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運命の悪戯って本当にあるんだな……とその時、社は思った。

「祥子さん、そんなに急がなくても大丈夫だろ」
「そうもいかないわよ。道路が混んでいたから不可抗力だとは言え、約束の時間まで5分を切っているのよ?もう……あと20分は早く入れると思っていたのに……!」

地下駐車場の出入り口から急ぎ足で現れた女性が、正面から歩いてくる蓮と社に気づき、ぎょっとした顔で立ち止まった。彼女の後ろから歩いてきた男もまた、同様に足を止める。

「やあ、不破君。奇遇だね」
「………よお」

穏やかに声をかける蓮に、尚が不愉快極まりないといった調子でおざなりに挨拶を返した。

「ちょ…ちょっと、尚…!すみません、礼儀知らずで……!」
慌てて頭を下げる祥子に、蓮が微笑む。

「いえ、構いませんよ。俺は今、この場所で不破君に会えて嬉しいと思っていますから」
「は?何言ってんだ、アンタ」
「尚…っ!」

思いがけない蓮の対応に喧嘩腰で答える尚を、祥子が引きつり顔でたしなめた。

「不破君、時間がないんだろう?もう行った方がいいんじゃないかな。マネージャーさんが心配しているよ」
「てめぇにどうこう指図される謂れはねぇ!」
「尚っ!やめなさい!」

いい加減にしなさいとピシャリと祥子に怒鳴りつけられ、尚は面白くなさそうに蓮から視線を外すと、プイと横を向いた。

「申し訳ありません。本当に時間が押しているもので、これで失礼いたします」

祥子は尚の腕を取ると、有無を言わさずにテレビ局内へと歩を進めた。二人の後姿を見送って、社が溜息混じりに呟く。

「20分………か。もし遅れることなくその時間に入っていたら、不破の方が先にキョーコちゃんと鉢合わせをしていたかもしれないわけだ」
「そうですね」

(琴南さんに愚痴ったように、もしキョーコちゃんが不破に対して告白まがいの事をして、更にそれを蓮が目撃していたなら……)

いやいやいや、そんな地獄絵図は想像もしたくない!と、社は頭を振った。

「社さん」
「な、なんだ………蓮」

今、思い浮かべた事を見透かされたかと、社の背中に冷たいものが流れる。

「彼と彼女は出会わなかった、それが全てですよ。運命の女神はどうやら俺に微笑んだようです」

尚が立ち去った方向を真っ直ぐに見つめてニコリともせずに語るその様子に、社は思っていた以上に蓮が尚を警戒していた事を知った。それだけ不破尚という存在は、この男にとって脅威なのだと改めて思う。

「そうか………そうだな」
とりあえず危機が回避された事は間違いなく、安堵した社の肩から、ふっと力が抜けた。

「しかし運命の女神も悪戯好きだよなぁ。どうせならキョーコちゃんが上杉君に告白をする前に蓮と会わせてくれれば良かったのに」
「………本当にそうですね………」
ピシリと幻聴が聞こえるほどに、蓮の周りの空気が劇的に変化する。

(え?これ、地雷だったのか?だって彼は……)
ちょっと待て!と社は内心で突っ込みつつ、極力冷静に言葉を返した。

「蓮………小学生ぐらいの子に目くじらを立てても仕方ないだろう。幾らなんでもオトナ気ないぞ?」
「そうかもしれませんが、正直言って面白くはないですよ」
「お前なぁ……」

本当に正直すぎる、と再び社が心の中で突っ込むと、蓮が小さく呟いた。

「………彼に対するように、最上さんは俺に話しかけてはくれませんから」

(ああ、そうか……)
少し拗ねたようなその響きに、社は蓮の言わんとしている事に気が付いた。

蓮と社が垣間見た飛鷹とキョーコの軽口の応酬は、不破とのそれを彷彿とさせた。少女のくだけた言葉遣いや生き生きとした表情は、蓮とキョーコの関係が上下関係を前提としたものだという事を改めて突きつける結果となったのである。

「俺の知らないところで、あんな風に彼女と親しげに話をする男がどれほどいるのかと思うと複雑ですね」
「男って………上杉君は子供だろう」
「いえ、彼はれっきとした『男』ですよ」

車の鍵を開け、運転席に乗り込みながら、蓮は社にきっぱりと言い切った。

「好きな女性を誰にも奪われまいと、そのライバルを敵意たっぷりに睨みつけるくらいにはね」
あそこまで率直に感情を向けられると、いっそ気持ちがいいですよと蓮は笑う。

(気持ちがいい…ね。上杉君の好きな相手が琴南さんだから良かったものの………もしキョーコちゃんだったら瞬殺されてたよな)

何事もなく済んで良かったと、社は胸を撫で下ろした。ともすれば大荒れの一日だったなと振り返り、まだ大きな問題が控えていた事を思い出す。

「そう言えば蓮、お前どうするんだ」
「何がですか?」
「何がって……いきなりキョーコちゃんにあんな告白をした上に、一方的に明日までなんて期限を決めて。分かっているだろうが日を跨いで答えをもらう以上、『エイプリルフールでからかっただけだ』なんてオチはつけられないぞ」
「当然です。別にオチをつける気はありません。本気で言いましたから」

断言する蓮を、社はちらりと盗み見る。前を見据えて運転している彼の横顔に、迷いの色はなかった。

「でもなぁ、やっぱり本気で言うには日が悪かったんじゃないか?嘘なんじゃないかって迷っていると思うぞ、キョーコちゃん」
「別にエイプリルフールだから嘘をつかなければいけないと言う事はないでしょう。少しは彼女にも悩んでもらいますよ」
「真面目なキョーコちゃんの事だから、今夜は眠れないほど悩むのは間違いないと思うけどな」

キョーコを気遣う社に「一晩ぐらいで済むならいいじゃないですか」といつになくドライに蓮が返す。どうやら飛鷹への告白に相当切れていたらしいなと、社は溜息を付いた。

「でもさ、蓮」
「何ですか」
「お前……YESかNOか、きちんと答えを出して欲しいってキョーコちゃんに言ったよな」
「言いましたが、それが何か?」
「キョーコちゃんの答えがYESならいいけどさ……もしNOだったらどうするんだ、お前……」
恐る恐ると言った体で聞く社に、蓮は事も無げに答えた。

「その時はせっかくのエイプリルフールですからね、このイベントを最大限に活用しますよ。『付き合って欲しい』という言葉を俺の嘘とするなら、彼女の答えが『NO』なら逆転して『付き合います』になるでしょう?」

(お前、それは屁理屈というものだろう……!)

そう思うものの、確かにキョーコちゃんならあっさりと言いくるめられてしまいそうだと、社はプリンセスローザの一件を思い出した。突っ込みどころ満載の御伽噺を未だに疑うことなく信じているのは、何事も無垢に受け止める彼女の性質故か、はたまた蓮への絶大なる信頼故か。

「………このペテン師め」
「褒め言葉として受け取っておきますよ」
悪びれることなく返す蓮に、社は苦笑する。

まあな、俺はずっとお前を応援してきたからいいけどさ、と社は恋する男の肩を軽く叩いた。


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