更新履歴


カテゴリー


タイトル一覧


リンク


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
「Happy Birthday」の続きです。例によって、おまけ話となります。





最上さんと話をする為に入った横道。そこから大通りには戻らず、いつもとは違うルートで車を走らせる。

「ところで、さっき話していた彼はドラマの共演者?」

努めてさりげなく訊ねると、「はい……」と若干浮かない声が返ってきた。

「今、放映中のドラマの収録でご一緒しているんですが、少し悪ふざけの過ぎるところがある方なんです。決して悪い人ではないのですが……すみません」
「なぜ君が謝るの?」
「それは……もしかしたらあの人が、敦賀さんにとって不名誉な事を言いふらすかもしれないからです」

不名誉?と鸚鵡返しに聞くと、「すみませんっ」と再び謝りだした彼女を止めて、その謝罪の説明を求める。最上さんは、「皆、心得ていて本気にはしないと思うんですけど……」と前置きをしてから、おずおずと話し始めた。

「私には全く理解できないんですが、あの俳優さんは何かというとすぐに恋愛事に話を結び付けようとするんです」
「ふぅん……例えば?」
「た、例えばですね……っ」

言葉を詰まらせた最上さんに、無言で待つ事で続きを促す。

「あのっ、気を悪くされないでくださいね。飽くまで、あの人が考えるだろうという事ですから」
「何であろうと気にしないから、それは心配しないでいいよ」

最上さんの切実そうな訴えをさらりと流すと、彼女は諦めたように口を開いた。

「普通に考えればとても有りえない事なんですけど……例えば敦賀さんが理不尽な嫉妬をして、あの人の元から私を連れ去ってしまったとか、実は私と敦賀さんがデキているんじゃないかとか……そんな事を考えると思うんです」
「なるほどね……」

叱られる前の子供のような声を出す彼女とは正反対に、腹の底から湧き上がってくるのは笑い出したいほどの高揚感。

「では、やはり彼の想像は大正解だったという事だ」
「なっ、何をおっしゃるんですかっ」
「だって実際に俺は、あの彼と君が親しそうに話しているのが気に食わなくて、引き離しに行ったんだから」
「そんな、『気に食わない』なんて敦賀さんらしくない言い方をわざわざしなくてもっ」
「君の前では、俺は冷静な『敦賀蓮』ではなくなるらしいからね。嫉妬もヤキモチも何でも有りだ」

声が自然に弾んでしまうのを止められない。素直に本音を出せると言う事は、これほどに解放的なものなのか。

「それに、俺達がデキていると言うのも当たりじゃないか」
「デキているって、あの時はまだっ……と言うか、そんな身も蓋もない言い方をしないでください!」
「だって、実際に君が言ったセリフだろう?」
「ですから、私ではなくてあの人の口癖みたいなものなんです! それに、私と敦賀さんとの間には、まだ何があるという訳ではありませんからっ」
「ふーーん、そうなんだ?」

隠す事なく心情を曝け出した俺の反応に、失言をした事に気付いた彼女の肩が、ビクリと竦む。

「それじゃあ、これから二人の関係を深めるとしようか。時間はたっぷりとある事だしね」
「た、たっぷりって、何の話ですか?」

歩行者用の信号が点滅を始めたのに合わせて、スピードを緩やかに落とす。停止線で車を止めると、隣の彼女が前へ横へときょろきょろと視線を動かした。

「この場所は……確か敦賀さんのマンションの近くだったような気がするんですけど……」
「そのようだね」
「確か下宿先に送っていただけるというお話だったはずですが」
「ああ、だるまやさんには既に社さんが連絡を入れているから、問題ないよ」

予想通りの問いに用意していた答えを提示すると、最上さんは水から揚げられた魚のように口を動かした。

「25日は久しぶりに、丸一日休みが確保できたんだ。君も仕事は入っていないだろう? 社さんが苦心してスケジュールを調整してくれたからね」
「な、なぜっ……」
「言ったよね? 社さんは最高の協力者なんだよ。俺と君との関係が少しでも深まるようにと、気配りをしてくれているんだ。お蔭でこうして恋人同士になれた事だし、その気持ちにはきっちりと応えないとね?」
「つ……敦賀さんっ?」

顔を真っ赤にして動揺している最上さんの頬を撫でると、焦った響きが俺の名を呼んだ。彼女が俺を意識してくれていると、そう思うだけで笑みが零れる。

「だから、夜が明けたらどこかに遊びに行こう? 映画でも遊園地でも水族館でも……君の誕生日に、君の望む場所へ一緒に出掛けよう」
「え……っ」

彼女の赤らんでいた顔が、違う色合いで紅潮していく。その様子をこの目で確認して、アクセルを踏んだ。

「あ、あの……っ、どこでもいいんですか?」
「ああ。カインとセツカの時のように、お互いに容姿を変えればそうは気付かれないと思うしね」
「私、遊園地とか行ったことがないんですっ。本当にいいんですか?」
「お姫様のお望みなら、何処へなりともお供しますよ」

うわぁ……ときらめくような言葉を落とした少女に、頬の筋肉がふつふつと緩みだす。何しろこれは、最初に用意していた、彼女への二つ目の誕生日プレゼントだったから。

今日という日に告白をする事までは考えていなかった俺に勇気をくれたのは、聖なる母の名を持つ女の子。

降誕祭に生を受けた愛しい人は、嬉しいですと鈴の音が鳴るような声で、俺の心を温かに震わせた。

関連記事

Powered by FC2 Blog
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。