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タイミング 15

いつも座り慣れているはずの左ハンドルの外車の助手席。 そこが針の筵に感じるのは気のせい……ではないよな、やっぱり。

有料駐車場の出口にあるバーが機械音を響かせて上へと上がり、車は夜の街へ滑り出た。
アクセルが踏み込まれスピードが乗り始めると、窓から見える電灯の光が一条の線となって流れていく。

「社さん」

できればこのままボーーッと外を眺めていたい……と思うんだが、運転席の男はそれを許してはくれないらしい。

「なんだ、蓮」
「今日はメールをありがとうございました」
「どういたしまして」

ここで会話を打ち切れればいいんだが、そうはいかないんだろうな。

「ところで」

ほら、きた。

「オフの日に社さんと飲むことになるとは思ってもみませんでしたよ」
「それは俺のセリフだ。まさか後先考えずに大衆居酒屋に乗り込んでくる向こう見ずがいるとは思わなかったぞ」

こうなったら先手必勝だ。
どうせ避けられない話題なら先に核心を突いて流れを掴んだ方がいい。

「心外ですね、俺としては助け舟を出したつもりですが。いくら社長が愛に理解があると言っても、事務所のタレントに異性を紹介するのは不味いでしょう」
「俺がそんなことをすると思うのか?それほど信用がないとは、お兄さんはちょっと悲しいなぁ」
「誰がお兄さんですか。……社さんはそう思っていても、お知り合いの頼みとあっては断りづらいものでしょう。実際に会ってみて悪い人ではなかったですし」

悪人だろうが善人だろうが、よりによってキョーコちゃんを他の男に紹介するなんて命知らずなマネを俺はするつもりはない。
だが…………

「確かにお前が来たおかげであいつも諦めやすかっただろうとは思うよ。いや、諦めざるを得なかったと言うべきか」
「嫌な言い方をしますね、社さん」
「何をすっとぼけたことを言ってるんだ、この策士め」

ハンドルを切る端正な男の顔を横目でジロリと見る。

「お前は観察してただろう?田中を。そしてヤツをキョーコちゃんから離す方法を計算していたんだ」

切々と田中が語るキョーコちゃんへの想い。
それがどんなものなのか、どれほどの入れ込み方なのか。
そして田中とはどのような思考をする人間なのか……冷静に分析していた。

田中が単なる興味本位でキョーコちゃんに近づこうとしていたならば、蓮は単に凄んで一睨みするだけで終わらせていただろう。
だが、それだけでは無理だと判断したコイツは作戦に出た。

「田中は敦賀蓮を『違う世界』の人間だと言い切り、キョーコちゃんを『普通で平凡』な少女と評価した。お前はそんなアイツに彼女が田中の側ではなく、自分の側にいる人間だと示唆したんだ。もっとも効果的なやり方でね」

蓮は俺の言葉を遮る様子もなく、黙ったまま運転に従事している。

「未緒という役柄はそれをヤツに知らしめるには正に打ってつけだった。キョーコちゃんのイメージ破壊に加えて、うまくすれば彼女への恐怖心さえも植えつけることが可能だからな。お前はキョーコちゃんに演技をするように仕向け、田中をも巻き込むように目論んだ」

――「ねえ、そこにいるんでしょう?美月」
背後にいるはずの美月に、未緒が甘く声をかけたあの一瞬。

「未緒が美月を呼びかけた時、嘉月であるお前は彼女の斜め後方にいた田中に目を走らせたんだ。だからキョーコちゃんはアイツを美月に見立てて演じた。いつも撮影を見ている俺でさえ間近で彼女の演技を見て鳥肌が立ったくらいだ。キョーコちゃんが未緒を演じているという驚きも冷めやらないままに、初めてその演技に触れた田中は相当なショックを受けたことだろう」

蓮が横で、ふーーっと深く息を吐いた。

「あの時、俺が田中さんを見たなんてよく気づいたものですね。さすがマネージャーというべきでしょうか」
「敦賀蓮の演技を誰よりも長く見てきたと自信を持って言えるからな、俺は」

本気で青ざめ身体が自然に震えていた、あの時の田中の姿が脳裏に蘇る。

「あの場でのお前の包囲網は完璧だったよ。本来酒の席の余興で演技をするなんてシチュエーションなら、お遊び半分で適当にそれらしく演じて見せて終わりだろうが……本気モードのお前の嘉月を見て、キョーコちゃんの未緒にもスイッチが入ってしまった。その結果、彼女は本番そのままに真剣に演じたわけだ……田中が気の毒になるぐらいにね」

「そこまで見破られては参りましたね」

蓮はそう呟くと小さく肩を竦めた。
その様子に悪びれたところはなく、ささやかな悪戯が見つかってしまったという印象だ。

蓮……やっぱりこいつ、見かけ通りの「温和」な人間なんかじゃないな……
敵には回したくないタイプだ。

「だが、ただ一つ計算違いなことには、それでも田中はしぶとく食い下がってきたんだ」
「ええ……さすがに社さんの友人というだけはあると思いましたよ」

それはどういう意味だ?と返したくなるところをとりあえず堪えた。
ここまできて話を脱線させても仕方がない。

「そのことについては俺も聞きたいことがあるんですが」
受けの体勢でいた蓮が、思わせぶりにニコヤカに言い放つ。

「俺がたかだか数分間、席を立っていた時に一体どんな会話をしたんですか?」

……嫌な予感がする……あまり触れたくないような……

「もう諦めムードだったはずの田中さんが最上さんに告白をするなんて、俺も本当に計算違いでしたよ」

他人が見れば上機嫌とも思える声音で、蓮が攻めに転じてきた。

……まずい……!話のイニシアティブ、逆転か!?


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