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「………奏江」

隣を歩く飛鷹に名前を呼ばれて、ストレートの黒髪の少女は彼のいる方向に僅かに首を傾げる。

「はい?」
「お前………なんで敦賀蓮を選んで告白したんだ」

奏江を見る事なく、前を向いたままで飛鷹は続けた。

「アイツ以外にも男は幾らでもいるだろう。何でだ…っ」

芸能界一イイ男、抱かれたい男№1。
そんな称号に奏江が惹かれたとは思えないが、それでも……と思うほどには、蓮は飛鷹の心をかき乱した。

芸能界において絶大な影響力を持つ祖父や両親の元で育った飛鷹にとって、上流階級と呼ばれる人物との交流は多く、人とは違う輝きを放つ存在というものも何度も直に目にしてきた。故に、その身から放つ光が本物か、あるいは名ばかりの模造品かを判別する鑑定者としての眼も、知らず培われていたのだ。

だからこそ焦り、奏江に問わずにはいられなかった。
敦賀蓮という男が持つ輝きは、数ある宝石の中でもその名に違わぬ最高級品だと感じたからこそ。

飛鷹の問い掛けに、奏江は「そうね……」と呟くと、口元に一本、折った指を当てた。

「なぜと言われれば、社長の娯楽に付き合う気がなかったからトラブルの起こる可能性のない相手を選んだ、と言うのが一番の理由だわ」
「なっ……!もし本気にされたら、どうするつもりだったんだ!」
「それはありえないと確信していたもの」

噛み付くように叫ぶ相手に、奏江はにっこりと笑ってみせた。

「仮にも『芸能界一イイ男』と呼ばれるような人が、私のような大して面識もない新人に告白されたところで、綺麗さっぱり断ると思ったし」
「そんなの分からないだろう?意外に女好きかもしれないじゃないか!上手い事、隠れて遊んでたりしてな」

むっすりと子供らしくないセリフを吐く飛鷹に、確かにそういう人もいるかもしれないけどと奏江は苦く笑う。

「でも、飛鷹くんも見ていたでしょう?……第二の理由はあの子よ」

言いながら、奏江は少し遅れて歩いてくるキョーコに視線を投げた。奏江と同様にショッキングピンクに身を包んだ彼女の横には、飛鷹のマネージャーが心配そうな顔で横についている。しかし自分の世界に引き篭ってしまっているキョーコはそれに気づいている様子もなく、まるっきり心ここにあらずといった調子だ。

「あの子から敦賀さんについて色々と話は聞いていたから、勘と言うよりはほぼ確信に近かったんだけど……でも、一度きちんと見ておきたかったのよ。敦賀さんがどの程度の気持ちであの子を構っているのかを」
「じゃあ、あの告白は冗談じゃなくて、本当にアイツの本心なのかっ?」

奏江は立ち止まると、声を張り上げた飛鷹の顔をスイッと覗き込んだ。

「飛鷹くんから見て、敦賀さんの言動は揶揄や演技に見えましたか?」
至近距離で尋ねる奏江に飛鷹はうっとたじろいだが、その真剣な眼差しに沸いた雑念を振り払う。『子役』と侮ることなく、常に『役者』として対等に接してくれる彼女にきちんと応える為に。

「……あれは本気だと思う。その場限りの嘘やからかいには見えなかった」
「…飛鷹くんにもそう見えたなら、間違いないって事ね……」

(単なる興味本位であの子に近づいている訳ではないようだけど、それはそれで色々と厄介な相手だわ)

不破がらみの話になると機嫌が悪くなるとキョーコに話を聞いた時からもしかしたらと思ってはいたが、飛鷹相手にまで嫉妬して告白にまで至った経緯を実際に目の当たりにすると、奏江は今後の親友の行く末に不安を感じずにはいられない。

(明日…もしあの子が断ったりしたら、一体どうなるのかしら……)

一見温厚そうなタイプほど、切れた時は恐ろしい。否、キョーコが恐れるほどの男なのだから、その本質が温厚であるはずもない。YESかNOか、突きつけられた二択。あの子はどちらを選ぶのだろうと、奏江はちらりと背後のキョーコを盗み見た。

「それにしても世の中に女はたくさんいるのに、なんで敦賀蓮はわざわざアイツを選ぶんだ。趣味悪くないか?」

飛鷹の言葉に、奏江は苦笑した。これが他の人間の口から出たセリフならその相手に対して奏江は容赦などするつもりはないが、どうやらキョーコに一目置いているらしい飛鷹の言葉となると、その裏にある彼女への畏怖のようなものも垣間見えて否定もできなかった。

「本当にね、なんでわざわざあの子なのかしら……」

いつも傍にいて暖かく見守り慈しんでくれる、そんなごく普通の幸せを与える事のできる人なんて幾らでもいるのに。なのに、あんな人に見初められたら、平凡な幸せへと続く選択肢はほとんどないと言ってもいいわ―――

一抹の不安を抱く奏江の心中を知らずに、飛鷹はなおも言葉を繋いだ。

「あの男、ほんっとうに趣味が悪いとは思うけど、でもな……」
「でも……?」
間を置く飛鷹に、自分の考えに耽っていた奏江は何とはなしに続きを促す。

「女を見る目はある。それだけは認めてやるよ」

プイとそっぽを向いてぶっきらぼうに言い放つ飛鷹に、奏江は小さく目を見張るとふわりと柔らかな笑みを零した。嬉しそうな笑顔を横目に見て、飛鷹が頬を染める。

……奏江に目が向かないあたり、敦賀蓮もまだまだ青いとは思うけどな。

呟いた小さな声は奏江に届く前に、背後から突進してきた絶叫にかき消された。

「モー子さぁぁぁんっっ」
「な、何よいきなりっ」
「どうしよう~~やっぱりからかわれただけよねーー!?」

今まで自分の殻の中に閉じこもり、顔を赤くしたり青くしたりと目まぐるしく百面相をしていたキョーコが、突然奏江の腕にしがみ付くと涙目で訴えかけた。その必要以上に親しげな様子に、飛鷹の口の端がヒクヒクと引き攣る。

「なんでそこで『やっぱり』になるのよ」
「だって私、あの人には散々騙されてきたんだもの!それに『俺も参加していいかな』なんて言ってたし、きっとエイプリルフールの騙し合い合戦に参加したかっただけよねっ」
「あんたねぇ…そんな事をしてあの人になんのメリットがあるの」
「私で遊んでストレス解消とか、あるいは騙されやすい後輩を注意するためなのかも」
「…………」
「そうよ!きっとそうだわ。私、敦賀さんには何回も騙されやすいって言われているもの!」

グッと拳を握り締め、どうしても蓮の言葉を湾曲して解釈したいらしいキョーコに、奏江はこめかみを抑えた。きちんとした心構えを持つことなくこの調子で明日を迎えたなら、とんでもない返り討ちに合うのは必至だ。

「他の可能性も考えてみたら?あの人が本気でアンタを口説いているとか」
「くど…っ!?」
キョーコは絶句すると、次にはぱぁぁっと顔を赤らめた。

「そんな事あるわけないわ!だって、あの敦賀さんよ?」
「そう。誰でもない、あの敦賀さんだからよ」
「な、なんで?敦賀さんと私とでは余りにも」
「おいっ!」
「きゃぁっ?」

いきなり腕を後ろに引かれ、短く悲鳴を上げて倒れかけたキョーコを、バランスを崩させた当の男が抱き止める。何事かと振り返ったキョーコの顔が、目に見えて大きく引き攣った。

「…ショータロー!?」
「敦賀蓮がどうしたって言うんだよ」
「な、なんでアンタがこんなとこにいるのよ!」
「聞いてんのはこっちだろうが!」

突然現れた闖入者に驚き、その場に居合わせた三人は予想外の出来事に対応する事ができず、呆然と二人のやり取りを見詰める。とにかく離しなさいよと尚の胸を勢いよく突いたキョーコの腕が捕まれ、再び囚われた。

「あの野郎……何だかおかしなことを言いやがると思ったら、お前に何かしたのか?」
「ちょっと、離してよ!」
「アイツに何をされた…!」

両腕を掴んで握り締め、瞳をジッと覗き込む尚の不自然な程の真剣さに、思わずキョーコが目を逸らす。

「な… 何もされてなんか、いない…わよっ」

言いながらうっすらと頬を染めるキョーコを見て、眉間に皺を寄せた尚が口を開こうとしたとき、軽やかな音楽が彼女のバッグから鳴り響いた。

「このバカショー!電話だから離しなさいよっ」
キョーコは尚の手を勢いよく振り切ると、肩に掛けたバッグの中で震える携帯を取り出して電話をかけてきた相手を確認する。

「……非通知……」

画面に表示されている文字に、キョーコはこのまま電話を受けるかどうか戸惑った。事務所からの仕事に関する連絡なら早く出なければならないが、もしそれが彼女の尊敬する先輩ならば……この場で電話をするのは余りに危険な事のように思える。

(さっき会ったばかりだもの、敦賀さんのわけがないわ!)
四度目のコール音の後にそう判断したキョーコは、親指で受話ボタンを押した。

「もしもし、俺だけど」

携帯から聞こえてきた、おそらくは違うであろうと判断した男の声にキョーコは返事をする事もできず、どうしようとゴクリと息を飲んだ。


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