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「離してもらえますか…」
「この手を離したら、君はこれ幸いとばかりに部屋を飛び出す気だろう?」
「そ、そんな事は…っ」
「ダメだよ、俺の話はまだ終わっていない」

私はもう終わってます。
敦賀さんのお返事もいただきましたし、もうこれ以上出過ぎたマネをする気はありません。

有無を言わさぬ雰囲気に押されて、それを実際に口に出す事はできずに心の中で呟いた。

苦しむ敦賀さんの力になりたいと言いながら、私自身がこの人を追い込んで傷口に塩を塗りこむなんて……自分が情けなくて、敦賀さんに顔向けができない。
それにこのままここにいたら、また余計な事を言ってしまいそうな気がする。

でも敦賀さんは容赦なく私の腕を掴んでいて、その手を振り切って立ち去ることなど到底できそうもない。
為す術もなく、瞼をぎゅっと閉じて下唇を噛んだ。

「教えてあげるよ……笑顔の裏で俺が何を考えていたのか、君がそう望むなら」

皮肉を含んだ声にビクリと心が震えた。後ろに立っている敦賀さんがどんな表情をしているのかは分からない。けれどその話が彼にとって決して喜ばしくはない、不本意な打ち明け話だということは容易に想像できる。
それなのに、なぜ私にあえて話そうとするの?

―――断罪……?

闇の中でひらめく閃光のように、いきなり頭に浮かんだ言葉。
それは今の状況を的確に表しているように思えた。詮索が過ぎた後輩にその事実をはっきりと指摘して、今後は分を弁えるようにと最後通牒を突きつけるんだろう。

告白してしまえば元の関係には戻れないと、覚悟していた。
想いを打ち明けたことも後悔はしていない。

それでも……敦賀さんの口からはっきりと決別を言い渡されると思うと、胸が潰れそうなほどに苦しい。

「君は否定したけれど、俺はもう君に気持ちを隠すつもりはなかった。本音を話さないと言う君に…俺をずるいと責める君に、それならば言ってしまえと思った」

感情が高ぶっていたとは言え、あまりの自分の暴言ぶりに今更ながらに身が竦む思いがする。

「不躾な後輩で、本当にお詫びのしようもなく…」
「ねえ、最上さん?俺の話を聞いて……?」

途中で遮られた謝罪の言葉。
私は謝ることすら許してもらえない……?

そう考えて、すぐに違うと頭を過ぎった疑問を否定した。
敦賀さんは例えどんなに怒っていても、謝罪の気持ちを持つ相手をむやみに追い詰めるような人ではない。

今の私に許されているのは、敦賀さんの話をきちんと受けとめる事だけ……多分、そういう意味なんだ。
自分に言い聞かせて敦賀さんに頷くと、掴まれていた腕があっさりと開放された。思わずホッと肩の力が抜ける。

でも……このまま敦賀さんの顔を見ないで話を聞くわけにはいかないわよね……

それは失礼にあたるし、表情が分からない分、余計に不安が増してしまう。

覚悟を決めて振り返ろうとした時、後ろから二本の長い腕が伸びて、胸の位置で私を囲うように交差した。そのままぎゅっと身体ごと引き寄せられて、敦賀さんに背中からぶつかり抱きとめられる。

な、なぜ……?

上半身に至っては全く身動きができないほどにしっかりと拘束されている状況に、じわりと冷や汗が滲んだ。

このまま聞いて……と、嘆願するような敦賀さんの囁きに大きく鼓動が跳ねて、辛うじてはいと返事をする。

「君は俺を大事だと言ってくれたけど……実を言うとこれについては俺も疑う気はなかったんだ。例え自意識過剰と言われようとも、それだけは自信を持っていたよ」

そんな……芸能界一のイイ男と言われる敦賀さんに対して自意識過剰だなんて単語、一体誰が使うと言うのだろう。

「だから俺は、君が俺に向けてくれる好意を利用しようと思った。好きな男に気持ちを告げる前に、わざわざ俺に報告をしに来たと言うなら、こんなチャンスはないと思い直してね」

コトンと肩に重みを感じ、何、と疑問に思うより早く、それが敦賀さんの頭だと気が付いた。ありえない状況に身体はピシリと硬直し、全神経が右肩へと集中する。

頬をくすぐる柔らかな髪、襟足をすり抜ける熱い吐息……これは何のイビリプレイですかと半泣きで問いたくなる。

「あ…の、敦賀…さん…」
「俺は君に告白するつもりだった」
「…え……?」

抑揚なく告げられた過去形の言葉。
混乱状態に陥っていた思考が、シャッターが落ちるようにパタンと麻痺した。言葉を反芻してみても、それは単語の形をなぞるだけでその本質が伝わってこない。

コクハクスル、ツモリダッタ……?

一体、誰が誰に何のために……?

「君を愛している。他の男の所になど行かないで、俺だけを見て……」

クワンクワンと耳鳴りがする。
淡々と語られる内容に、これは違う、単なる状況説明に過ぎないと心のどこかが冷静に判断を下す。

「もっとも……俺が告白をしたところで他に愛する男がいるなら、君は俺を受け入れはしないだろう。そんなに器用な事ができる子ではないからね…君は。だが同時に、傷心の俺を置いて自分だけが好きな男と幸せになろうなんて、そんな事ができる性格でもない」

クスリと耳元で聞こえた自嘲めいた笑いに、悪寒が背中を下から上へと一直線に駆け抜ける。

「君が踏み出すべき一歩を押し留めて、君が他の誰かに捧げる甘い言葉を封じて……俺に縛りつけようと思った。場合によってはどんな手を使ってもと……本当に、最低だ……」

私の肩に額を置いて、敦賀さんは搾り出すように言葉を紡いだ。

「俺はもうずっと長い間、君が欲しくて、手に入れたくて……狂おしいほどに君を求めていた。他愛ない話の中で他の男の名前が出れば嫉妬し、俺を異性と意識してくれない君に苛立ちさえ覚えて……こうなったら無理やりにでもと、暴力的な衝動に襲われたことだって数知れないんだ」

敦賀さんの口から語られるのは、あまりにも予想外な事ばかりで―――何もできずにただ呆然としている間に、一つまた一つと私に向けられたありえない程の心情が吐露されていく。

「でも無理やりに手を出せば、君は俺という存在を心から完全にデリートしてしまうだろう。それが怖かった。誰よりも君を護りたいのに、このまま俺を見てくれないなら、いっそのこと君を壊してしまおうとすら思う俺自身が許せなかった」

私を捕らえている腕にグッと力が込められて、強く抱き締められた。頬に当たる敦賀さんの顔が熱くて、その熱に焼かれそうになる。

「俺の身勝手な感情で君を傷つけて、君から笑顔を奪うことはできなかった……!」

ドクドクと高鳴る鼓動。ありえない現実が温もりを通して、これが真実だと伝えてくる。
このまま心臓発作で倒れてしまうかも……そう思った時、交差された腕がいきなり解かれて身体が離され、敦賀さんが後ずさりをする気配を感じた。

「敦賀…さん…?」
突然の開放に、疑問と不安が押し寄せる。

「君が知りたいと思ってくれた俺はこんなにも情けなくて浅ましい男だ。けれど…それでも、もう少し俺の話を聞いてみようと思ってくれるなら、こちらを向いてくれないか?」

背後から告げられる言葉に息を呑み、ゆっくりと敦賀さんへと身体を向けた。

仰ぎ見た敦賀さんの顔が、振り向いた瞬間に泣きそうなほど歪められたように感じたのは……きっと私の心が震えているせい。

「改めて言うよ。俺は君に笑っていて欲しい……俺の傍で、俺だけに笑いかけて欲しい」

―――笑って欲しい、かな
脳裏に蘇るのは、かつて敦賀さんが私にくれた優しい意訳。

「君の最高の笑顔を俺にくれないか?」

目からパタリと一つ、雫がこぼれ落ちた。
返事をしなければと思うけれど、胸が詰まって声が出ない。

だから溢れる気持ちをそのままに、敦賀さんに笑いかけた。

敦賀さんは一瞬固まったかと思うと、次には今までに見たことがないほど嬉しそうな笑顔を向けてくれた。少年のようなあどけなさすら感じるその表情に見蕩れて立ちすくんでいたら、ぎゅぅと敦賀さんに抱き締められる。

「それは…俺だけのものだよ?」
耳元で優しく囁かれた。

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