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HAZARD 11

彼女の場合、根が深いんだよと、幾分トーンの落ちた声で告げられて、蓮はローリィが本気で彼女に対して憂えている事を感じた。

「愛情を捧げられる事に慣れていないから、向けられる好意がどの程度のものなのか推し量ることができない。だから全てを真正面に受け止めて、自分なりの好意の形に変換して返してしまう」
「変換とは、どういう意味です?」
「そうだな。例えば彼女にとって先輩に当たる男からのやたらに重い好意に対しては、尊敬だの敬愛だの、果ては信仰してますだのと……与えられる情に対して、同じかそれ以上の比率の想いを抱いているようだ」
「信仰してますって、何ですかそれは」

まず間違いなく自分を皮肉っているだろう社長の説明に、心当たりのない表現がある事に気付いた蓮が問いを投げる。

「何だ、お前知らなかったのか。最上君がクーがに言ったらしいぞ。『敦賀さんは私にとって雲の上の人なんですっ。信仰しています!神にも等しい人なんです!!』と握り拳を作って、それはそれは力説したらしい」

壮大な愛情だよなぁ、といかにも可笑しそうに笑うローリィに、蓮はガックリと肩を落とす。確かにこれ以上はない程にスケールの大きな愛情なのかもしれないが、彼としてはそんなものが欲しいわけではない。誤変換もいいところだと内心、頭を抱える思いだ。

「とにかく彼女は経験値が少ないが故に、選り分ける事をせずに全てを受け止めてしまうんだ。好意の裏にある下心を見抜けないまま……そして、悪意に見せかけた好意にも気づかないままにな」

後半の意味深な物言いに、蓮は訝しげに社長の顔を見る。

「一悶着あったそうだな、軽井沢のロケで」
「……誰から、その話を?」

社長が指しているのが、ストーカー事件なのは明らかだ。それについて事務所の最高責任者に話を通すのは誰なのか想像はつくものの、蓮は確認の意味を込めて名を訊ねた。

「緒方君だ。監督として、そして事件の証言者として、その日のうちに連絡をくれたよ。もしマスコミに漏れるような気配があった時には、何としても押さえて欲しいとな」
「さすがに対応が早いですね、緒方監督は」
「そうせざるを得なかったんだろう。最上君を襲った本人がマスコミにリークするなどという暴言を吐いた以上はな」
「え……!?」

驚きに目を見開いた蓮を数秒の間、見つめていた社長は、状況を話すべく口火を切った。

「アカトキの不破尚……彼は最上君の幼馴染だそうだな。その彼と緒方君の二人が駆け付けるのが遅ければ、危ないところだったと聞いている」

―――バカ男二人のくだらない喧嘩のとばっちりで絡まれて……

軽井沢で蓮がキョーコから受けたのは、感情を交えない客観的な説明だった。

「最上君は男に追われて、靴も履かないまま林の中を逃げ回っていたらしい。ストッキングはビリビリに破れ、ドレスのファスナーは背中まで下ろされて、一目で異常事態だと分かる様相だったそうだ。男に捕まりキスをされかけているところを、不破君が飛び込んで食い止めたのだと聞いている」

想像を超えた状況に、蓮は思わず身を乗り出した。

「そんな……っ、そんな危ない状況だったなんて、あの子は一言も言いませんでしたよ!」
「そりゃぁ、言えねえだろうな。たかだか事務所の先輩に、男に乱暴されそうになったなどとは」
「…っ!」
「……と言いたいところなんだが、困った事に彼女がお前に言わなかった実際の理由は違うんだ」
「な、何ですか……!」

ローリィは唇を閉じ、一呼吸置いてから続きを語り出した。

「俺もこの件に関しては本人からも事情を聴いておきたくてな、最上君を呼び出したんだ。そうしたら、『バカ男二人のつまらない喧嘩に巻き込まれた為に、社長にまでご心配をおかけして申し訳ありません』と謝られたよ」
「それは……」

自分が彼女から受けた説明と同じだと、蓮は言いかけた言葉を飲み込んだ。彼よりも冷静に状況を掴んでいる年長者の、次の言葉を待つために。

「最上君にはな、自覚がない。そこまでの事をされておきながら、自分が女として襲われそうになったという自覚がないんだ」

(そう言えば、彼女はつい最近もあの男に会ったような事を言っていなかったか? それも一度ではなく、二度も……!)

大切なものと引き換えにバレンタインのチョコレートを作らされたのだと打ち明けたキョーコの表情に、怒りはあれど、恐れは全くと言って良い程垣間見えなかった。

ゾクリと背中を駆け上った寒気に、蓮は身体を震わせる。

「屈折した好意が理解できずにそれを悪意と感じるなら、徹底的に拒絶でもしてくれればいいんだが、真っ向から立ち向かうからな、彼女は。つけ狙う方も、面白くて仕方ないだろうよ」

蓮の握った手に力が込められ、白みを帯びる。

感じる憤りが、牽制したにも係わらず平然とキョーコの前に現れるレイノに対してのものなのか、警戒心のなさすぎる少女に対するものなのか、それは蓮自身にも分からなかった。




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