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「最上さん……?」

返事がない事に疑問を抱いたのか、蓮が不審そうにキョーコの名を呼ぶ。その声にハタと覚醒すると、キョーコは玩具の兵隊のようにピシッと一直線に姿勢を正した。

「はいっ、最上ですっ。お仕事お疲れ様です!どのようなご用件でしょうか!?」
「……うん、ちょっとね」
仕事モードと言うのも不自然な違和感たっぷりの返答に、蓮が苦笑交じりの言葉を落とす。

「なんとなく、嫌な予感がしたから」
「へ?」

(い…嫌な予感って、どういう事?バカショーに絡まれているなんて、敦賀さんに分かるわけがないのに。もしかしてどこかから見てたとか……それとも超能力?千里眼っっ!?)

キョロキョロと辺りを見回し、いるはずのない蓮の姿を探してひどく動揺するキョーコ。その彼女の手から、スルリと携帯電話が抜き取られた。

「よお。さっきはどうも」
「ちょ…ちょっと、バカショー!」

ニヤリと笑い、当たり前のように電話に出て話し始めた尚に、キョーコが携帯を奪い返そうと手を伸ばす。勢いよく繰り出されるその手をひょいひょいと顔を逸らせて見事に交わす様は、傍から見ていると二人がじゃれ合っているようにしか見えない。

電話の向こうで、深いため息が漏れ聞こえた。

「……予感的中か。本当に君達は縁が深いね……こういうのを腐れ縁と言うんだったかな?」
「ハッ!どこかの誰かのような、1年やそこらの薄っぺらな付き合いとは訳が違うからな」
ストレートに皮肉る尚に、蓮は落ち着いた声で言の葉を返す。

「そうかな。人と人との繋がりに時間など関係ないだろう?もし必要だと言うなら、これから積み重ねればいいだけの話だ。40年でも50年でも……15年やそこらの年月など笑い飛ばせるぐらいにね」
「簡単に言うけどな、結構重いもんだぜ?子供の頃からの十数年の付き合いっていうヤツはさ」
「別に俺は気にしないけどね。彼女が頷いてくれるなら、永遠の時を誓い合う事だってできるのだから」
「フザけた事いってんじゃねーよ!」

神父の前で宣誓するようなセリフを抜け抜けと言い放つ蓮に、尚は露骨に顔をしかめ声を張り上げた。

「ちょっと!ふざけているのはアンタの方でしょうが!なにを敦賀さんに失礼な口を聞いているのよ、早く返しなさいっ」

蓮との会話の内容はまるで耳に入っていないらしく、キョーコは尚を一喝すると素早く目的達成の為の行動に出た。手刀のような切れのある動きに携帯を掴まれ落としそうになり、慌てた尚はキョーコの背よりも高い位置にそれを持つ手を上げた。

「危ねえな、お前だって壊したくはないだろう!…ったく、なんでそんなにいきり立って取り返そうとするんだよ」
「当たり前でしょう?私にかかってきた電話なのよっ。しかも敦賀さんからの!」
「……しかもって何だよ。たかが事務所の先輩だろうが。お前、アイツの事をどう思ってんだっ」

ギリと睨み付ける尚に、キョーコはピタリと動きを止めた。

「ど、どうって……」

それはつい先ほどまで、キョーコが自分自身に問いかけていた疑問だった。蓮の嘘か真かも分からない、たった一言に翻弄されて揺らいでいる、あまりに弱い自分。それを目の前の男に突きつけられた形となり、キョーコは言葉に詰まり顔色を失った。

「おい…っ」
呆然と立ち尽くすキョーコに驚き、尚の手が伸びようとした瞬間、それを遮る影が動いた。

「その事についてはキョーコが直接敦賀さんに話をするから、あなたが知る必要はないわね」
「モ…モー子さん…」
奏江はキョーコの前に出ると、彼女を背中に庇い尚に対面した。

「なんだよ。関係ないのはアンタの方だろう」
「そうでもないわ。この子は私の親友だから、これ以上あなたがしつこく絡むようなら見過ごす事はできない」

(モー子さん……っ!)
思いも寄らない奏江の言動に、キョーコの瞳にうるうると涙が滲み始める。

キョーコを護り静かに睨みつける奏江に、尚は小さく舌打ちをすると再び携帯を耳元へと寄せた。

「ツルガさん、アンタ何をしたんだ」
「……どういう意味だ?」
「キョーコに何をしたって聞いてんだよ」
「なぜそんな事を聞く?」
「キョーコの様子がおかしいって言ってんだっ。アンタが何かをしたとしか思えないんだがな!」
最後は怒鳴りつけるように、尚は元凶と見なした男に感情をぶつけた。

「最上さんの様子がおかしい…だって?」
「ああ!」
「宿敵である君を目の前にしていながら?」
「そうだっ」
「君ではなく、俺の事を考えて……?」
「なっ…!自惚れんなよっ。単にテメエが原因なのは間違いないから、聞いてるだけだっ」
吐き捨てるように尚が答えると、電話の向こうで再び声が聞こえてくるまでに数秒の時が過ぎた。

「そうか……それは…嬉しい、な……」
囁くように零れた幸せそうな声音に、尚の怒りが爆発する。

「人の話を聞いてるのか!?勝手に良いように誤解してんじゃねーよ!」
「あなたもいい加減にした方がいいわね」

会話に気を取られていた尚が、あっさりと携帯電話を奏江に奪われる。彼女はクルリと後ろを向くと、それをキョーコの手に渡した。

何しやがるっと声を張り上げてキョーコへ向かおうとした尚を、鋭い声が引き止める。

「尚!あなた何をしてるの!?」
「…祥子さん」
「明日の収録の件で電話がかかってきたから、先に打ち合わせに入っていてと私はお願いしたはずだけど?」
「そんなもの後回しだ!」
「尚!!」

本気で睨むマネージャーに眉根を寄せると、尚は二度目の舌打ちをした。

「……分かったよ」
不承不承と言った体で、尚はキョーコと奏江に背を向ける。

「キョーコちゃん、尚が迷惑をかけたようでごめんなさい」
「いつもの事ですけど……今回は余りにも非常識でしたね……」
「本当にごめんなさいね」
「……祥子さんのせいではありませんから」

憮然として答えるキョーコに謝ると、祥子は隣にいる男の背中を軽く叩いて移動する旨を伝える。頷いた尚はそのまま立ち去るかと思いきや、つと足を止めて振り返った。

「キョーコ。あんな奴に簡単に引っかかるんじゃねーぞ!ああいう手合いは口が上手いからな。騙されやすいお前なんてイチコロだ」
「尚!」
「分かってるよ、祥子さん。じゃあな」

おざなりに右手を上げると、尚はマネージャーと連れ立って収録室のある区画とは反対方向へと曲がって行った。

(一体、何を考えているのよ、あのバカ……!)

二人が消えた一角を睨みつけて、キョーコは手に持つ携帯をギュッと握り締める。電話から応答を求める声が聞こえてくる事にも気づかないまま、キョーコはしばしの間、立ち尽くしていた。

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