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タイミング 14

「大丈夫っ!今日は俺、電車で帰るからさ!もともとそのつもりでここに来たんだし、送ってもらうとお前が遠回りになるだろう?」 「遠回りと言っても大した距離じゃありませんから。車で来ていることだし送りますよ」

ニコニコキラキラと笑顔も眩しく「送っていく」という蓮に、俺は力の限り辞退する意を表明した。
何が怖いって、この光輝く笑顔が怖い。
これからこの男と車中で二人きりになるなど、恐ろしくて考えたくもない。

「どうしたんですか?」
ひょっこりとキョーコちゃんが顔を出した。

「社さんに車で送りますからって言ってるのに、必要ない、電車で帰ると頑として聞いてくれないんだよ」
蓮が困ったようにキョーコちゃんに状況を説明する。

お前、そんな言い方したら……

「送ってもらえばいいじゃないですか、社さん。敦賀さんはお酒は飲んでませんし、運転に問題ないでしょう?」

やっぱりそういう話になるよな。
でもさ、俺が恐れているのは運転に問題があるとかそういうことじゃないんだよ、キョーコちゃん……

「ほら、最上さんも勧めていることだし……ね?」
蓮の笑みが一層深くなり、俺は既に壁際まで追い詰められていることを悟った。

「あ……ああ、分かった、送ってもらうことにするよ。余計な手間をかけてすまないな、蓮」
これ以上言ったところで無駄な労力を費やすばかりだ……俺は死刑台に登る気持ちで車に乗る覚悟を決めた。

「社さんは結構ビールを飲んでますし、俺もその方が安心ですよ」
いかにもこれは好意です、と言わんばかりの言動が小憎らしい。

「お二人ともお帰りになるんですね。先ほど田中さんがお会計を一通り済ませてくださいましたけど……」
「ああ、すっかり彼にご馳走になってしまったよ」
「楽しいお酒だったみたいですね。三人でずいぶん盛り上がってお話されてましたし」

盛り上がる……か。
うん、いろんな意味でね、盛り上がってたよ。
気分はさながらジェットコースターだ。
キョーコちゃん、君を巡って修羅場が繰り広げていたんだよ、なんて言ったところで信じてはくれないだろうけどね。

「でも田中さん、せっかくお知り合いになったのに、これからお仕事が忙しくなってここにも来られなくなるって……ちょっと寂しいですね」
「え……?」
「会社で新しいプロジェクトを立ち上げるのに、そのグループ長にならないかと打診されて迷っていたっておっしゃってました。成功するかどうかは不透明で責任も重くなるからって。でも……」

キョーコちゃんは蓮と俺に物問いたげな視線を送る。

「私のおかげで引き受ける決心がついたって言われたんですが……私、何かしましたか?」
彼女は不思議そうに首を傾げたかと思うと、ハタと何かに気づいたように顔を引き攣らせる。

「も、もしや反面教師というやつで、私、気づかないうちに何か大失態でも犯したのでしょうか!?やっぱりタラシ発言がまずかったのかしら?」
どうしようとアタフタしだしたキョーコちゃんに、蓮が落ち着かせようと穏やかに話しかける。

「最上さん。彼はきっと君と同じように新しい自分を作ることを決意したんだよ」
「え……っ」
「彼は目標を持って生きている君に共感したんだろう。最上さんの熱意が伝わったんだね」
「それ……本当ですか?だとしたら嬉しい……」
キョーコちゃんは頬を染めて、花が開くように笑った。

「私、こんな抽象的な話、理解してもらえるわけないって思っていたんです。だから、前に敦賀さんに『分かるよ』って言ってもらえた時も凄く嬉しくて、この信頼に応えたいって心から思って……」

ほんわりと語るキョーコちゃんの表情がすっと引き締まり、意思を持った瞳が蓮を真っ直ぐに見つめた。

「敦賀さんのような俳優になれるように、少しでも近づけるように頑張っていきたいって……それが今の私の目標なんです!」

蓮はキョーコちゃんの力強い宣言に虚を衝かれたような顔をし……そして何もかもを包み込むような柔らかな笑顔を見せた。

「おいで……俺の所まで。君が上ってくるのを俺は楽しみに待っているから」
「はい!全力で駆け上がっていきます!敦賀さん、油断していると追い越しちゃいますよ!」
「言ってくれるね。俺も今の地位に甘んじるつもりはないよ。差が広がらないように気をつけるんだね」
「望むところですっ!」

二人のやり取りを俺は清々しい思いで見ていた。
恋事に関してはまだ通じ合う気配もないけれど、でも確実に結ばれている二人の絆を目の当たりにした気がする。

「……それにしても、田中さんまで私の気持ちを理解してくれるなんて思ってもみませんでした。ちょっと性質の悪い悪戯を仕掛ける人だけど、本当は真面目な人なんですね」

性質の悪いって……あの告白のことか!?
キョーコちゃんにかかるとあれも悪戯で片付けられてしまうのか。
田中も報われないな……

「あの時は突然あんなことを言われて、この人本気なのかなって私ちょっと驚いてしまって……」

おや、キョーコちゃん赤くなって俯いた?
丸っきり伝わってないわけでもなかった……のかな……?
良かったなぁ、田中……!

……あ、れ…………?
なんか、蓮の気配が変わった気が……?
もしかして、目が据わってないかっ!?

「……最上さん」
「は、はい!?」
下を向いていたキョーコちゃんが、名前を呼ばれてすっくと姿勢を正した。

「本当に君はいつも疑うことを知らずに、真正面に物事を捉えて何事にも一所懸命で」
蓮の右手が迷うことなくキョーコちゃんへと伸ばされ――

「見ていて苛つきを覚えることすらあるよ」
――その赤みを帯びた頬に触れる。

「頼むから他の男を想って、そんな顔をしないでくれないか……?」
切なげに愛おしげにキョーコちゃんを見つめる……眼差しに全ての想いを込めるように。

「俺は君が好きだよ、最上さん」

キョーコちゃんは今自分に何が起こっているのか分からないといった風に、微動だにすることもできずにいた。


ぷっ……!くっくっくっ…………

沈黙を破ったのは蓮の、もう堪えきれないと言わんばかりの笑い声だった。

「……つ、敦賀さんっっ!?」
「い、いや、ごめん。あんまり君がカチンコチンに固まってしまったものだから、可笑しくって……」
下を向き肩を震わせる蓮に、キョーコちゃんが怒りに顔を朱に染める。

「もーーーーっ!どうせ私は騙されやすいですよ!!人で遊ぶのはやめてください!敦賀さんの嘘つき、意地悪、いじめっ子ーーっっ!!」
キョーコちゃんは思いっきり叫ぶと、即座に部屋を出て行ってしまった。

…………蓮っ、そこで笑っちゃダメだろう?
全部本音のくせしやがって!

ああ、この分じゃ本当に交際宣言まで10年コースかもな……


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