更新履歴


カテゴリー


タイトル一覧


リンク


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

タイミング 16

「さすがにね、少しショックでしたよ。信じてたのに裏切られた気分でいっぱいでしたね」

どこかで聞いたようなセリフを今、再び繰り返す担当俳優。

「裏切り者の烙印を押そうかと本気で考えてしまいました」
はぁっとため息を吐く様がなんともあてつけがましい。

「念のために言っておくけど、あれは俺がけしかけた訳じゃないからな」
「では一体どういう事情で、あんなことになったんです?」
俺から話を引き出せそうだと見るや否や、蓮は婉曲な言い方をやめてストレートに聞いてきた。

しかし俺が言い淀んでいたのは、別に話すのが嫌だからと言うわけじゃない。
なぜ田中が告白を決心したのかと問われても、それにはっきりと答える術がないからだ。

あの時あいつは蓮の意図を理解したうえで、自分がキョーコちゃんの傍にはいられないのだと諦念していた。
俺自身、彼女を前にしての田中の言動にはひどく驚かされた。
だから……あえて言うならば。

「最後の打ち上げ花火だろうな……」
どうせ叶わないのなら、せめて気持ちだけでも伝えたかったのだろう。

「ケリをつけたかったんだな、あいつなりに」
「………………」
「…………蓮………?」
妙な間を感じて、隣の男の顔を見る。

「いえ……最後の打ち上げ花火、ですか」
「ああ、無理だと分かっていても玉砕覚悟で告白して、パーッと花を散らしたかったんだろう」
「そういうことですか……」
得心したといった風の蓮を見て、ふと疑念が湧く。

まさか言葉の意味が分からなかった、とかいうことじゃないよな。
俗に使われている言葉だし日本人なら聞いたことぐらいはあるだろう。
今の若い者は古典的な言い回しとか比喩表現に弱いと言うけれど、蓮はそういうタイプではないし、考えすぎだよな、きっと。

「確かに……引き際は鮮やかでしたね、田中さん。あの子を困らせるようなら、どう対処しようかと思いましたが」

どう対処しようかって………

その言葉に、田中がキョーコちゃんに告白した時の蓮の様子を思い出す。
殺気さえ感じるほどの視線でヤツを睨み付け、テーブルに置かれた手は蒼白になるほどにきつく握り締められていた。

田中が引かなかったら本当にどうするつもりだったんだ、こいつ。
軽く言っているが結構本気だろう、それっ。

……もしかすると田中は安全バーのないジェットコースターに乗り込んでいたのかもしれないな……
背中に一筋、冷たい汗が流れるのを感じた。


「……あの時、最上さんに縋るように見つめられて、俺は言葉をかけることができませんでした」
蓮の横顔が僅かに歪みを見せる。

「いえ、声が出なかったというのが正解かもしれません。俺はあの子が俺を頼ってきたというのに、先輩としてそれに応えてやる事ができなかった」

蓮はなぜそこまで縛られているのだろう、先輩という立場に。
あえてその枠から出ることを拒絶しているかのようだ。

「別に応えなくてもいいじゃないか」
「っ……!」
俺の言葉に抗議をするかのように蓮が言葉を詰まらせた。

「別に先輩として応える必要はないだろう?敦賀蓮として、一人の男として応えてやれば良かったんじゃないか?」
「……できません」
「どうして?」
「そんなことをしたら、俺は何を口走るかっ……!」

咄嗟に出た言葉を後悔するかのように、蓮がぐっと唇を噛んだ。

こいつも本音を出すようになってきたな。
いや、むしろ抑えきれずに漏れ出てしまうという感じか。

青春だなぁ、俺もこんな時期があったよ………
思わず遠い過去を振り返る。
友情と恋情とどちらの感情が重いのか、天秤にに計っては揺れ動いていた日々。

――「あれがそういう解釈になるわけだ、君にとっては」

言うべき言葉を失くして見詰め合っていた蓮とキョーコちゃん。
そこにある空気は先輩・後輩というよりは 男女のそれに近かった。

そのことに気づいたのは当の本人達ではなく、第三者の田中と俺。

田中にしてみれば勇気を振り絞って告白をした結果、見せ付けられたその光景に耐えられなかったのだろう。
そこまでの関係でありながら先輩で押し通す蓮に腹を立てて、アイツは恋敵を問い詰めた。
まあ結局、蓮がその事実に全く気づいていないことを知り、毒気を抜かれてしまったわけだけどな。

「肝心なことが分かっていない」
蓮が運転のために真っ直ぐに前を向いたまま、言葉を紡ぐ。

「田中さんにそう言われました。俺は、何を見落としているんでしょうか」

真摯に聞いてくる蓮に、俺はどう答えるべきかと躊躇する。
だが、これについては……

「蓮。例え俺が答えを知っていて説明したとしても、お前はそれを受け入れられない気がするよ。自分自身で答えを見つけなければ、きっとお前は納得することができない」
「……そうですか……」

こいつは心の奥底では気づいているはずだ、その言葉の意味するところを。
だが、何らかの理由で戒めている錠が、それを受け入れることを拒否している。

蓮……早く気づけよ。
その錠を開ける鍵を持っているのは、キョーコちゃん唯一人だということを。



関連記事

Powered by FC2 Blog
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。