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タイミング 7

サラダや揚げ物など様々な料理が所狭しと並べられ、テーブルの上を賑やかに彩っている。
構わず箸を進めてくれとの言葉に頷いてはいたものの、実際には食べることも飲むこともせずに、蓮は切々と語りだした男の話に耳を傾けていた。

田中は俺達二人に説明するというよりは、まるで独り言を呟くように胸に抱いている想いを告白した。
決して大きなきっかけがあったわけではなかったのだ、と。

ただ気になって、元気に働く彼女を見ていたくて……それだけのためにこの一ヶ月間、毎日だるま屋に通い続けた。
彼女は店に出ない日も多かったが、その分、顔が見れた時には幸せすら感じるほどにいつの間にか惹かれていた。
真面目に一所懸命に働く彼女に気軽に声をかけることなどはとてもできずに、そんな小さな勇気さえ出ない自分に対して驚き戸惑う日々。
偶然出会った友人が彼女の知り合いだと知った時には、これこそは彼女に近づくために与えられたチャンスなのだと、単純に喜んでしまったと―――

感情の起伏を抑えて淡々と語るその様子が、返って田中が本気であることを雄弁に物語っていた。

「今日、社に会えたことは偶然ではなく必然だったのではと思うほどに俺は気分を高揚させていたんだ。滑稽だよな。実際は頼みの綱の友人に、諦めろとあっさりと引導を渡されたわけだから。しかもそれがまだ恋人でもない男のために、なんていう理由でさ」

田中は自嘲するように笑うと残っていたビールをグイッと飲み干した。

「そしてどうにも割り切れない俺は、こうして手強いライバル君と酒を飲むに至ったというわけだ」

話している間中、テーブルに落としがちだった視線を、田中はひたと蓮に据えた。
こんなことでは諦め切れないという意思を伝えようとするかのように。

「……ごめんな、田中」

俺はやりきれない思いで一言、友に告げた。
こいつの気持ちを知らなかったとはいえ、不用意な発言で傷つけてしまったことは確かだ。

「社、お前が謝る必要はない。こうやって俺の心情を説明したところでお前の方針は変わらないんだろう?それなら謝ってもらったところでなんの意味もないんだ。それにこれは飽くまで俺自身の問題であって、お前が気にかけることではない」

激することなく拒絶の意を告げる田中に返す言葉がなかった。
それはあまりにも明確な事実であり、俺の言葉など形ばかりの謝罪にすぎないのだと目の前に突きつけられた形だ。
結局のところ悪いと言いつつも俺は、蓮を応援せずにはいられない。
キョーコちゃんと知り合うことによって、色々な感情を見せるようになった彼のために…… 

「それよりも君は……敦賀君はどうなんだ」

意味がないと言うその言葉通りに田中は俺との話は早々に打ち切り、蓮に問いかけた。

「社は君をバックアップすると言っている。だが君自身は俺との会話の中で、彼女は後輩だという姿勢を崩してはいない。本当にそれが君の本心なのか?」

あまりに単刀直入にそして的確に切り込んでくる田中に、横で聞いている俺の方がギクリと身体が強張った。

実のところ蓮はキョーコちゃんへの恋心を認めてはいない。
それはアイツの気持ちをとっくに知っているマネージャーの俺に対してでさえそうだ。
蓮はキョーコちゃんに関連する話を振る度に困ったような顔で受け流そうとし、あるいはもう否定するのも諦めましたとばかりに溜息をついてみせる。
蓮が素直になれないのは遊び半分にたきつける俺にも責任があるのかもしれないが、彼女の話題になると「仕事の顔」が崩れるアイツが見たくてつい必要以上に囃し立ててしまう。

蓮はあまりにも謎すぎるから、俺は蓮のことをあまりにも知らないから、アイツの心の琴線に触れる「キョーコちゃん」をダシにしてしまう傾向はある。

だが最近は蓮も気が緩んできたのか、キョーコちゃんへの想いを匂わせる言葉を口にするようになった。
しかし、それでも彼女を好きだと明言したわけではない。
ダークムーンの撮影前とは違って彼女への恋心を自覚しているのは傍から見ていても明らかなのだが、その気持ちをいまだに肯定しないのは照れくささ故か、それともそれ以前に何か問題でもあるのか……

「確かに社さんは俺と彼女に対して細やかな気遣いをしてくれるので、とてもありがたいと感じていますよ。俺は最上さんを大事な後輩として目をかけていますから」

後輩として目をかけている、だって?
今そのお決まりのセリフをを言うのか?蓮!!

「俺があなたに言えるのはここまでです」

……って、ちょっと待て!!
この期に及んでそれはマズイだろう!
お前、キョーコちゃんをただの後輩で押し通す気か!?

「それは俳優・敦賀蓮としてのコメント?それとも一個人・敦賀蓮としてのコメント?俺は別にマスコミにこの話を流したりするつもりはないんだけどな」
「どちらと判断して頂いても結構です」
「ふぅーん………君も変わっているね……」

田中の声音が不穏なものへと変化していく。

「わざわざ滅多にない休日の日の晩に。下心を持って近づこうとしている男を牽制するために。芸能界一とも言われる俳優が、こんな大衆向けの居酒屋まで、車を飛ばして大急ぎで来れちゃうわけだ……たかだか一人の後輩のために!」
「それについては先ほど説明したはずですが。これも先輩としての勤めだと」

蓮……一体どういうつもりだ!?
こんな言い方をしたら、怒りの感情に火を注ぐようなものだろうっ。

「ふざけるな………っ」
田中が低く唸るように抗議の声を上げた。

「たかが先輩なら大人しく引っ込んでろ!」
「そうはいきません」
「なんだとっ……!」
「言ったでしょう。この俺が、誰よりも注目している後輩なんですよ?彼女は」
声を荒げる田中に動じることなく、蓮はきっぱりと言い切った。

「後輩、後輩ってさっきから言っているが、キョーコちゃんはLMEに勤めているといったところで君と違ってごく普通の平凡な女の子だろう!?君は君に相応しい世界でいくらでも華やかな女性を選べばいいじゃないか!」
「平凡……?最上さんが普通で平凡なんですか……?」

田中の言葉に疑問の声を投げかけると、蓮はさも可笑しそうにクスクスと笑い出した。



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