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共同戦線異状アリ

「ほら、いつもの頼まれ物だ。それにしてもなあ、社」
「なんですか?」
「お前、何で最上さんの予定なんて知りたがるんだ?」

一枚の紙を渡しながら訝しげに聞く椹に、疑問に思うのはもっともだよなと社は内心苦笑する。

「実は…キョーコちゃんと俺は共同戦線を張った同士なんですよ」
前もって用意しておいた説明を口にすると、椹ははぁ?と目を丸くした。

「蓮なんですが、アイツはあの体格にも係わらず、ひどく食が細いんです」
「ああ、噂には聞いているが、仕事に没頭すると何も食べないらしいな」
「没頭する云々の前に、まず食に対する興味がないんですよ」

困ったことにと首を竦める社に、そんなにひどいのかと椹が言葉を受ける。

「まあ、何事も身体が基本だし、栄養失調などで倒れられたら洒落にならんが…そんなに普段から食べないのか?」
「……それがですね」
ニヤリと社がしたり顔で笑う。

「食べるんですよ、キョーコちゃんの作った料理だけは残さず、きれいに」
「へぇー…確かにあの子の料理は美味いらしいが……何しろ腕を買われて、『きまぐれ』で料理コーナーを任されたぐらいだしな」
「え?」

何の話か分からずに、思わず社が聞き返す。その瞬間、椹がしまったとばかりに僅かに眉を顰めたのを、社は見逃さなかった。

そういえば……と、社は以前、少しばかり引っ掛かりを覚えたことを思い出す。今までに何度か椹からキョーコの予定表を受け取り、その回数を重ねるうちに気づいたことだ。

キョーコのスケジュール表に週に一度、曜日と時間帯がほぼ同じ仕事が組まれているのだが、それには決まってTV局や番組名などの詳細が書かれていなかったのだ。
おそらくはレギュラー番組なのだろうと見当をつけるも、キョーコからそんな仕事については聞いたことがなかったし、椹からは「もし俺の身を案じてくれるなら、それについては聞かないでおいてくれ」と鬼気迫る勢いで言われれば、それ以上訊ねることもできなかった。

「『きまぐれ』と言うと……」
「あ、いや、何だ!俺は行けなかったんだがクリスマスに社長の迎賓館で催されたパーティで、最上さんのレシピで作った料理が大絶賛されたという話を耳にしていてな」

案の定、微妙に椹が話題を変えてきたが、それについてはあえて探るようなことは控えた。下手に臍を曲げられて、彼女のスケジュール表が手に入らなくなっては意味がない。

「椹主任はパーティには行かなかったんですか。それは残念ですね。プロ顔負けでしたよ、キョーコちゃんの料理は」
「そ…そうか。あの日は家族とのホームパーティを優先させたからな。また同じような機会がある事を期待しておくよ」

必要以上に詮索されなかったことに安堵の溜息をつく椹に、今のうちにとばかりに社が畳み掛ける。

「そういうわけで料理上手で栄養管理に詳しいキョーコちゃんには、蓮も頭が上がらないんです。だから折に触れては俺と彼女の二人がかりで蓮に食事をするよう勧めているんですよ」

俺一人が口を酸っぱくして言うよりもよほど効果的ですしね、と付け加えると椹が妙に納得したように頷いた。

「流石の蓮も最上さんには抵抗できないという訳か。確かにここぞという時の彼女の迫力は、想像を絶するからなぁ」
「はは…そうですね」
蓮が抵抗できない真の理由は椹の思っている理由とは明らかに違うのだが、ここは黙っておくことにする。

「まあ、そういう事なら俺も協力するとしよう。最上さんの予定についてはお前に予め連絡するように手配しておくよ」
「助かります」
「……だが、一応念押しさせてもらっていいか?」

真面目な顔で言う椹に、社が何です?と促す。

「最上さんのスケジュール表を欲しいと言うのは飽くまで仕事上の事であって、個人的な事情で欲しいと言っているわけではないよな?彼女の上司として、これだけはきちんと確認させてもらうぞ」
「俺が公私混同するタイプに見えますか?」
「……そう見えないからと言って、それが真実であるとは限らない」

イイとこ突いてるな……とは思うものの、正直に理由を話すわけにもいかない。

LMEの看板俳優の敦賀蓮が、ラブミー部の最上キョーコちゃんにベタ惚れで、なんとか彼女に会わせてやりたいが為に予定表が欲しいだなんて。

職権乱用もいいところだ。

ちらりと目線だけで天井を仰ぎ見て少しばかり反省はするも、それはそれ。こちらにも都合というものがある。

いつも仕事に追われて休日などないに等しい蓮が、彼女の顔を見るだけで癒されて元気が出ると言うのなら、マネージャーとして便宜を図るのは当然だろう。

蓮が円滑に仕事ができるように骨を折るのが俺の仕事だ。だから何の問題もない。

そう都合よく割りきると、社はきっぱりと椹に言い切った。

「俺はLMEの社員として、職務を遂行しているだけです」

迷いのない口調で断言する社に「そうか」と一言言うと、椹は頭を掻いて苦笑した。

「俺も立場上確認せざるを得ないし、彼女とはデビュー前から関わっているから余計に責任を感じていてな。まさかお前が最上さんに対してそんな俗な感情を持っているとは思いもしなかったが……」
「椹主任が心配するのも当然です。ただ、俺とキョーコちゃんの事は蓮には伏せておいてください」

どうせアイツのことだ。これを知れば「余計なことはしないでください」なんて心にもないことを言うに決まっている。

キョーコちゃんと会えるかどうかで蓮の精神状態が変化するんだから、俺としてはこの情報があるとないとでは雲泥の差なんだ……!

「分かった。蓮としても決して面白くはないだろうからな、お前と最上さんが内密に連絡を取り合っているなんて」
「はは……そうなんですよ」

実際はそんな事実はないのだが、『共同戦線』というキョーコの予定表を手に入れるための方便を椹が都合よく解釈してくれている事をいいことに、社が頷いたその時。

「へぇぇー、面白そうな話ですね?社さん」

突然割り込んできた低い声に、社の背中にゾクリと悪寒が走った。

「俺、知りませんでしたよ。まさか社さんと最上さんがそんな関係になっているなんて」
いきなり現れてニコニコと眩いほどに光り輝く笑顔で社を見下ろしているのは、件の担当俳優である。

「ちょっと待て、蓮っ。お前何でここにいるんだ」
「社さんを探していたら、椹主任と話していると事務の女の子が教えてくれまして……ああ、そんな事よりも」

言葉を切ってにっこりと微笑むその姿に、黒いオーラが見えるような気がするのはおそらく社の思い過ごしではない。

「『俗な感情』って何のことですか?」
「蓮っ、お前適当に聞きかじって凄むなよっ。絶対何か勘違いしてるだろう!この俺が信用できないのか!?」
「信用ですか?勿論していますとも」

そんな剣呑な目つきで何言ってんだ、お前っっ!!
社が心の中で絶叫する。

いつもの冷静沈着な蓮なら、こんな単純な誤解などは決してしないはずだ。

げに恐ろしきは恋の病か……

蓮の迫力に青ざめている椹に一礼し、社は蓮の腕を取ると大股でタレントセクションを後にした。


十数分後、キョーコのスケジュール表を手に憮然とする社に、困り顔で頭を下げる蓮の姿が事務所の一室で見られたのは言うまでもない。

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