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表裏一体 2

逆転した……そう感じるのは何についてなんだろう。
明らかに変化をきたした流れに、喉に絡んだ空気の塊をコクリと飲み下した。

―――君の時間と身体をいただけますか?

―――君の熟練したテクニックで、俺の身体に至上の喜びを与えてくれるんだね。

今までに何度も敦賀さんの口から繰り出された、無意味に艶めいた台詞。それは単なる言葉遊びに過ぎないはずなのに。

真っ直ぐに私を見つめる敦賀さんとの距離の近さに、自然に重心が背中へと移る。後ろに倒れそうになる身体を支える為に、毛足の長いカーペットに手をついた。

「俺は君と二人だけで過ごす時間が欲しい。君の心も身体も俺だけのものにしたい」
「え、えっと、あの……」
「一糸纏わぬ君と触れ合う喜びを身体中に感じて、至上の喜びを得たい。そう言えば、君は分かってくれる?」
「敦賀さんっ!」

狼狽えるあまりに飛び出した責めるような高い声に、鋭ささえ感じていた瞳が痛みを覚えたように切なく歪む。

「そうすれば君は、はいと頷いてくれる……?」

冗談ですよね……などとはとても言えそうにない雰囲気に押されて、無意識に後ずさりしていた身体がソファーに当たる。たった一本の腕で作られた小さな空間に囲われて、前にも後ろにも行く事ができず、いつの間にか袋小路に追い詰められていた。

「ちょ……ちょっと待ってくださいっ」
「待てない」
「ま、待てないって」
「俺はもう十分待ったつもりだよ」

引く気など全くないらしい人に、それでも茫洋と流される事はしたくなくて、何とか状況を打破しようと試みて口を開く。

「でも、敦賀さんっ」
「でもはなし」
「だけど、そんな事をいきなり言われても!」
「いきなりと思っているのは、君だけだよ」
「やっぱり、プレゼントは違うものにしてくださいっ」
「なぜ? 君は『喜んで』引き受けてくれただろう」
「絶対、無理ですから!」
「君にしかできない事なのに?」
「だって私、テクニックなんて何もない、右も左も分からない初心者ですからーっ!」

次々に言葉を押さえつけられて、何か反論しなければと一気に言い切った……その自ら放った言葉の意味を思考が咀嚼したのは、ほんの2秒後。

……一体、何を口走ってるのよ、私ーーーっ!!!

音を伴わない絶叫を上げて、ふにゃぁあんと頭を抱えて身悶える私に、敦賀さんの声が慰めるようにやんわりと落ちる。

「……ああ、それは良かった……」

穏やかすぎる声音に妙な違和感を覚えてそろぅりと顔を上げると、不敵な笑みを浮かべた敦賀さんの本気の瞳とぶつかった。

「もし君にそんな経験があろうものなら、2、30年分の涙が枯れ果てるまで啼かせてしまうところだったよ……」

……いぃやぁぁぁあああああっ!!

どこかで聞いたようなセリフだけど、以前とは年数のケタも、『泣く』の字も意味も違ってる気がする~~~っ!!!

あまりの恐ろしさにブルブルと震えていると、「そんなに怖がらなくてもいいから」と掛けられた声が、「いや、それはそれで進歩だよな」と続けられて、その発信源の人はクスクスと笑い出した。

「な、何ですか……っ」
「だってね、最初は意味が分かっているのかと思うぐらい、淡泊な反応だったんだよ。それが羞恥に声を荒げるようになり、いつの日か頬を染めるようになった……」

二本の長い腕が近づいて、ふんわりと私の頬を覆った。

「君が言うところの『紛らわしい』俺の言動を、君は流す事なく気に留めるようになった」
「敦賀…さん……」
「ずっと待っていたんだ。君が俺を意識してくれる事を。男として見てくれるようになる事を」
「わ、私っ意識なんて、していまふぇん~~~っ!?」

大きな手が私のほっぺたをムニと引っ張り、話そうとした言葉を容赦なく遮った。

「何をするんですか、敦賀さんっ」

手加減なしに抓られた頬を撫でつつ抗議すると、敦賀さんは直前に悪戯を仕掛けた人とは思えない、真剣な眼差しを私に向けた。

「言っただろう、俺はもう待てないって。今更、後戻りをするような話をする気はないんだよ」

……私はできれば後戻りしたいです……っ

と言うか、一体いつスタートをして、どこをゴールと見定めているんですか!?

聞けば尚更追い詰められるような気がして、何とか心で叫ぶだけに留める。

「最上さん、君に一番伝えたい言葉は今はまだ言わないでおくから。だからそれまでに君も覚悟を決めて」
「……何の覚悟……ですか?」

できれば聞きたくない……でも、聞かずに心の準備を怠ると、とんでもないしっぺ返しがきそうな気がして、恐る恐る訊ねた。

「それは勿論、俺の誕生日に俺の欲しいものをくれる覚悟だよ」

それ以外のものはいらないから、と神々しく笑う人に、例え趣味が合わないのだとしても、何でもいいから早めにプレゼントを用意しておけば良かったと……状況に追いつかない心が、さもしく悪足掻きをした。


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