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Happy Birthday 2

「お姉様、嬉しそう……!」
「ああ……そうだね」

最上さんは気の置けない人達に囲まれて、幸せそうに笑っている。その様子を俺と同じように見守っているつぶらな瞳に近づく為に、腰を屈めた。

「ごめんね、マリアちゃん。楽しみにしていたのに、それを奪うような事をしてしまって」

無意識に零れ出た言葉……悪気は無かったとは言え、この少女の望みを潰してしまった事に変わりはない。

「蓮様、もういいの。私、分かってるから」
マリアちゃんがポツリと、滴を落とすような声を出した。

「お姉様の前では、蓮様は蓮様でなくなってしまうの」
「……マリアちゃん?」
謎かけのような言い回しに、疑問を込めて名前を呼ぶ。

「蓮様……覚えてる? 前に蓮様が、とっても怖いお顔でお姉様を睨んだ事があったわ。私、あんな風に怒った蓮様は初めてで、凄く驚いたの」
「……それは……」

不破のプロモの一件か……。

あの頃は自覚していなかったとは言え……いや、自覚していないからこそ、感情のままに率直に苛立ちをぶつけてしまったのだ。マリアちゃんが傍にいる事に対して配慮もせずに、あの子を怯えさせる事に怖れも抱かずに。

「でも、いつの間にか蓮様は、切ないほど優しい表情でお姉様を見つめるようになっていた。今日だって、私よりも先にお姉様にお祝いの言葉を言ってしまうし……そんな蓮様を、私は知らない」
「マリアちゃん、本当にその事は申し訳ないと思っているから」

俺の謝罪に、マリアちゃんはふるふると首を振った。

「私は知らないけど、でもそれが本当の蓮様なんでしょう?」
「マリアちゃん……」
「それが分かっているから、だから私、意地悪をしてしまったの! 一番にお姉様にお祝いを言うんだって、わざわざ蓮様にそう宣言して……っ」

真っ直ぐに下ろしている両手を握り締めて、マリアちゃんは俯き加減に感情を放った。

「だって……私だってお姉さまが大好きなのにっ!」

絞り出すような声の語尾に、震えが走る。

「私は、ずっと、ずっと蓮さまが大好きだったのに! それなのにっ……!」

ああ……そうか……。

俺の想いは、とっくにこの敏い少女に知られていたのだと、気が付いた。

「マリアちゃん」
小さな肩がピクリと震える。痛む心に触れられる事を恐れるように。

「ごめんね……そして、ありがとう」

君の気持ちに答えられなくて。
そして、俺を好きになってくれて。

日本に来たばかりの頃、必死に日本人を演じようとしていた俺に、純粋な好意を向けてくれた小さな女の子。この子の存在がどれほど俺を癒してくれたか、計り知れない。

マリアちゃんはゆっくりと面を上げ眉を寄せたが、その一瞬後にはそれまでの感情を一掃するかのような笑顔を見せた。

「お姉様をしっかりと捕まえてねっ、蓮様。他の人に奪われたりしたら許さないから!」
「……ああ、約束するよ。マリアちゃんに許してもらえないのは辛いからね」
「絶対……絶対よ、蓮様!」

縋るように手を伸ばして、ぎゅうっとしがみ付いてきた背中を、包み込むように抱きとめた。


「マリア……そろそろ寝る時間だよ。一緒に部屋に行こうか」

背後から呼び掛ける声にマリアちゃんが振り返ると、そこには笑みを湛えた彼女の父親が立っていた。

「はい……お父様!」

マリアちゃんは俺に合わせて目線を僅かに上げ、改めて念を押す。

「蓮様、私との約束……忘れないでね」
「勿論。必ず守るよ」

無垢な笑顔を置き土産に俺に背を向けると、マリアちゃんは父親へと駆け寄った。

小さな手を握り、穏やかに微笑むコウキさんの表情は『敦賀蓮』のそれとよく似ていて……俺は自らの担っていた役割と、その役目が終わった事を悟った。

一つ歳を重ねたばかりの少女は、抱えていた大きな傷を癒す方法を知り、しなやかに羽ばたき始めている。

そして、それはもう一人の少女も同じ事で―――

見知らぬ男と柔らかに歓談している想い人へと、俺は迷わず足を進めた。


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