ってくれれば、勿論私も嬉しい。幸せそうな笑顔を浮かべてくれたなら、私の心まで満たされて温かくなる。

でも心の防壁を作る為に敦賀さんが微笑むのなら、私はそんなものはいらない。だから……!

「私は、あなたの笑顔の先を知りたいんです…!」

心の中で何度も叫び続けた言葉。
あなたに伝えたい、ただ一つの願い。

私が見つけた……答え……!

「……笑顔の先……?」
「これが私の『I LOVE YOU』です……敦賀さん」

泣きそうな気持ちで敦賀さんを見上げた。

叩きつけるように心臓が早鐘を打っている。耳鳴りのように響くそれが、まるで身体全部で鼓動しているかのように感覚の全てを支配していて、息をすることさえ忘れてしまいそうになる。


「お、れ……?」

長くて短い静寂の時を破ったのは、零れ落ちた独り言だった。私にと言うよりは、まるで自分自身に問いかけるような、戸惑いを含んだ呟き。

「笑顔で隠した俺の気持ち……?」
スローモーションの映画のようにゆっくりと、敦賀さんの右手が彼の顔を覆った。

「そんな物を知ったら、君は俺に愛想がつきる……碌な物じゃ…ない……!」

いつも冷静な敦賀さんらしくない、呆然とした表情と吐き出された言葉。そこにあるのははっきりとした苦悩の色だった。

知りたいと願ったのは私。
受け入れたいと求めたのも私。

でも敦賀さんは……?

自分の一方的な想いを押し付けて、それが正当であるかのように振りかざして。そして私は敦賀さんの触れられたくない領域に土足で踏み入ろうとしている……?

身体中から、熱が一気に引いていく。

「……ごめん……俺は君が思っている以上に、汚くて卑怯な男だから…」
「そんな事…ありません…っ」
自分を貶める敦賀さんに頭を振り、喉元を込み上げてくる熱い固まりを必死に飲み込んだ。

『ごめん』……それが敦賀さんの答え。

分かりきっていた結末、当然のフィナーレ。
僅かな可能性を期待した心は、なんて浅ましかったんだろう。

「わ…私のような者を傷つけないようにと、ご自分を悪く言う必要なんてないんです!思い上がるなと突き放してくださっていいんですっ。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!!」

敦賀さんに不快な思いをさせてしまった事を謝りたくて、ブンと思い切り頭を下げた。本当はもっときちんとお詫びするべきなのかもしれない。それこそ土下座をして、敦賀さんの許しを得るまで何度でも。

だけどこれ以上この場にいるのは余りにも辛くて、ごめんなさいと心で叫んで踵を返す。早く立ち去ろうと足を踏み出した時、後ろから強く腕を捕まれてバランスを崩した。
先に行こうとする気持ちとはうらはらに身体の重心が後方へと移動して足がもつれる。転ぶと思った瞬間、長い腕に身体を支えられた。

「逃がさないよ……?」
背中越しに低く囁かれた声に、全身が総毛立つ。言い捨てて逃げる気かと責める響きに、サーッと血の気が引いた。


関連記事

Powered by FC2 Blog
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。