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ちょっと、それまだ繋がっているんじゃないの?

そう奏江に指摘され、キョーコは握り締めたままの携帯に視線を落とす。通話の状態で放置していたその意味に気づき、きゃあああぁぁと大きな悲鳴を上げると慌ててそれを耳に当てた。

「もしもし、最上さんっ!?最上さん…!」
「あ…あの敦賀さんっ、私です、最上ですっ!」
「最上さん!一体どうしたんだ、何があった!?」

キョーコの絶叫が聞こえたらしく、ひどく焦り彼女の名を連呼していた蓮に、「何でもありません、驚かせて申し訳ありません!」とキョーコは平謝りに謝った。

「本当に何もなかったの……?」
「はい、ちょっと苦手なものが見えた気がして、つい声を上げてしまったんです。お騒がせしました……!」
「苦手って…虫か何か?」
「…は、はい、そんなものです……」

敦賀さんの大魔王化を思い浮かべて、悲鳴を上げてしまいました……などとは口が裂けても言える訳がない。いくら苦手な一面とは言え、虫に例えるなど尊敬する先輩に対してとんでもないとは思うのだが、下手に弁解すれば本当に魔王が降臨しそうだと身震いし、キョーコは曖昧に相槌を打った。

「それならいいんだけど……それで不破くんは今、どこに?」
「アイツはマネージャーさんに連れられて行きましたから、もうここにはいません。私の注意力が足りないばかりに敦賀さんにご迷惑をおかけして、本当に……っ」
「最上さん?」
「本当に、すみません…でした…っ」

尚を止められなかった悔しさと蓮への申し訳なさが込み上げて胸が詰まり、キョーコの目に涙が浮かび言葉が途切れた。そんな彼女の心情を察してか、電話の向こうで蓮が優しく言葉をかける。

「携帯を奪われて、不可抗力だったんだろう?俺は気にしていないから、君も気に病まないで」
「でも私が至らないばかりに、敦賀さんにひどく失礼な事を…っ」
「いいんだよ。俺にとっては悪い事ばかりでもなかったから…返って君には申し訳ない事をしたと思ってる」
「い、いい事なんて何一つなかったじゃないですか!敦賀さんほどの方が、あんなバカ男に詰まらない言いがかりをつけられて、絡まれて……っ」

尚の暴言の数々が思い起こされ、キョーコはグッと唇を噛み締める。自分があんな男と関わりがあるが為に何の関係もない蓮にまで嫌な思いをさせたと思うと、身の置き所がない気がした。

「最上さん、俺は別に嘘は言っていないよ?本当に悪い事ばかりではなかったんだ」
「そんな訳ありません……っ」
「……実はね、少し迷っていた事があったんだ。後悔はしていないけど、勢いで進めてしまって良いのかどうかって、気になっていた」

(迷う……?)

いつも自信に溢れているこの人が迷うなんて、よほど難しい問題を抱えていたのかしら……と蓮の話の意味を理解できないながらもキョーコは思う。

「それを彼のお陰で吹っ切る事ができた」
「え……?」
「俺は……彼には絶対に負けたくない。彼の影など寄せ付けたくもない。他の誰よりも一番でありたいと……そう思った」
「当たり前です!敦賀さんは誰よりも輝いているんですから、あんなバカなんて足元にも及びません!」

芸能界一の人気を誇る蓮の意外すぎる発言に、そんな心配は無用ですとキョーコは断言した。

「君が本当にそう思っていてくれるなら、嬉しいんだけどね」
「本当です!心の底から思ってます!」

お疑いですかと心外そうに問うキョーコに、それについてはまた後でねと蓮は小さく息を吐くと言葉を濁した。

「それよりも本当に不破くんに何かされたりはしなかったんだね?」
「……はい、大丈夫です……」
尚も気遣いを見せる蓮に、キョーコはホワンと柔らかな笑みを浮かべた。

「あの時……モー子さ…琴南さんがアイツから私を引き離して、助けてくれたんです……!」
激昂する尚に臆することなく自分を背に庇った奏江の勇姿を思い出して、キョーコは幸せそうに頬を染める。

「凄く格好良くて、凛々しくて、頼もしくって……私、守ってもらっているんだって感じて、とても嬉しかったんです……」

頬を上気させてふわふわの笑顔で告げるその言葉は、甘い香りが漂い、聞く者の耳に蕩けるように届いた。

「……ふぅん、そう……それは良かったね」

突然放たれた不機嫌そうな声に、キョーコが笑顔のままピシリと固まる。

尚から携帯を取り返した際に発せられるだろうと予測し、覚悟していた通りの静かで奥深い怒りを帯びた声。それがとんでもない時間差で襲ってきた事に動揺して、キョーコの心臓がバクバクと壊れそうなほどに音を立て始める。

「あ…あの…?」
「君を守ってくれる人が傍にいてくれて良かったよ」

額面通りとは到底思えない蓮の声に、キョーコはなぜーーっと心中で絶叫するも、その理由など怖くてとても聞けたものではない。

「でも、できればこれからは俺がその役目を担いたいな」
「は…はい…っ?」
「駄目?」
「い、いえ、とんでもありませんっっ!ワタクシなどを敦賀さんが守ってくださるなんて、光栄すぎて眩暈を起こしそうですっ!」

なぜ蓮の機嫌が急降下したのか理解できずにパニックを起こしているキョーコを見て、「バカね…」と奏江が顔に手を当てた。

「できれば私を敦賀さんの嫉妬対象にするようなマネ、しないで欲しいんだけど……!」
「……なあ、奏江」
思わず零した本音の後に飛鷹に声を掛けられ、奏江は「はい」と返事をすると彼へと身体を向ける。

「アイツ、男二人の思惑に全然気づいてないんだな」
「そういう事になりますね」
飛鷹の言う『アイツ』が誰を指しているかなど聞くまでもなく、奏江はただ頷いた。

「事情なんてこれっぽっちも知らなかった俺でさえ、すぐに分かったって言うのに……あの鈍さは一体何なんだ?」
「だからこそ、あの子はラブミー部に入れられているんですよ」

仕方ないですねと冷静に言い放つ奏江を飛鷹は見上げ、そのまま下までゆっくりと視線を落とした。彼女が着ている目に痛いほど鮮やか過ぎるピンクのツナギはキョーコと全く同じ物、ラブミー部指定ユニフォームだ。

飛鷹は以前、LME固有の部署『ラブミー部』について、LMEに在籍している俳優に尋ねた事があった。

「社長のお遊びで作られた部だよ。愛を見失った人間を更正させるという大層な趣旨を持っているらしいけどね」
返ってきたのは、皮肉な笑みを伴った簡易な説明。

それを聞いた時には「社長が直接関与して作られた部署だけに風当たりも強いって事か」と判断した飛鷹だが、実際にキョーコの有り得ないほどの鈍感さを目の当たりにして、『愛を見失った』云々の説明については大げさではないらしい事を感じ取る。

(……もしかして、俺も敦賀蓮や不破尚と同じ経過を辿るなんて事……ないよな!?)

不安に駆られジッと奏江の顔を見ると、何でしょう?とばかりに笑みを返された。その他意のなさに、あながち間違っていない予測かもしれないと怖気が走る。

「奏江……」
「何ですか?」
返事をする奏江に、飛鷹は何かを決心したような強い眼差しを向けた。

「いいか、奏江。俺がお前の背を追い越す頃には、絶対に俺を意識させてみせるからな!」
「は…はい……?」

今も飛鷹くんの実力は十分に認めているし意識しているんだけど……と首を捻る奏江を見ながら、決して彼らの二の舞にはなるまいと飛鷹は固く心に誓うのだった。


「蓮、終わったか?」
車窓越しに尋ねる社に、蓮がいつもの穏やかな笑顔で頷いた。

「すみません、急に電話がしたいなんて言い出して」
「いや、どちらにしろ現場に入る前に夕食を買う予定だったから、構わないけどな」
コンビニ特有の白いビニール袋をかざすと、社は助手席に乗り込みシートベルトを締めた。

「中身はキョーコちゃんに知られたら怒られそうな物ばかりだけど、そこはまあ……内緒にしておけよ?」
「勿論です、俺にも自己防衛本能はありますからね。聞かれても上手い事、答えておきますよ」
「うーん、これに関してはお前、キョーコちゃんに信用ないからな。きちんと食べないと、お前だけでなく俺まで叱られるし」
ぼやく社に、運転席の蓮がははっ…と苦笑する。

「俺や社さんを叱り付ける女性なんて、彼女だけですからね」
「それだけお前の身体の事を案じてくれているんだよ」
真面目な声で社が振ると、蓮は無表情に固まった後に「ええ、そうですね」と短い返事をした。

「……で、明日は9時には仕事が終わるって事、キョーコちゃんに伝えたんだよな?どこかで待ち合わせでもするのか?」

全くお前ときたら明日会う約束だけして細かい事を伝えてないんだから、と社がニヤニヤと蓮の顔を覗き込む。

(やっぱり来たか……)
遊びモードに入ったマネージャーをチラリと横目に見ると、蓮はふっと顔を曇らせた。

「彼女に電話をするにはしたんですが……」
「……?どうした?」
歯切れの悪い蓮に疑問を抱いて、社が先を促す。

「彼女だけでなく、不破とも話をする事ができましたよ」
「ふ、不破!?」
ゲッと出かけた叫びを、社は慌てて口の中に押し込めた。

「俺が電話をした時に丁度居合わせたようで、彼女の携帯を奪ってキャンキャンと噛み付いてくれました」
「そ、それで……?」
「とりあえず最上さんに用件を伝える事はできましたが……彼の傍若無人ぶりにも困ったものです…」
「そ…そうか……」

想い人との電話の邪魔をしないようにとコンビニの店内をプラプラと眺め、雑誌などを手に取り時間調整をした……そんな自分を褒めてやりたいと社は心から思った。電話越しとはいえ、想像するだけで身の毛もよだつような修羅場に間違っても居合わせたくはない、と。

何やら色々と考えている社を見て蓮は内心ニヤリと笑うと、「では行きましょうか」とギアを切り替えアクセルを踏み込んだ。

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