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タイミング 8

普通で平凡……それって一体誰の話なんだ!?

――俺のキョーコちゃんの第一印象は「とにかく変わった子」だった。

初めて会った時に彼女は足を怪我していて、蓮にお姫様抱っこをされて現場に連れられてきた。
蓮に抱かれ、あの甘いマスクを間近で見ようものならフツウの女性ならば腰砕けになるのは間違いないのに、キョーコちゃんときたら下ろしてくれと腕の中で大暴れをしていた。
万人に友好的な蓮に対し、彼は意地悪だと言い捨てる女の子……それだけでも青天の霹靂。
更には例え骨が折れても演技を続けるというど根性ぶりも目の当たりにして、顔面蒼白。

代マネを頼んだ時には無遅刻記録を守ろうと、あの大柄の蓮を自転車の後ろに乗せて二人乗りで都内を突っ走っり、追いかけるファンを振り切ったらしい。
時間ギリギリでロケ現場を目にした彼女は、最後の難関である何十段もの階段を自転車に乗ったままで猛ダッシュで走り降りた。
蓮は荷台で涙が出るほど大ウケしていたが、俺としてはキョーコちゃんとの自転車の二人乗りだけは切実に御免蒙りたい。

その他にも「200円入れたら動くおもちゃ」「メルヘン発言&大号泣」等々、付き合いが長くなるにつれて、更に新しい一面を見せてくれる。

そのキョーコちゃんが「普通で平凡」なのだとしたら、俺が今見ている世界はアクのある部分を何重にもオブラートに包んで誤魔化したまやかしの世界だろう。


「社さん」
田中のあまりの発言に呆然としていた俺は、蓮の呼ぶ声にハタと我に返る。

「彼は最上さんが京子であることを知っているんですか?」
「いや、知らないはずだ」
「そうですか」

蓮は納得がいったとばかりに頷き、田中へと顔を向ける。

「田中さん、キュララのCMを見たことは?」
「俺はあまりTVを見ないし、見たところでCMなど流し見だ。それが一体?」
「いえ、ビジュアル的に一番分かりやすいのがあれだったもので、ご存知ないのなら結構です」

何が言いたいと言わんばかりに不機嫌そうに答える田中に、蓮はいつもの温和な営業スマイルで話を続ける。

「最上さんはね、既にデビューをしているタレントなんですよ」
「キョーコちゃんが……?まさか!あの子は芸能界に入るとか、そういうタイプの子じゃないだろう?」

田中は蓮の言葉を一笑に付したが、それも無理はないのかもしれない。
この居酒屋で働いているキョーコちゃんしか見ていないのだから。

「人は外見だけで判断はできないものですよ。俺が所属しているLMEは最大手の芸能事務所と言われていますが、そのトップの座にある社長は業界でも切れ者として有名です」

そうなんだよなー、あの社長、あんな格好でも実力は半端じゃないんだよな。
人を見る目が確かで育てるのも巧い。
だからこそ今のLMEがあるわけなんだけど。

「最上さんはオーディション時に彼の目に止まり、社長自ら彼女を生かすために新しいセクションを立ち上げました」
「……まさか」
大げさに言っているのだろうと訝しげに眉をひそめて俺を見る田中に、大きく頷いて事実であることを伝える。

社長が新しく立ち上げたセクション、その名も「ラブミー部」。
他人に奉仕することによって愛を得ることを目的とし、それが果たせた暁には事務所の全面バックアップによるデビューが約束されている。
もっともキョーコちゃんは琴南さんとセットで自力でデビューを果たしてしまったけれど。

「彼女を社長の秘蔵っ子と言う人もいますね」

社長のオモチャともね……
つい最近もあのブラックホール胃袋で有名なクー・ヒズリの食事係に任命されてたしなぁ。

「そんな風にはとても見えない……てっきり事務所の職員だとばかり……」
キョーコちゃんのイメージが蓮の語るそれとはあまりにかけ離れているらしく、田中は思考がついていかない様子だ。

「デビューは先ほどお話したキュララのCMで、倍率の高いオーディションを勝ち抜いて得たものです。その後、彼女はあるミュージシャンのプロモーションビデオに出演して天使役を好演しています」

あるミュージシャン、ね。
名前も出したくないってことか。
でもキョーコちゃんが好演していることを知っているということは、DVDを見たってことだよな?
そうだよな、やっぱり見たいよなー、天使で女神様なキョーコちゃんだし。
うんうん、蓮も可愛いトコがあるよなぁ……

「その演技がきっかけで抜擢されたのがダークムーンです」
「ダークムーン?君が主演しているあのドラマか?」
今期一番の話題のドラマだけに、流石に田中も知っているのかすぐに反応を返した。

「あれは何度かチャンネルを合わせたことはあるが、彼女が出ているところなんて見た覚えがないぞ」
「そんなことはないはずですよ。彼女は主要人物の一人を演じていますから」
「主要人物って………」

田中は顎を乗せていた右手を外すと、指を一本一本折り始めた。
「ヒロインの美月に君が演じている嘉月、その婚約者の操に妹の未緒……他には……」
記憶を手繰るように指折り呟く田中に、蓮はニヤリと笑みを浮かべた。

「役名をよくご存知ですね。その様子なら最上さんの演技もしっかりとご覧になっているはずですが」
「キョーコちゃんの演技って、俺はまだ4人の名前しか……」

言いかけて、田中が口を噤んだ。
折った指を再度開き、また折り返す。
自分が言った名前を反芻し、当て嵌まる役を探り出すように。

「未、緒………?」
「正解です」

田中は大きく目を見開くと、数秒後大きな声で笑い出した。
「い、いくら何でも未緒はないだろう!!俺が彼女のことをよく知らないからと言って、からかうにもほどがある……っ」

父を、母を、姉を憎み、その婚約者と従姉妹さえもその憎悪の対象とする。
破壊的で全てのものの破滅を望む排他的な思考と行動……癖者揃いの登場人物達の中でも特に常軌を逸した少女。
未緒とはそういう役どころだ。

「冗談はやめてくれないか……っ!」
クックッと笑いながら尚も認めようとしない田中の背後で、トントンと襖を叩く音がした。

「失礼します。ずいぶん盛り上がってるんですね、田中さんの笑い声が聞こえてきましたよ」

現れたのは柔らかな笑顔を湛えたキョーコちゃんだった。


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