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HAZARD 5

「どういう事です?」

蓮に問いかけられ、ローリィは組んだ足に肘を置き、幅の広い布で覆われた腕を曲げて頬杖を付いた。

「彼女は天宮君に演技勝負を持ちかけたそうだ」
「演技勝負……?」
「ドラマの撮影中に、俳優として真剣にぶつかって来いと挑発したそうだ。常に正面から立ち向かっていく彼女らしいがな」

(……全く……本当にいつも、一人でごり押しの正面突破なんだから……!)

俺が守ってあげると伝えたところで、キョーコは蓮に頼るどころか愚痴の一つすら零さない。その強さもまた彼女の魅力の内ではあるのだが、身の危険が迫っているような危機的状況においては、まずは相談して欲しいと……してくれなければ俺の方がどうにかなりそうだと、蓮は胸を詰まらせた。

「結果としては、天宮君の体裁を繕わない本気の演技に最上君が感服したらしい。……石橋が彼女から聞いた話ではな」
「…と言うと?」
「実際に相手を捻じ伏せたのは、最上君の方だろう。天宮君が、彼女の所属する部に入りたいと希望してきたのだから」
「それは……石橋君が心配したように、最上さんに何かを仕掛ける為だという事は考えられませんか?」

意地の悪い発想かもしれない。だが蓮としては、そう楽観的にキョーコにとっての危険分子を見過ごすわけにはいかなかった。

「ラブミー部に入る為に、天宮君は彼女の事務所の社長とLME社長である俺に話を通している。理に適わない行動をとれば、彼女の芸能生命は即座に抹殺される……それぐらいの事は分かっているはずだ。嫌がらせをする為に取った行為だとするには、リスクが大きすぎるとは思わないか」

子供の頃からこの業界に身を置いて、厳しい現実を目の当たりにしてきたという少女ならば、そのぐらいの判断力はあるのかもしれない。だが……と蓮は尚も眉を顰める。闇に囚われた人間が正常な思考力を持ち合わせずに、傍から見れば有り得ないと思う行為をし、暴走する事は身に染みて理解していた。

「それにな……」
整ったかんばせに暗い影を落とす蓮に、ローリィは悪戯をする子供のような瞳を向けて言葉を続けた。

「俳優としての誇りを持って生きてきた人間がいくら嫉妬心にかられたとは言え、経歴にプラスにはなり得ない異端な部門に入る事を希望し、人々の記憶に否が応でも焼きつく、目に眩しい色合いのユニフォームを自ら着こむと思うか?」
「それは……」

LOVE ME ――私を愛して――

誰もが聞いた瞬間に、そのネーミングと存在意義をを疑う「ラブミー部」。ユニフォームに至っては、一度見たら忘れられないほどのインパクトを持つ、ショッキングピンクのツナギだ。一般的な感覚を持つ人間ならば、まず入部したいなどと思わないに違いない。プライドの高い人間ならば、尚更に。

「演技への愛情を取り戻したいと、そう言った天宮君の瞳に曇りはなかったぞ」
人を見る目に関して定評のある、やり手社長が断言する。

「もっともラブミー部に入部希望者が現れるとは、さすがの俺も思わなかったがな」

やはりあの子は爆弾だ、とクツクツと満足そうに笑うローリィに、蓮は最後の念押しとばかりに口を開いた。

「それで……彼は納得したんですか?」
「彼とは?」
「惚けないでください。石橋君ですよ」

蓮がまぶたの上にスラリと伸びた、形の良い眉を歪ませる。

「彼は最上さんを心配して、社長に話がしたいと申し出たんでしょう。彼女に何があったのかを知っている石橋君が、それで綺麗さっぱり納得して引き下がったんですか?」
「俺が下がれと言えば、下がるしかないだろうな」
「……!」

愉快そうに笑っていた男が一転して、組織の長としての顔を見せる。

「俺は俺の勘に自信を持っている。これを武器に生きてきたと言っても過言ではない。……だが、それが確証に繋がるわけでもないのも事実だ」

ローリィの判断力の確かさ、運の強さは、今の彼の地位がそれを証明している。それでも全てが彼の予想通りに運ぶわけではない。

「天宮君に限らず、ラブミー部に関しては考えている事がある。当面問題が起こるような事態にはならないとは思うが、念の為に石橋には最上君を見守って、相談相手になるように言っておいた」
「相談相手に…ですか? なぜです? 彼が彼女と秘密を共有しているからですか」

キョーコが自分ではなく他の男に頼るなど心情的に耐えられず、対処方法として的確だと分かっていながらも蓮は指示を出した相手に尋ねずにはいられなかった。

「無論、事情を知っているという事もあるが、石橋と最上君は彼女のデビュー前からの付き合いで気心が知れている。最上君にとってアイツは、一番近い位置にいる先輩だろうからな」
「……え……?」

さりげなく落とされた言葉に、蓮は大きく目を見開いた。

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