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タイミング 3

聞こえてないよな?
直に話したわけじゃないもんな?
携帯はそんなに音を拾わないよな?

俺にとって都合の良い予想が頭の中で次々に浮かび上がる。

逃避したい気持ちをなんとか現実へと戻し、携帯のマイク部分を手で抑えて田中に電話が来ていることを告げる。
そして俺は清水の舞台から飛び降りる心地で、今の心情とは正反対の声で電話に出た。

「もしもし!社だけど、どうした?」
「…………社さん、今どこにいるんですか?」

深い闇の底から這い上がってくるような声に、俺は最悪の事態に陥っていることを察した。

「だ、だるま屋だよ。キョーコちゃんの下宿先の」
「場所、教えてください」
「教えてくださいって、お前」
「俺は二度言うつもりはありませんよ」

ここで俺が抵抗して教えなくても、こいつは自力で調べて辿り着くに違いない。
必要最低限にしか言葉を発しない蓮に恐怖を感じつつ、奴の言う通りに手早く説明をする。

「わかりました」

プツッと予告なく切れた携帯に、ヤツの憤りが大きいことを知る。
あの蓮が礼一つ言わず、終わりの挨拶もなく電話を切るなど前代未聞だ。

「ふふふふふふふふ」
感情の欠けた乾いた笑いが自然にこみ上げてくる。

「お、おい社どうした!?」

お・ま・え・の・せ・い・だ・ろ・う!

何も知らずに暢気に人の心配をする男に怒りがこみ上げる。

だが……
コイツも悪気があったわけではない……!
そう、悪気はなかったんだよなっ!!!

ああ、落ち着け俺。

とにかく、今できることをやるしかないだろう。

「田中、悪いことは言わないからキョーコちゃんはやめておけ」
「なんでだよ。お前の彼女ってわけじゃないんだろう?」
「それはそうなんだが」

田中は顔をしかめて不満そうに言葉を続ける。

「何か彼女に問題があるのか」
「そういうことではないんだ。キョーコちゃんは文句なくいい子だよ。ただ、当たり前の話だけどそういう子に魅かれる男は少なくないということが問題なんだ」
「それで?」

危険が迫っている以上、遠まわしな言い方は意味がないと判断し、目の前の男にダイレクトに説得を試みる。

「彼女をそれはもう、宝物のように大事にしている男が既にいるからさ。正直なところ、俺もそいつを応援しているんだ」

だから諦めてくれよ、と肩を竦める。

「彼女に見合った男なのか?」
「ああ、それはもちろん俺が保証する」

世間一般から見ればキョーコちゃんの方が不釣合いだという声が出そうなくらいに性格・容姿も良く地位が確立された男だ。
だがあいつが本当の自分を出せるのは彼女だけだし、俺自身はこれ以上はない位、似合いの二人だと思っている。

「俺よりもイイ男なのか?」
「う……それは……まあ………ね」
実際そうなのだが、きっぱり言い切る訳にもいかず語尾を濁す。
「あ、そうなんだ、ふうん」

ヤツの反応に心の内でしまったと舌打ちをする。
こいつはそこそこ顔も頭も良いため、自尊心が高い。
俺の返事が癇に障ったらしく、据わった目でじとりと睨みつけてくる。

「さっきの電話、そいつからだったんだろう?ここの場所を教えてたよな」
「あ、ああ」

だから俺がこうやってお前を説得しているんだろう。
大嵐が来る前に、せめて被害を最小限に抑えようとっ。

「じゃあ……」
田中はテーブルの上で頬杖をつくと、ニヤリと笑った。
「俺の納得のいく奴かどうか、せいぜいそいつの顔を拝ませてもらうとするかな」

なんだと!?

「だっ、ダメだ、ダメダメダメダメ!」
蓮が来る前になんとかこいつを店から出そうと思っていたのに逆効果だ!

テーブルにバンと手をつき叫んだ俺に、周りの客の視線が集中する。
何事かと驚いたキョーコちゃんが俺達の席へと走り寄ってきた。

「社さん、どうしたんですか!」

心配顔のキョーコちゃんに我に返り、大声を出した事を謝る……と同時に、更に謝っておかねばならないことに気付いた。

「あのさ、も一つごめん、キョーコちゃん」
「え?」
「もしかしたら、ちょっとこの店、騒がしくなるかもしれない」
「……?どういう意味ですか?」
「アイツがだるま屋の場所を知りたいって言うんで、教えちゃった」

俺の言葉にキョーコちゃんの顔がサーーーッと青ざめる。

「アイツって、まさかあの人ですか」
「そう、キョーコちゃんの先輩のアイツ」
「なんであの人がここに来るんですか!?だいたい、こんなお店に顔を出せる人ではないのにっ」

こんなお店ってキョーコちゃんがお世話になっている店だろう、と頭の中で突っ込みつつも正にその通りなので言葉には出さない。

「いや、ちょっとした行き違いがあってね」

恋の原動力って凄いよなあ。
いや、むしろ嫉妬パワーというべきか。
思わず遠い目になる俺の横で、キョーコちゃんは顔を蒼白にしている。

「お店に来るってだけで、キョーコちゃんがそんなに悩むような奴なんだ?」
彼女の様子を見て、田中が余計な口を挟む。

「それはそうですよ!あの人が来るなんて洒落になりません!!」
「へえ、洒落にならないってもしかして俺のこと?」

頭上から降って来た声にキョーコちゃんがピキリと固まった。
それは俺にしても同様で。
焦る余りにこれだけ目立つ奴が店内に入ってきても気付かなかったとは不覚としかいいようがない。

今はただ嵐が無事に通過してくれることを、祈ることしかできなかった。



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