更新履歴


カテゴリー


タイトル一覧


リンク


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

タイミング 13

「俺の気持ち……?それがあなたに分かるとでも?」
蓮は機械的な冷たさを思わせる声で田中に問いかけた。

「今の君の表情を見れば分からない人間の方が少ないと思うよ」
一歩たりとも引く気配を見せずに田中が答える。

「だいたいね、俺が彼女に告白したところで君にどうこう言われる筋合いはないだろう?」
「……彼女は今、自分を作ることを第一の目標としています。そんな彼女の心を不必要に揺さぶるようなマネはしないでいただきたい」
「それは君の理屈だろう?」

田中はコツンッと指でテーブルを軽く弾いた。

「自己啓発と恋愛を両立したっていいじゃないか。それがどちらにもプラスに働くことだってある」
「それができない事情が彼女にはあるんです。現にあなたの告白に彼女は戸惑うばかりだったでしょう」
「そうだね、そしてあの子は君に助けを求めた」

そう……あの時キョーコちゃんは縋るように、それが当たり前であるかのように蓮を見たんだ。

「そのことからも分かるでしょう。『事務所の先輩』に思わず頼ってしまうほどに、彼女は恋愛というものにひどく抵抗を感じているんです」
蓮は苦しそうに眉を顰めると、スッと目を逸らした。
「だから、俺は……っ」

言い掛けて、蓮は口を閉ざした。
その後に続く言葉を心の内に飲み込み、意思の力で封じ込めるかのように。

「あれがそういう解釈になるわけだ、君にとっては」
ふうっ……とおもむろに息を吐くと、田中は俺の方へと身体を向けてテーブルに肘を突いた。

「おい、こんな調子だと本当に『いい先輩』で終わっちゃうぜ。どうするんだ、社。お前応援してるんじゃなかったのか?」
「あ、ああ。でもこいつ、こんな顔して恋愛音痴だから」
いきなり話を振られたことに面食らい、普段思っている言葉がつい口から滑り出た。

「れ、恋愛音痴?」
鸚鵡返しに聞く田中に、コクリと頷いて肯定する。
「敦賀蓮が?」
「そう」
「抱かれたい男№1が……?」
「まあね」
更なる念押しに、本人を前にして言うことに少しばかり抵抗を感じつつも頷いてみせる。

田中は数瞬の沈黙の後、派手に噴出すと片手で頭を抑えて笑い出した。

「田中さん……!」
ヒクヒクと笑い続ける男に一人置いていかれた形の蓮が、不機嫌そうに呼びかける。 

「あ、いや、悪い……しかしキョーコちゃんも面白い子だけど、君も相当だよな……!行動は分かりやすいのにやたら理詰めで来るし、その割に肝心なところが分かっていなかったりするし……っ」
可笑しそうに話す田中に、蓮が露骨に顔をしかめた。

「少なくとも褒め言葉ではないようですね」
「ああ、でも決してけなしているわけでもないよ」
田中は憑き物が落ちたようなすっきりとした表情で、蓮を真っ直ぐに見て言い切った。


「これでもさ、かなり緊張してたんだぜ。大真面目な告白だったんだから」
田中はその言葉の意味するところとは逆におどけた調子で言うと、先程のキョーコちゃんの忠告を気にすることなくゴクゴクとビールを飲み干した。
空になったジョッキを音を立てて置くと、ヤツはゆっくりと目を閉じた。

「ここでの酒もこれで飲み納めだな」
一ヶ月通い続けたというこの居酒屋での、キョーコちゃんの姿を思い浮かべているのだろうか……田中は小さく微笑んだ。

「さて、呆気なく振られた俺としてはそろそろ帰るとするか」
腰を上げ、木筒の中に入っている伝票を取ろうとした田中を蓮が手で制した。

「田中さん、せっかくの旧友との語らいの場に乱入する形になってしまいすみませんでした」
蓮が座したまま、スッと頭を下げた。

「今更何を言ってるんだか」
田中は呆れたように言うと、首を少し傾げて肩越しに俺を見た。

「こんな真面目な堅物と一緒にいると大変だろう?」
「仕事をする上では捗って助かるけどな。それにキョーコちゃんと会ってからは色々と遊べるようになってきたし」
「へえー、それは愉しそうだな」
「俺は社さんの玩具になった覚えはありませんが」
ニヤニヤと話す俺達に、蓮がふてくされた様子で一言呟く。

「な?」
「確かに」

田中と共に含み笑いを漏らすと、前にいる男は手に負えないとばかりに右手で顔を覆った。
その大きな手から隠れ見える口角が、少し上がっているように感じるのは気のせいではないだろう。

邪魔をした侘びに会計は全て自分が払うと言う蓮に、田中は首を横に振った。
「失恋したあげくに奢って貰いました、だとなんか俺悲しくないか?せめてあの敦賀蓮に奢ってやったんだと胸を張って言わせてくれよ」
そう言うと田中はさっさと伝票を手に取り、鞄を持つと立ち上がった。

「敦賀君、今日はいい経験をさせてもらったよ……ありがとう。これからは君とキョーコちゃんの活躍を一視聴者として応援させてもらうよ」
「ありがとうございます。俺もあなたと話せて良かったと思います」
「ああ、じゃあな。……社、連絡くれよな。また会おうぜ」

別れの挨拶を済ますと田中は襖に手をかけた……が、ふと動きを止めて俺達を振り返る。

「あ……そうそう、敦賀君。俺楽しみにしてるから」
「……?何をですか?」
「一体何年後に君とキョーコちゃんの交際発表がマスコミで報道されるのか」
「え……ちょっ…」

2年後くらいか?いやこの調子だと10年以上かかるかも……などと独り言を言いながら、田中は背を向けたまま右手をひらひらと振って、後ろ手に襖を閉めて部屋を退出した。

「だから、そういう関係では……」
と、今尚しつこく認めようとしない蓮の言葉を室内に置き去りにしたままで。


関連記事

Powered by FC2 Blog
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。