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HAZARD 7

あなたと私とでは、好きの重さが違うのよ!

かつてその非難めいた言葉を聞いた時、蓮はそれを不快と感じずにはいられなかった。

気持ちの重さなどどのような秤を以てしても量りようがなく、そんな感覚的なものを持ち出して一方的に攻められたところで興醒めするばかりだ。もし彼女が言う通りに二人の情の重さに差があるのだとしても、それを同じであれと要求するのは傲慢ではないかと。

自分勝手な言い分を堂々と主張する女と決別する事に異議も未練もなく、別れた翌日にはその彼女の事など思い出しもしなかった。

今になって、蓮は思う。
傲慢であるからこそ、恋だったのかと。

蓮の心を捕えて離さない唯一の存在である少女は、幸いな事に彼に好意を抱いてくれている。しかしそれは先輩俳優への敬愛や尊敬といった枠を超えず、蓮が一途に抱いている想いとは根本的にその質が異なっていた。

それでも、その先輩としての括りの中では誰よりも重い存在として彼女の中にいるのだと、そんな裏づけのない自信が支えとなり、ともすれば決壊しそうな欲望を押さえ込んできたのだ。

キョーコは基本的に人当たりが良い。相手が先輩ともなれば、尚更礼を尽くすことだろう。相手を敬いつつも親しみを込めて、あの人懐こく可愛らしい声で話しかけるに違いない。蓮の知らないところで、石橋光に―――他の男に。

(そんな事は許せないと……そう感じるこの心は、どれほど狭量で驕っているのだろうか)

過去を顧みても、蓮は人に執着をした事がない。何かに対して拘りすぎる事を、罪だとさえ思っていた。たった一つ望んだ願いが叶えられず、それ故に暴走してしまった経験があるだけに、度を越えた固執は罪悪であるとすら認識していた。

……それなのに。

「怖いだろう……?」

社長から徐に向けられた言葉に、この人はどこまで俺の心を読んでいるのだろうと苦笑する。恋愛は本気になればなるほど余裕がなくなる……そう蓮に伝えたのは彼だった。

確かに怖いな、と蓮は我が身の変化を思う。自分自身がコントロールできずに、自らの本質すら変わってしまいそうな恐怖。

「怖いですね。自分で可笑しくなるほどに、翻弄されていますよ」
「自己管理が徹底しているお前に、そう言わせるとはな。やはり最上君は怖い」
「え……?」

若干ずれた返しに、蓮は思わず疑問の声を上げた。

怖いと思ったのは、恋をする事だ。理性を凌駕しそうなほどの強い想いを抱く事に恐れを感じるのであって、キョーコを怖いと思った事はない。

鷹揚にソファーに身を沈めている部屋の主は、物問いたげな眼差しに、ここへ座れと人差し指で合図をする。蓮は呼ばれるままに歩を進め、正面に位置する椅子に座ると、彼の口が再び開くのを待った。

「お前の気にしている石橋光だがな、アイツは人が好くて温厚な奴なんだ」

誰かさんと違って根っからな、とわざわざ一言付け加えて揶揄する社長に、食いつくだけ時間の無駄だと判断した蓮は、顔を顰めるだけに留め、とりあえず同意する。

「少し顔を合わせただけですが、確かにそんな印象でしたね、彼は」
「ああ。むやみに声を張り上げたり、何かトラブルがあったとしても直接俺に直訴をしてくるようなタイプではない……本来はな。それだけ最上君の事が心配なんだろう。彼女を殊の外、大切に思っているようだ」

もしやと勘繰らずにはいられなかった、石橋光のキョーコへの想い。それを肯定するような意味合いの内容を事もなげに伝えられて、蓮の胸がざわりと波打つ。

(あの子は彼の気持ちを知っているのだろうか……?)

そう危惧するも、あの恋愛ごとに疎い娘が簡単に気づくはずがないと、蓮はその疑問をすぐに打ち消した。しかし人の感情の機微に敏感で、疑う事を知らない彼女の事だ。向けられる好意には、同じように好意で返すことだろう。多大な想いには、それに応じる大きな想いを。

蓮に返されたのは、度が過ぎるほどの尊敬の念だった。では、石橋に返されるものは……?

(冗談じゃない……!それがどんな想いであろうと、彼女が俺以外の人間に強く心を寄せるなど……)

黙り込んだ蓮の様子を観察するかのように見つめていた男が、「そうそう」と言葉を継いだ。

「最上君を特別だと思っているのは石橋だけでなく、あの場にもう一人いたな」
「……誰ですか」
「決まっているだろう。天宮君だ」

人の悪い笑みを浮かべる社長の意図が見えず、蓮は続く言葉を警戒し、ざわめく胸を抑え気を引き締め直した。

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