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HAZARD 4

「最上君もなかなか粋な言い回しをするじゃないか」

ラブミー部にしては上出来だと楽しげに笑う社長の様子に、テーブルに付かれた蓮の指が内側へと折られ拳となる。

――あの子の真っ直ぐな気性を考えるに、そんな持って回った言い方をするとは到底思えない……役が憑いてでもいない限りは。
いや、俺が彼女のそういう側面を知らないだけで、石橋光とは常からそんな風に仲睦まじく戯れるような会話をしているのだろうか……!

「用件はこれで終わりか?」

ギリと奥歯を噛み締めた青年は、投げられた言葉にはたと我に返った。いとも簡単に揺れる己の心……それを相手につけこまれまいと、しっかりと蓋をして。

「いえ、本題はこれからです」

何も情報を得ないまま切り上げられるわけにはいかないと、彼は涼しい顔をしている年長者へ強い視線を据えた。

「その秘め事について、石橋君は社長に説明をしたんですか」
「肝心なところを隠したままでは話にならんからな。一通りの経緯は聞いている。だが石橋も俺を信頼して打ち明けたんだ。おいそれと言いふらすわけにもいかんだろう」
「……そうですね。分かりました」

これ以上追求しても欲しい答えは得られないと判断した蓮は、スイと立ち上がると窓際へと足を運んだ。

「何か問題が起こった時に、上の人間が把握していなければ適切な対応はできませんからね。何はともあれ、石橋君が社長に打ち明けてくれて良かったですよ」

空に描かれた一筋の雲を見上げながら、蓮は「そう言えば……」と何かを思い出したかのように呟いた。

「数週間程前の話なんですが、最上さんが右手に怪我をしていた事があるんです。どうしたと尋ねてみても、自分の不注意ですとその一点張りだったんですが、社長には何か報告が入っていますか?」

背中を向けたまま話す蓮を宝田は一瞥すると、テーブルに置いてあった灰皿に葉巻の先端を押し付けた。ジジッと小さな音がガラスの器の上で響き、熱が失われる。

「ああ、その件については対応済みだ。……右手の怪我程度で済んだのは、最上君の運動神経の賜物だろうな」

事の顛末に触れず結果のみを伝える声は、石橋の話とキョーコの怪我の関連性についての肯定を意味していた。

蓮は想い人の身に降りかかった災難が決して軽いものではなかった事を悟ると共に、加害者と想定される少女の顔を脳内で再現し、深く意識に刻み付ける。

「先ほどの…天宮さん、でしたか? 彼女はなぜラブミー部に入部する事を志願したんです?」

それを尋ねるのは問題ないでしょうと暗に語る蓮の意図を察し、ローリィは腕を組むと深々とソファーに背中を預けた。

「蓮……天宮君はな、昔は違う芸名で子役として名を馳せていたんだ」

大手芸能事務所を築きあげた男は、蓮の問いかけには直接答えず、一人の若き女優について語り始めた。

「彼女は大人をも圧倒する名子役として知られていたが、それが返って仇になった。アクの強い役の印象が払拭できずに、当たり役以降は仕事が来なくなってしまったんだ。何年もの間、演じたくても演じられずにもがき続けた、その葛藤はどれほどのものだったんだろうな」

大きすぎる名前に打ち負かされ、演技をしたいと渇望する気持ちを封じられた……それはかつて蓮も経験した事だった。

「名を捨て、舞台女優として新しくやり直し、脇役ではあるが、ようやく念願のテレビドラマの仕事が舞い込んできた。……そんな彼女の前に、運に恵まれた成功者が現れたんだ」
「それが最上さんだと言うんですか……?」

彼の少女の今までの人生を考えればあまりに似つかわしくないその形容に、蓮は低く声を漏らす。

「デビューして一年足らずで名が売れて、注目されているドラマの主要な役を任されたんだ。嫉妬を受けるに足る活躍ぶりだとは思わないか?」
「その程度の売れ方をしている役者やタレントなど、いくらでもいます……!」
「確かにな。だが彼女の目の前にいたのは最上君だった。長年の恨みつらみを晴らす為の捌け口が、用意されてしまったわけだ」
「冗談じゃありません!」

(そんな不条理な嫉妬心で、あの子が傷つけられるなんて!)

憤る心が声を荒げさせ、蓮は胸元で握っていた右手を大きく振り下ろすとローリィへと身体を向けた。

「実際、冗談で終わるどころの話ではなかったんだろう。だが最上君はそれを覆してしまったんだよ」

つくづく予測不可能な子だ、と一筋縄ではいかないと評判の人物はほくそ笑んだ。

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