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Happy Birthday 5

「だって、クリスマスですよ? 敦賀さん」

唖然とした様子で、子供に教え諭すように最上さんは唇を動かした。

「今年だって敦賀さんほどの方なら、クリスマスパーティのお誘いが山ほどあったんじゃないですか?」

さすがに山ほどではないが、企業が主催する大規模なものから、共演者の自宅で行うアットホームなものまで、幾つかの誘いを受けたのは確かだ。だがそんなものは、最初から眼中になどない。

「敦賀さんには去年と今年と、続けて2年もお付き合いいただいたんですから、これ以上なんて贅沢は言えません。それに……」

最上さんは声のトーンを落とすと、つと視線を逸らした。

「これからはクリスマスを大切な人と過ごされる事もあると思いますから、余計な約束はしない方が良いですよ」
「大切な人、ね……」

俺が、君以外の誰と一緒に過ごすと言うのだろう。そんな風に顔を背けて、君は何を考えている?

「最上さん……こっちを向いて」
「…………」
「お願いだから、俺の方を見て話をして?」

そろりと顔を上げた彼女の、大きな瞳に揺らいだ影。それを都合良く解釈してしまいたいと、心が疼く。

「この1年、誰よりも俺の近くにいた女性は君だよ。それは分かっているよね?」
「……はい。ですがそれは、春先にカインとセツカとして一緒に行動をした、その延長線上でしかありません」
「例えそうだとしても、今の俺にとって一番身近な女性は間違いなく君だよ、最上さん」

エアコンの吹き出し口から送り出される風が、音を立てて車の中を駆け巡り、返答を躊躇っている彼女の吐息を隠し込む。

「こうして俺の車の助手席に座るのも、自宅に呼ぶのも、プライベートの時間を共有するのも、全て君だけだ。それなのに、君はそのポジションを簡単に人に譲ってしまうんだ? 君にとって、俺の隣はそんなに魅力も価値もない?」
「なっ……何をおっしゃってるんですかっ。譲るとか、価値がないとか……だいたいこの場所は私のものという訳ではありません。単に偶然や成り行きで、敦賀さんとお会いする事が多かっただけでっ……」
「それは有りえないよ」

焦って言葉を連ねる彼女に、強く断定してそれを封じる。逃げを打つ為の言い訳を、これ以上続けさせる気はなかった。

「幸いな事に俺は仕事が順調で、丸一日休みがとれる日などほとんどない状態だ。そして、君もこの一年で演技派女優として注目されて、スケジュールもかなり詰まっているだろう」
「私の場合は敦賀さんと違って、それなりではありますけど……」
「それでもね、事務所で偶然顔を合わせたり、君の仕事が早めに終わる日にタイミング良く食事の依頼をしたりなんて……そう都合良く、二人の予定が合うはずがないんだよ」
「でも実際に、敦賀さんとはよくお会いしたじゃないですか」
「そうなる為の細工をしたからね」
「えっ……」

どうしても成り行きとやらで流したいらしい彼女に少しばかり意地の悪い言い回しで答えると、驚きに見開いた眼差しが俺に説明を求める。

「つまり俺達が少しでも会えるようにと、影で骨を折ってくれた人がいるという事だよ。正確に言うなら俺が君に会えるように、かな」
「……なぜ、そんな事を……?」

薄暗い車内で、息を詰めるように最上さんが一言、声を落とした。

「その人に言わせると、俺は君が係わると年相応の顔をするらしい。何事も常に無難かつ冷静に対応していた俺よりも、君と会ってからの感情を顕にする俺の方がずっと人間らしくて好感が持てるとも言われた。進んで協力を買って出て、スケジュールの調整をしてくれるんだから、公私共にあの人には世話になりっぱなしだよ」
「……社…さん……?」

漏れ出た名前に、小さく頷く。彼女の喉が、何かを飲み下すようにコクリと上下に動いた。

「今日はマリアちゃんにも、同じような事を言われたんだ。君の前では、俺は俺でなくなるってね」
「マリアちゃんが……?」
「ああ、そしてそれが本当の蓮様でしょう、とすっぱりと断言された。どうやら俺は、君に対してかなり分かり易い行動をとっているらしいよ。…………ねえ、最上さん」

どこか不安そうに顔を曇らせている彼女の視線を、名前を呼ぶ事で捉える。二人の間で培ってきたものを、はっきりとした形にすると、決意を込めて。

「俺は君の傍にいたい。君が迎える記念日は、誰よりも最初に祝いたい。君にとって、一番の存在になりたいんだ。この気持ちは、これから先も変わることはない」
「それは……何かの気の迷いでは……っ」
「そうだね。迷っていると言うよりは、狂っていると言ってもらった方が近い気がするな。ずっと君に惑わされ続けて、狂おしい程に君を想っている」

だから、狂って我を忘れる前に。君を傷つけてしまう前に。
潔く君に求めてしまおう。

……この世で唯一望むものを。

「俺は、君を愛している。この気持ちを君に贈りたいと言ったら、君は受け取ってくれるだろうか……?」
「つ……敦賀さんからの誕生日プレゼントは、もう既にいただいています……」

掠れを帯びた声は語尾が震え、彼女の瞳に映る光が滲むように揺らめいた。

「君に贈る誕生日プレゼントは、二段構えなんだよ。後の方が本命なんだ。だから……受け取ってくれないか?」

今でき得る限りの笑顔を浮かべて手を差し出すと、潤んだ眼差しが睨むように俺を見つめる。

「いいんですか? 私、いただいたら、もう返却できないかもしれませんよ?」
「望むところだね。例えこの場で突き返されたとしても、俺は絶対に引き取らないから。クーリングオフも適用外だ」

挑む瞳に受けて立つと、彼女は露骨に眉を顰めた。

「一度受け取ったら契約破棄できないんですか? それって訪問販売より性質が悪いです」
「当然だろう? 何しろ君仕様のオーダーメイドだからね。君がダメなら他の人、という訳にはいかないんだよ」
「それは、困りましたね……」

最上さんがくしゃりと顔を歪める。
泣くように、そして笑うように。

「それじゃあ、私は受け取るしかないじゃないですか」

差し出したままの俺の手に、僅かな重みを感じた。掌に乗せられた彼女の左手を掴み、こちらへと引き寄せる。

「受け入れてくれてありがとう……Happy Birthday、最上さん」

柔らかな身体を抱いて伝えると、手に入れたばかりの幸せが可愛らしい声で呟いた。

今日は最高の誕生日です……と。






「Happy Birthday」 END


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