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表裏一体 3

「やっぱり、これは誕生日プレゼントにならないと思います……」
「どうして? ずっと望み続けたものが貰えて、俺は今凄く幸せなのに」

甘く艶やかな音を醸す唇が、羽のように柔らかな口付けを額に落とす。与えられる温もりに、言葉も思考も何もかも奪われてしまいそうで……それでも忘却を誘うそれを振り切って、たどたどしくも話を続ける。

「でも……これでは、不公平です…っ…」
「なぜ? 俺が君の相手では役不足……? もし俺に不満があるのなら、君の要望に応えられるよう努力は惜しまないつもりだけど」
「なっ、役不足だなんて、そんな事ありえませんっ。どこをどうしたらそんな発想が出るんですか!」

実力、容姿、人間性等、全てにおいて釣り合わないのは私の方なのに、敦賀さんの思考回路は一体どうなっているんだろう。もしかして2、3箇所ぐらい何処かでショートしているか、電流が逆流でもしているんじゃないかしら。

まず私を選んだという時点で、既におかしいわよね……

やっぱりどこかで狂いが生じているに違いないわ、どうしようっ、とグルグルと悩み始めたら、ふにと指で鼻を抓まれた。

「こら、話を放り出したままで、俺を置いてけぼりにしない」
「す……すみません」

こういうちょっと意地悪な行動をするところは、間違いなくいつもの敦賀さんだわ、と何だか気が抜けて頬の筋肉が緩む。するとそれがまるで合図のように、いきなり目の前の人の表情が消えた。

「つ、敦賀さん?」

今までに何度か見た事のある顔に、また怒らせてしまったのかと思い、焦って名前を呼ぶと、敦賀さんはハッとしたように目を見開いた。

「……ああ、そうか。すっかり癖になっているな……」
「えっ?」

独り言のように呟くと、大きな手が私の後頭部に回されて、そのまま敦賀さんの胸へと引き寄せられた。

「な、な、何をするんですかぁ~っ」

機嫌を損ねたとばかり思っていたのに、どうして抱き寄せられるのかが分からず、あわあわと抗議の声を上げる。

「君があまりにも可愛いから。俺はこうしたいのを、ずっと我慢してきたんだよ……」
「か、かわ……ってっ、怒ったんじゃないんですか、私の事」
「怒ってなんていないけど、あえて言うなら俺を無邪気に翻弄する君が腹立たしくて、堪らなく愛しくて、どうにかなりそうだった」
「う……は、はあ……」

どう解釈するべきなのか理解に苦しむけれど、とりあえず本当に苛立ってはいないとそう思っていいのかしら……と言うか、何だかすっごく恥ずかしい事を言われたような気がするんだけど、これってもしかして新手のイジメで私の反応を楽しんでいたりとか……敦賀さんならありそうだわ。何かと言うと、私をからかって遊ぶんだから本当に……

「それで、何が不公平なの?」

埒もなくあれこれと考えていると、敦賀さんが私の顎を取り、促すように視線を合わせた。いきなり元の話題へと話を戻されて、困惑していた思考が一時停止する。脱線していたルートを遡り、自分が発した言葉をテープを巻き戻すように辿って……ああ、そうだったと小さな吐息を落とした。

「えっと、私と敦賀さんでは不公平になるなぁ、と思いまして……」
「それは、何に対して言っているの?」
「だって……絶対私の方が得をしているじゃないですか」

私を見つめる澄んだ瞳に、特に個性もない平凡な顔が小さく映る。

「日本中の女性が想い焦がれる敦賀さんが、こ……恋人……だなんて、これでは私が贈り物をされたようなものです。どう考えても、割が合いません……」
「全く君は、何を言い出すんだか」

明らかに呆れを含んだ響きが、乾いた風のように耳をすり抜けた。

「あのね、最上さん……」

向けられた声に、ビクリと身体が強張る。たかだか彼女になった程度で自惚れるなと、替わりなどいくらでもいると嗤われるのが怖くて。

「日本中どころか、世界中の誰よりも好きで大切で、手に入れたいと願い続けていた唯一の女性を俺は得る事ができたんだよ。どう考えても、得をしているのは俺の方だろう?」

ね?と笑いかける敦賀さんを、呆然と見つめた。

その表情はあまりにも邪気がなくて、胸がきつく絞られるような苦しさを覚えた。それはどこまでも白く広がる銀世界に、泥靴を履いた足でポツンと独り、立ち尽くしているような感覚で。

敦賀さんにそこまで思ってもらえるほどの価値が、私にはあるの……?

「最上さん……」

視線を逸らした私の頬を柔らかな手が包み込み、再び顔を持ち上げられる。

「もし君が、それでも不公平だと……俺の方が取り分が少ないと言うのなら、もう一つ欲しいものがあるんだ」
「それは何ですか?」

差し伸べられた救いの手に、はっしとしがみ付く。

敦賀さんの為に何かできるなら、私が敦賀さんの傍にいる意味が少しでもあるのなら……そう思って。

「俺が欲しいのは、君のこれからの気持ち」
「私の……気持ち?」
「そう。君に俺の事をもっと知って欲しいんだ。たくさん話をして、いろんな俺を見て、そして俺をいっぱい好きになって欲しい」
「あの、敦賀さんっ。私は敦賀さんの事は本当に、そのっ……想って、ます……っ」

表と裏、両方の誕生日プレゼントを求められて、今日この日までさんざん迷って決心した……この胸の内を誤解して欲しくなくて、きちんと受け止めて欲しくて、恥ずかしさに耐えつつも必死にそれを口にした。

「うん……ありがとう……」

目を細めて優しく笑ってくれた敦賀さんは、「でもね……」とやんわりと含むように続ける。


溺れそうなほど、大好きだって言って。

誰にも渡したくないって、我儘に執着して。

俺は君のものだって、めいっぱい独占して。

愛して、愛して、愛し抜いて……

俺が君にそうであるように。


囁くように、謳うように、敦賀さんは私の心に言の葉を紡ぐ。

「そうしたら、俺と君は初めて公平になれるのかもしれないね」

コツンと額と額が合わさり、頬を包む二つの手よりも、更に熱い二つの眼差しが私を貫いた。込み上げてくる想いが目から零れ落ちそうになるのを、奥歯を噛み締めてぐっと耐える。

この奇跡のような人の生まれた日に、涙は似合わない気がして。

「それは……私が言った『不公平』とは、意味が違うと思います……」
「いずれ分かるよ。君の想いが俺の想いと重なった時にね」

染み入る声と共に寄せられた唇に、やっぱり多くいただいたのは私の方です、と心の中で呟いて、広い背中へそっと手を回した。





「表裏一体」 END


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