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それは、4月1日の出来事―――


あなたが好きです。

偶然出会ったテレビ局で不意打ちのように告げられた言葉。蓮はふっと微笑むと、小首を傾げた。

「一体何の冗談かな、琴南さん」
「なぜ冗談と断定されるんですか?」
「告白を受けるには、君と俺とでは接点が少なすぎると思うんだけどね。相手を間違えているんじゃないか?」
「いいえ。やっぱりあなたで正解でした、敦賀さん」
「そう。で、一体どんな思惑があるんだい?」

余裕綽々で訊ねる蓮に、別に裏があるという訳ではないんですよと、奏江はすまし顔で答えた。

「あえて言うなら、安全パイの確保とちょっとした親切心です」
「……と言うと?」
「画策をしたのは社長です。私達は言わば、被害者ですので」

『達』と言う言葉に蓮がピクリと反応し、その表情から悠然と湛えていた笑みが消える。

「社長は一体、君達ラブミー部にどんな課題を出したんだ?」
「話が早くて助かります」

奏江はその言葉とは逆に、うんざりといった表情をした。

「課題は『告白』です。愛を失ったラブミー部員が少しでもその感情を取り戻せるようにと、エイプリルフールである事を理由にして、誰でもいいから告白をして来いと言われました」
「誰でもいい…?」
「はい。但し、人選には気をつけるようにとは忠告されました。それを見極めるのも、また勉強の一つだと」

なるほどね、と蓮は腕を組むとコクリと頷いた。

「それで君は、勘違いされる心配のない安全パイとして俺を選んだと言う訳だ」
「ええ。敦賀さんのお陰で私の課題はこれで終了です。社長の話では告白する事に意義があり、嘘を見破られるかどうかは二の次だと言う事でしたから」
「それは何よりだね。お役に立てて嬉しいよ。…ところで君の相棒の最上さんは、その課題を終わらせる事ができたのかな……?」

挑むような強い視線に、敦賀さんに話しておいて正解だったようね、と奏江は心の内で安堵した。

「悩みに悩みまくっていますよ。『好きです』なんて『嘘』は親しい人には絶対に付きたくないし、嫌いなヤツには更に言いたくない、でもやる前から白旗を揚げるなんてもっと嫌っ……なんて調子でブツブツと呟いていましたから」
「そう……」
「終いには自棄になって、『せっかく大嘘をついても良い日なんだから、こうなったらあのバカに大仰な美辞麗句で盛大に告白してやろうかしら!どんな顔をするだろうっ』なんて言葉も飛び出す始末で……」

奏江の説明に、蓮を取り巻く空気が重く冷たいものへと変化した。

「彼女は今、どこに?」
「ターゲットを探して、近くをうろついているはずです」
「すみません、社さん!10分でいいので時間をもらえますか!」
「お、おいっ、蓮!」

返事を待つ事なく早足で歩き出した蓮に、社は「とにかく後を追おう」と奏江を促した。リーチの長い蓮に追いつく為に小走りをしつつ、奏江が社に話しを振る。

「もしかしてとは思っていましたけど………敦賀さんってずいぶん分かりやすい人なんですね」
「いや、いつもはここまであからさまではないんだけどね。組み合わせが悪すぎるかな」

『キョーコちゃん』が『不破尚』に『今日中』に『告白』だなんて本当にシャレにならないと、社は顔を顰める。

不破が騙されたフリをしてこれ幸いとばかりに手を出すような事があれば、蓮がどういう行動に出るのか想像するだけで体感温度が10度は下がりそうだと、最悪の事態を思い浮かべて社はブルリと身震いをした。

(例え相手が不破ではなかったとしても、他の男にキョーコちゃんが告白をするなんて、蓮が耐えられるはずがない。例えそれが嘘であろうと、社長の命令であろうと……!)

キョーコちゃん、頼むからまだ何も行動を起こさないでいてくれよと祈る気持ちで蓮を追っていた社に、残念ながら運命は味方をしてはくれなかった。


「あなたの事が好きなの…!」

蓮にようやく追いついたと思った瞬間に飛び込んできたキョーコの言葉に、社は己が耳を疑った。
立ち竦んでいる蓮の前方を見ると、そこにいたのはキョーコとそして……。

「飛鷹くん…?」
隣で僅かに息を切らせながら、奏江が小さく少年の名を呼んだ。

「お前な、まさかそんな子供騙しの手で俺が引っかかるとでも思ってるのか?」
「あら、お気に召さなかったかしら?」
「当たり前だろ!いかにもエイプリルフールです、みたいなセリフ吐きやがって!」

ビシィッと勢いよくキョーコに指を差すのは、一見小学生に見えるが中身は恋する中学生の上杉飛鷹だ。

「ごめんね、告白したのがモー子さんじゃなくて。あ、でもエイプリールフールに告白されたらそれはそれで微妙よね……」
「な、何を言い出すんだ、お前はっっ」

顔を真っ赤にして抗議する様子は、彼の想い人が誰なのかを赤裸々に語っている。

「ちょっと、キョーコ!なに飛鷹くんを巻き込んでいるのよ」
この場でただ一人、飛鷹の気持ちに欠片も気づいていない奏江がキョーコに言葉を放つ。

「モー子さんっ!」
「かっ、奏江っ?」

飛鷹とキョーコは同時に叫び、同じタイミングで声のした方へと振り向き―――同様にピキンと固まった。

飛鷹は奏江のことでキョーコにからかわれている様子を、当の本人に見られたが故に。
キョーコはいきなり現れた蓮が、キュラキュラと眩すぎる笑顔を自分に向けているのを目の当たりにしたが故に。

……固まらざるを得なかった。

「やあ、最上さん。ずいぶん楽しそうだね」
「い…いえ、あの……こんにちは…」
「俺も参加していいかな?………と言うよりも……」

蓮の笑みがスッと深くなり、冷てつくような妖しさを醸し出す。

「ああいう甘いセリフは、俺に言って欲しかったかな…?」
「め……滅相もございません……っ」

なぜ蓮がここにいるのか。
なぜこんなに怒っているのか。

キョーコには皆目見当もつかない。

親友の当惑している姿に奏江は溜息を付くと、蓮にピンクのスタンプ帳を差し出した。

「敦賀さんにはご不満かもしれませんが、私から告白させていただいたんですから、それでOKと言う事にしておいてください。これに証拠としてサインとスタンプをお願いできますか?」

特に感慨もなく事務的に言う奏江に、キョーコと飛鷹の二人が驚きの声を上げる。

「モー子さん、敦賀さんに告白したの!?」
「どういう事だよ、それっ!」

キョーコは驚愕の眼差しを奏江に向け、飛鷹は刺すような視線で蓮を睨んだ。

これ以上話がややこしくなっても仕方がないと、今まで沈黙を守っていた社が飛鷹に事情を掻い摘んで説明をする。その横ではキョーコが奏江に、目に涙を湛えて向き合っていた。

「モー子さん、そんな命知らずな事をしてよく無事で……っ」

感極まったように言うキョーコに、奏江は「別、にあっさりバレてそれで終わりよ?」とサラリと言葉を返す。

「ほ、本当に…?『演技で俺を騙せるとでも?』と笑顔で脅されたりしなかった?身も心も凍る大魔王や、無駄に色気のある夜の帝王も光臨しなかったの?」
「……ふうん、最上さんは俺をそんな風に見てるんだ」

奏江を心配する余り口を滑らせたキョーコに、蓮が不満そうに言葉をかけた。

「い…いえ、あの…別にそういうわけではっ…」
ワタワタと慌てるキョーコに、蓮は寂しそうに目を伏せる。

「残念だな………以前はともかく、今は最上さんと少しは良好な関係を築けていると思っていたのに、どうやら俺の勘違いだったようだね」
「そ、そんな事ありませんっ!」
「じゃあ、俺の気持ちを受け入れてくれる?」
「はい、もちろんです!」
「それは良かった」
「え?」

つい勢いで言ったものの、何か違和感を感じて首を捻るキョーコの右手を、蓮が恭しく手に取った。え?と驚いたキョーコはまず取られた手を、そして次に蓮の顔を仰ぐと、自分を見つめる二つの強い瞳に捕えられる。

「最上キョーコさん、君を愛しています。どうか俺と付き合ってもらえませんか?」

真っ直ぐな眼差しで。
怖いほど真剣な声で。
突然語られたその想いがキョーコの心に届くまで、数秒の間があった。

「え……ええっ…!?」
驚きの余り引っ込めようとした手を、蓮はしっかりと捕まえて離そうとしない。

「返事は明日聞かせてくれないか。君の心と向き合って、YESかNOか、きちんと答えを出して欲しいんだ」

硬直するキョーコにふわりと微笑むと、蓮は握り締めていた手を開放して社へと顔を向けた。

「そろそろ時間ですね、社さん。お待たせしました」
「あ……ああ」
「じゃあね、最上さん。明日を楽しみにしているよ」

奏江と飛鷹に簡単に別れの挨拶をすると、蓮は社を連れてその場を軽やかに立ち去った。

「い…今のってエイプリルフールの嘘よね……?でも明日答えを出すとなるとその答えは嘘ではなくなって、そうするとこの告白が嘘だと考えた場合、どういう意味でどう返事をすれば……」

残されたキョーコは呆然と、誰に言うでなく一人呟く。グルグルと思考が迷走する。
これはからかわれているだけなのだとそう信じたい一方で、先ほどの蓮の真摯な言葉と表情がそれを許してはくれなかった。

「モ……モー子さぁぁん、どうしよう~~~っ」

滂沱の涙を流して縋りつくキョーコに、奏江は「いよいよ年貢の納め時かしら」と、彼女にとってはあまり喜ばしくない事を考えていた。

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