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ダークムーンの撮影が終わる前に、「彼」に一花咲かせて欲しいという思いの詰まった続き妄想です。




「フェアリー……敦賀…さん……?」

千織の言葉に、一目妖精を見たいと意気込んだキョーコの瞳に映ったのは、芸能界一の人気を誇る先輩俳優だった。

「京子さんっ、いきなり走って行くんだものっ……あら、これって……」
「『ダークムーン』のロケのようですね」
息を切らせてキョーコを追ってきた千織に説明するも、蓮の名を呼ぶ女の子達によってそれは掻き消されてしまった。

「敦賀蓮、か……。容姿が良くて演技力があって、運にも恵まれていて。ああいう人は挫折なんて、経験した事ないわよね」

若干棘のある言い方に、キョーコが苦笑する。

「何でもできるように見えるけど、努力も凄くされている方なんですよ? 仕事に関しては自分にも他人にも厳しくて……嘉月という役もずいぶん悩んで、試行錯誤した上で演じられていましたし」
「敦賀蓮…さんの事をよく知っているのね」
「それはまあ、後輩ですし、共演者ですから」

もっとも『ダークムーン』での私の撮りはもう終わってしまいましたけど、とキョーコは笑いながら補足した。

「挨拶していく?」
「うー…ん、現場に着いたばかりで忙しそうですし、このまま次のロケ先に行きましょうか」

「最上さん……!」

踵を返した瞬間、キョーコはどよめく嬌声の中を、一際通る声に呼び止められた。



「いいなぁ……」
貴島の言葉に、蓮はふと足を止める。
「何がだい?」
「ほら、あそこのギャラリーの端にいる制服の二人、可愛いと思わないか?」

また女の子の物色かと少々呆れつつ、蓮は付き合い程度の気持ちで彼が指し示す方向へと目を向けた。

「俺としてはショートの子の方が好みかな」
楽しそうに貴島が品定めをする。

蓮は大きく目を見張ると、遠巻きにロケを見ている一団に颯爽と歩み寄った。何やら話し合っている、制服を着た二人組の方へと。

「最上さん……!」

蓮が近づいている事に気付かず、その場を離れようとした少女に、彼は慌てて声をかけた。呼ばれて振り返った姿は蓮も初めて目にするものだったが、その声に迷いはない。

「最上さんだろう? 先輩に挨拶もなしに、さっさと立ち去る気なんだ?」
「こ、こんにちは、敦賀さん!あの、すみませんっ。決してそのような気はなかったのですが、お忙しいところをお邪魔してはと思いまして……っ!」

ペコペコと頭を下げる少女に、蓮の口からクスリと笑いが漏れる。

「冗談だよ。こんな所でどうしたの?」
「あ、はい。この先で『BOX“R”』の撮影がありまして、そこに移動しているところだったんです。行きがけに人だかりがあったので何だろうと見に来たら、『ダークムーン』のロケをしていたものですから」
「ああ、そうなんだ」

突然の蓮の急接近に、見物に集まっていた女性達が甲高い声を上げた。

「きゃぁぁ、蓮ーっ!素敵ーーっ!!」
「やっぱり、カッコいいっ」
「あの子、知り合いなの!?」
「どうしてー?」
「やーん、羨ましい~~」

賑やかに交わされる様々な声。それを気に留めもせず、キョーコは小首を傾げた。

「敦賀さん、よく私だって分かりましたね。遠目で、しかもこの格好でしたのに」
少女は流れるような仕草で、自分の胸元に手を置いた。

「分かるよ…どんな姿でも、俺が君を見間違える事はないから」
「ソ……ソウデスカ……」
サラリと落とされた砂を吐きそうなセリフに、キョーコの声が露骨に引き攣る。

「それに、ほら。君の手作りのペンダント」
「ああ、そうでした!これは出来上がった時に、敦賀さんにお見せしていたんですよね」

目を細め、愛しげに微笑む蓮に気付かずに、少女は宝物のペンダントに手を伸ばし優しく触れた。

「京子さん、そろそろ……」
「あ、はい。じゃあ、ご紹介だけでも……敦賀さん、こちらは『BOX“R”』で共演している天宮千織さんです」
「天宮です。京子さんの後輩になります。宜しくお願いします」
「後輩……?」

天宮さんは別の事務所の所属なんですけど、ご自分で志願してラブミー部に特別に入部されたんですよ、と疑問符を掲げた蓮にキョーコが簡潔に説明をする。

その彼女の左腕を、千織がスルリと取った。
「遅れるわよ、ナツ…?」

誘うように笑う仲間の呼びかけに、蓮と話をしていた少女の表情がガラリと変化する。

「……そうね。少しぐらいスタッフを困らせても構わないけれど、遊ぶ時間が足りなくなってはつまらないわ」
常に先を読んでアシストするユミカに、ナツは同意の意を示す。

「お楽しみは、これからだものね……」

切れ味の良い刃物の如く、冴えた輝きで優美に笑う様に、周囲のざわめきが一瞬にして静まり返った。

「それでは先輩、私はこれで。緒方監督や他の皆さんにも宜しくお伝えくださいね…?」

頭を軽く斜めに傾けるだけの挨拶をして、役をその身に憑かせた少女は、彼女の後輩を連れて軽やかに『ダークムーン』のロケ現場を後にした。



「敦賀君、珍しいんじゃないか。見物している子に声をかけるなんて」
蓮が車の近くまで戻ると、待っていましたとばかりに貴島が近寄って来た。

「別に珍しくもないんじゃないかな。彼女、最上さんだから」
「最上さんって……え、あれ、京子ちゃん!?」

ええっ、京子ちゃんだったのー!?と、横で話を聞いていた逸美も驚きの声を上げる。

「なんだ、俺も話したかったなぁ。呼んでくれれば良かったのに」
「近くで他のドラマのロケをしていて、すぐに戻らなければいけないと言っていたからね。皆さんに宜しく伝えてくださいという事だったよ」
「じゃあ仕方ないか。それにしても……京子ちゃんねぇ……」
「……何か?」

貴島の様子に嫌な予感がし、蓮が続きを促す。

「いや、京子ちゃんがあんなに可愛いとは思わなかったな……俺としたことが失敗した。次に収録が一緒になるのはいつだったかな」
「……あの子の撮影は一通り終わったから、後は最終日の打ち上げに来るだけだよ」
「そうか……まあいい。ラストチャンスはあると言うわけだ」

何がチャンスだ、今まで見向きもしなかったくせに……!
喉まで出かかった言葉を、蓮はグッと飲み込んだ。

「敦賀君、彼女の携帯番号……」
「残念ながら、知っていたとしても教えられないんだ。個人情報だからね」
「やっぱり京子ちゃんのは知っているんだ。食事や休憩も、いつも一緒だったもんな」
ニヤリと笑う貴島に、蓮は僅かに眉を顰める。

「ズルイなぁ、敦賀君は。彼女が可愛いって知っていて、独り占めしていたんだから」

(あの子が可愛いのは容姿どうこうの問題じゃない!)

込み上げた怒りは、監督の開始の合図で無理やり腹の内に閉じ込めざるを得なかった。

(そう、容姿の問題ではない。……だが、それに惹きつけられて余計な馬の骨が発生するのは間違いないだろうな)

美月との絡みを撮り終え、蓮は待機しながら撮影前の出来事を振り返る。

若い女の子ばかりのロケの見物人……そのほとんどはトップ俳優である蓮に熱い眼差しを向けていたはずなのに、キョーコ演じるナツが壮絶な笑顔を浮かべた瞬間、ギャラリーの心は皆、彼女へと持っていかれた。

……そのパワーと吸引力は計り知れない。

「おまけにあの子……」
蓮は我知らず、吐息と共に言葉を漏らした。

キョーコの後輩と名乗った少女は、明らかに蓮を牽制していた。親しげにキョーコに話しかけ、微笑みかける蓮に対して、鋭い視線を向け、値踏みをして。

「本当に油断できないな……老若男女関係なしなんだから」

不破やレイノは勿論、マリア、琴南、クー・ヒズリ……

彼女に好意を持つ人間を、蓮は少なからず知っている。その誰もが、好感などという物を通り越した、強い想いを彼女に寄せている事も。

蓮がキョーコと共演した『ダークムーン』の撮影も残り僅か。最後の撮りを迎えれば、二人が顔を合わせる機会はほとんどなくなってしまう。

「蓮……どうした」
難しい顔をして考え込んでいる担当俳優の横に立つと、社はひそりと声をかけた。

「社さん……俺、決めました」
何を?と聞くマネージャーに、蓮は睨みつけるような強い視線を右手首に注ぎながら、口を開いた。

「あの子は俺の手元に置いておきます。……例の設定は続行です」
はっきりと断言する男に、社は小さく溜息を付いた。

「そうか……お前が決めたのなら俺は止めないけど……その代わり睡眠不足でぶっ倒れるなんて事だけは勘弁してくれよ?」
「……鋭意努力します」
「どうだかなあ……」

社は苦笑いをしながらも、まあ頑張れよ、と蓮の背中をポンと励ますように叩いた。



「芸能界一イイ男に、抱かれたい男№1?」
ブツブツと黒髪の少女が独り呟く。

「そんな冠を持っているんなら、有名なお色気女優とか人気のあるグラビアアイドル辺りに粉をかけていれば良いのに……京子さんをだなんて、出来すぎていて腹が立つわ……」
「え、何か言いました? 天宮さん」

帰るまでにナイトウエアも買っておかなくちゃ……などと考え事をしていたキョーコは、隣にいる毒舌独裁テロリストの小さな声を聞き逃し、問いを投げかけた。

「いいえ、何でもないの。あ、ほら、移動車が到着したわ」
「本当、いいタイミングでしたね」

指を指す千織にキョーコは笑いかけると、共にいる少女と共に足早に歩を進めた。

彼女が今、纏うべき役を心の内で再確認して。

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