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Happy Birthday 4

「お疲れ様、最上さん。昨年以上に様々な趣向が凝らしてあって、良いパーティだったよ」

助手席にちょこんと収まっている少女に伝えると、彼女は乾いた笑い声を上げた。

「去年は途中から社長さんのオンステージになってしまいましたから、今年は観念して最初から企画に参加していただいたんです」

それでも予定外の出来事が多々ありましたけどね、とぼやく彼女の声の響きは、決してそれを憂いている類のものではない。

「どちらにしても参加者の方と……何よりマリアちゃんが楽しんでくれれば、それでいいんです」
「勿論、最上さんもね?」
「あ、はい! それはもう、準備段階からすっごくワクワクして楽しかったです。それに、あの……私……」
「ん……?」

何かを言い淀んでいるような彼女に、前を走っている車の動きに目線を置きつつ、話の続きを促した。

「今年も敦賀さんに誕生日のお祝いをしていただけて、とても嬉しかったんです……」

思いがけず耳に飛び込んできた少し恥じらうような声に、表情筋が一枚岩のように固まる。

「子供の頃から私の誕生日のお祝いは、前日の24日だったんです。クリスマスと一緒に、というのが恒例でした」

それはかつて、聞いた事のある話だった。二つに折ったアイスを食べながら、倒木の上に肩を並べて座り込んだ、今もなお鮮やかに蘇る優しいときの思い出。

「私はそれを当たり前の事だと思っていました。一人で過ごす誕生日よりもずっとずっと素敵だって、そう信じていました。でも、実は違ったんだという事に気付いたんです」

最上さんは、ほうっと小さく息をつくと、再び口を開いた。

「だって……私、知らなかったんです。お誕生日の当日にお祝いして貰える事がこんなにもくすぐったくて、照れくさくて、心がほっこりするものだなんて。そして、それを私に一番に教えてくれたのが、敦賀さんなんです」

本当にありがとうございます……とほんわりと話す声が、車内の空気を甘やかに染める。

これ以上は無理だと感じ、俺はハンドルを左に切って帰宅の為のルートから外れ、路肩に車を止めた。

あまりにも、勿体なくて。
あまりにも、愛おしくて。

彼女の顔を見ないまま、会話を続ける事などできなかった。

「敦賀さん、どうしたんですか……?」

何の前置きもなく横道に入り、車を停止させた俺に向けられた純朴な問い。それには答えず、心のままに彼女に願う。

「ねえ、最上さん。これからも君の誕生日を、誰よりも先に俺が一番に祝いたいと言ったら、君はそれを許してくれる?」
「それは……無理だと思います」
「…っ………なぜ……?」

あっさりと下された結論。

その精神的な破壊力は絶大だったが、このまま引き下がる気は毛頭なく、辛うじてその理由を訊ねた。

「グレイトフルパーティーは、今年で役目を終えたような気がするからです。パーティでのマリアちゃんを見ていて、そう感じました」

―――お姉様をしっかりと捕まえてねっ、蓮様!

一瞬見せた哀の色を、笑顔に変えたマリアちゃんの姿が思い出される。しなやかでいて、圧倒されるほどの意志を持った、驚くほどの強さを。

「もしかしてそれは、マリアちゃんのお誕生日パーティを、感謝パーティという名前にすり替える必要はないという事……?」
「はい、そうですっ」 

我が意を得たりとばかりに、明るい返事が狭い車内に響いた。

「マリアちゃんは既に持っていると思うんです! 自分自身が作りあげた、深い闇を払い退ける力を。形ばかりの名前で、本質を隠す必要はないと認める強さを!」

ドクン、と俺を構成する芯の部分が、ぶれるように揺れた。その内容の意味するものに、敏感に反応して。

―――故意ではない。
単に状況が重なっただけに過ぎない。

……だが、おそらくは全くの偶然でもないのだろう。

君がここにいて、俺にそう語る事。
俺がそれを受け止める事。

そこに意味が生じ、必然となる。

先を見通す高揚した声と、それを信じる強い眼差しは、彼女自身が意識しないところで俺の行く道を照らし、指し示してくれる。

俺にとって君は奇跡とも呼べる存在で、君を手放す事など……ましてや、誰かに奪われる事など決してできはしない。

例え、誰に非難されようとも。
誰に恨まれようとも。

「ですから、ハッピーグレイトフルパーティを開催しない以上、敦賀さんにクリスマスにお会いする機会はありませんから、お祝いをしていただく事はできないと思います」
「どうしてできないと思うの?」
「どうしてって……」

最上さんは困惑も顕に、俺の顔を呆然と見つめた。

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