更新履歴


カテゴリー


タイトル一覧


リンク


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

正当な権利 前編

BJ編、社視点です。
今回は糖度は低めの前・後編となります。




キョーコちゃんが蓮直伝のモデルウォークを体得し、新しい役を掴んだと聞いてから二ヵ月後。

「うっわぁ、キョーコちゃん!凄いっ、カッコイイよ!」

ナツに扮するキョーコちゃんにナマで会えるとワクワクしていた俺は、テレビ局の廊下で実際にその変貌振りを目にして、思わず感嘆の声を上げた。隣では蓮が嬉しそうにキョーコちゃんを見詰めている。

「ありがとうございます」

少し首を傾げて余裕の笑みで礼を言う姿にある種の風格さえ感じて、「彼女は走り出したら怖い」という蓮の言葉を思い出した。

マネージャーという職業柄、多くの演技者を見てきたけれど、基礎も何もない卵の状態から、だんだんに成長していく様を目の当たりにするというのは初めての経験で―――試行錯誤しながらも確実に俳優としての階段を上り、それが確かな実力として反映され評価されている事を知るのはやはり嬉しい。

俺が彼女を担当をしているわけでもないのに、そんな贅沢な見守り役になる事ができたのは、何か特別に縁が深かったのかもしれないな……と大げさでなく思う。勿論それは俺自身ではなく、いつも行動を共にしている男の方が、と言う話だけれど。

それでも蓮とは違う感情で、俺は俺なりにキョーコちゃんが可愛い。妹がいたらこんな感じだろうなと、頬の筋肉が緩むぐらいは許されるだろう?

「キョーコちゃん、こういう大人っぽい雰囲気もいいね。『お姉さん服』もすごく良く似合ってるよ……なあ、蓮?」

黒のレースをあしらった品の良いチュニックの上に細身のジャケットを羽織ったパンツ姿。身体の曲線が反映されるこの服装は、普段のキョーコちゃんなら絶対に着ないタイプのものだろう。

いつもの彼女とは異なる魅力に素直に感想を述べつつも、無用な嫉妬を受けるのを避ける為に、俺は担当俳優へ同意を求めた。

そんな俺の配慮に気付いているのか、蓮は「そうですね」とにっこり笑うと、一歩キョーコちゃんに歩み寄り、その頬に手をかけた。

「本当に綺麗だよ、最上さん……とても、似合ってる……」

蕩けそうな笑みを浮かべて、それは幸せそうにキョーコちゃんに語りかける蓮に、砂を吐くのを通り越し思わずこちらが赤面してしまい顔を背ける。少しばかり目線を戻すと、キョーコちゃんが壮絶な表情で固まっていた。

「つ……敦賀、さんっ……!」
「ん?何……?」

怒ったように蓮の名を呼ぶ少女に、呼ばれた当人は全く気にすることなく、返されたのは甘さの残る声。キョーコちゃんは何かを諦めるかのような悲壮感漂う顔で、がっくりと俯いてしまった。

「キョ……キョーコちゃん?」

どうしたの?という疑問を込めて声を掛けると、彼女は顔を上げ、うるうると大きな瞳にいっぱいの涙を浮かべた。

「社さん……少しお時間をいただけますか?ご相談したい事があるんです……」
「えっ、俺に相談?蓮にじゃなくて?」
「はい。敦賀さんではなく、社さんに聞いていただきたいんです……!」

今にも零れ落ちそうなほどの涙を湛えた眼差しでそんな事を言われたら断れるわけもないのだが、いかんせん今の俺はそれ以上に隣にいる男の挙動が気になる。

「悩み事なら、俺よりも蓮の方が……」と口を開きつつ、素早く右側に視線を走らせた。闇の国に突入しているかと危ぶみながら垣間見た男は、その予想を裏切り、気まずそうにあさっての方向を向いている。

……さてはキョーコちゃんの悩みの元凶はコイツで、しかも自覚有りか……!

「わかったよ、キョーコちゃん!お兄さんに何でも話してみてっ。何でも聞くから!」
「あ、ありがとうございます~~っ!!」

俺は蓮を軽く睨みつけてから、滂沱の涙を流すキョーコちゃんを促して彼女の控え室へと向かった。



「蓮……なんでお前も入ってくるんだ?俺がキョーコちゃんに相談事を受けたんだけどな」
「別に、ここにいるだけですよ。俺は口出しをしないで黙って見てますから」

当然とばかりに一緒に部屋に入り、きっちりと鍵を閉めた長身の男に不満をぶつけると、感情を抑えた声が返ってきた。キョーコちゃんに目で問いかけると、「黙っていて下さるなら構いません」と、思ったよりも落ち着いた反応に安堵する。

「……で、何があったの?キョーコちゃん」

椅子に座り本題に入ろうとしたところ、キョーコちゃんは口火を切る前に彼女のバッグをテーブルの上にコトンと置いた。持ち手の金具につけられているチャームから、俺でも知っている女性向けの高級ブランドのものだと分かる。

「これ、どう思いますか?」
「どうって……ナツらしい、お洒落なバッグだよね……?」

キョーコちゃんの質問の意図が分からず、とりあえず無難な答えを言う。すると彼女はスックと椅子から立ち上がった。

「見てください。このバッグに服、腕時計にパンプス……全部カインが買ってくれた物なんです」
「えっ……?」

一つ一つを指差すキョーコちゃん。その顔には困惑の色が滲み出ている。

「兄さん……カイン・ヒールにはとんでもない浪費癖があるんです。計画性もなく大量の買い物をして……それが自分の物なら問題ないんですが、セツカの……いえ、私の物ばかりで……!」
「……悩みの原因は、カインかぁ……」

蓮の奴、役に乗じてしっかりオイシイ事をやってるようじゃないか。どうりでさっきはいつにも増して、幸せそうにキョーコちゃんを見ていたわけだ。自分の贈ったものを上から下まで身に着けてくれていれば、それが所有の印のようでさぞ男冥利に尽きることだろう。

非情な殺し屋B・Jを演じる、謎の俳優カイン・ヒール。
正体が不明というその設定の為に、俺はこの映画に関しては蓮をマネージメントするわけにはいかなかった。社長から俺の代わりにキョーコちゃんがサポートに入ると聞いた時には散々蓮をからかったものだが、当の本人はと言えば「ちょっとした拷問ですよ……」などと呟いて、疲労の色を濃くしていたのだが。

……もっとも、転んでもただで起きるタイプじゃないもんな、蓮くんは。

「買い物のあまりの量の多さにお店に返してきてと頼んでも、『どこで買ったか忘れた』とか、『レシートは捨てた』とか、全然お話にならなくて……最近ではセツカには似合わない物まで買うようになったんです。今、着ている服もそうなんですけど……」

チュニックのレースを摘み上げて、キョーコちゃんが浮かない顔でふぅと溜息を付く。しかし、妙な小細工なしににキョーコちゃんにプレゼントができるこんなチャンスを、蓮が逃すわけがない。

「セツカはこんな服好みじゃないからと怒ってみても、女物は俺には区別がつかないと言って……もう買わないでと頼めば、俺の唯一の楽しみを奪う気かと捨てられた子犬みたいな目をされて…っ」

蓮~?お前、ここぞとばかりにやりたい放題だな?本音丸出しで演技しやがって。いや、これは既に演技なんかじゃないんだろうけどさ!

ジロリと壁際に立っている男を睨むと、参りましたねと苦笑する姿。既に隠す気も、譲歩する気もないってことか?

「ナツやキョーコ好みの洋服やアクセサリーがどんどん増えていくので指摘すれば、『ある物は使い分けて上手く着こなせばいいだろう』なんてあっさりと言われて……もう暖簾に腕押し状態で困ってるんですっ」
「まあまあ、キョーコちゃん。せっかくだからありがたく貰っておけば?ナツの衣装は事務所から借りているって言ってたし、手間が省けて丁度いいんじゃない?」

蓮のオトコ心も分かる俺としては、とりあえず奴のフォローに回る事にした。義理堅いキョーコちゃんとしては「はい、そうですか」と素直に貰うのは気が引けるのだろうけど、蓮にとっては痛くも痒くもない金額だろうし、好きな子へのプレゼントを選ぶのは間違いなくアイツのプライベートにおける数少ない楽しみだと思うから。

「そ、そんなわけにはいきませんっ。だってこのナツの一揃えだけでも、私の二ヶ月分の収入か、もしかしたらそれ以上のお値段なんですよ…っ。そんなのがホテルに帰れば山積みだなんて……私、敦賀さんにそれだけのものをお返しできません……っ」

パタパタと涙を零し始めたキョーコちゃん――その切実な様子に俺は喉が詰まり、すぐには言葉を発する事ができなかった。蓮は見返りなど欲してはいないんだよと、そう言ったところで解決しない事は、彼女の涙を見れば明らかだった。

関連記事

Powered by FC2 Blog
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。