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ダークムーンの撮影で、貴島とキョーコが初めて対面する話です。貴島の性格は思い切り捏造してますが、それでもOKな方はどうぞ。




「おはようございます、貴島さん!」

大荷物を抱えて挨拶をするスタッフに、笑顔で同じ言葉を返す。
今日は他のドラマの撮影を終えてからの入りで、共演者は既に揃っている状態だ。
居間を模したセットでは、大原さんの演じる操が美月である逸見ちゃんを激しく詰っている。

場内を見渡しても本郷家の撮影がメインのために、美月の友達役など若い女の子の姿はほとんどない。
ここのスタッフは本当に男が多いよな……と少々がっかりした気持ちで控え室に入り、着替えを済ませる。

「本当に君はいつになったらまともに携帯を使いこなせるんだ……?」

再び撮影現場に足を踏み入れた時、呆れたように話す敦賀君の声が聞こえてきた。
いつも鉄壁の笑顔を崩さない彼が珍しいな……
そう思って目をやると、彼はこの現場でまだ見かけたことのない高校生ぐらいの女の子と話をしていた。

「すみません……私、あまり携帯を使わないもので鞄に入れたら入れっぱなしということが度々……」
「それにしたってマメなチェックは必要だろう。事務所からの連絡は最優先事項なんだからね」
「それは椹さんにも言われました。『君は俺と話をするのが嫌なんじゃないだろうな!』って皮肉混じりに……」

返す言葉も御座いませんとばかりに恐縮している女の子。
その彼女を見下ろしながら、敦賀君は溜息を付いた。

「そういえば君はそのパターンで、社長に一日中電話をかけさせて泣かせたこともあったな」
「うっ……」

止めを刺されたとばかりに落ち込む彼女に、二人の傍らにいる敦賀君のマネージャーがハラハラと気を揉んでいる。
何度もNGを出し続けるトンデモ女優を相手にしても笑ってフォローをする彼が、ここまで女性を追い詰めるなんて一体どうしたんだ……?

疑問に思っていると、スタッフが三人に近づき撮影シーンが変わることを敦賀君に告げた。

「最上さん、無駄足になってしまって君も気の毒だったけど、これからは気をつけるんだよ。これが逆のパターンなら仕事に穴を開けることになっていたんだからね」
「はい……本当に申し訳ありませんでした」
謝罪する彼女に敦賀君は分かったとばかりに頷くと、共演者の待つ本郷家のセットへと向かった。

「蓮はああ言ったけど、あまり気にしすぎないようにね」
目に見えて肩を落としている少女に、眼鏡のマネージャーが慰めの言葉をかける。
「いえ、敦賀さんがおっしゃるのはもっともですから……これからは気をつけます」
「まあ……それに越したことはないんだけどね。ちょっとした行き違いでチャンスを逃すこともあり得るから、この業界は……っと、電話だ……」
彼は背広の胸ポケットから薄い手袋を取り出すと、それを手早くつけて携帯の発信元を確認する。

「ああ、例のCMの件だな……ごめんね、ちょっと外に出て受けてくるから」
「では私はお先に失礼しますね、社さん」
彼女は敦賀君のマネージャーに一礼をすると、彼が向かった扉とは違う方向……すなわち俺が立っている出入り口へと歩いて来た。

あの敦賀君に苦言を呈させる少女……ねえ。

「最上さん」
「え!?」
不思議そうに俺を見る彼女に、再度その名を呼ぶ。

「最上さんだろう?君」
「え、ええ、そうですけど……私、あなたとどこかでお会いしたことありましたか……?」

名前を呼ばれることに疑問を覚えると言うことは、まだそれほど売れてはいないのだろう。
美月の友人役の一人というところか。

「いや、君とは初対面だよ。敦賀君が君の事をそう呼んでいたからさ」
種明かしをすると、彼女は納得したとばかりにホッとした顔をする。

「私、以前お会いしたのに覚えていないのかと思いました。失礼なことをしているのかと……」
「ごめんな、紛らわしい言い方をして」
形として謝罪の言葉を述べると、彼女は謝ってもらうほどのことではないと小動物のようにふるふると首を振った。

素直な反応をする子だな……今時では珍しいくらいに。

少しばかりの好意を覚えつつ、俺は先程の疑問の答えを得るために更に彼女に話を振る。

「悪いなとは思ったんだけど、敦賀君との会話が聞こえてきてさ。君ってあまり携帯を使わないの?」
「はい。事務所からもらってはいるんですけど、受けるばかりでほとんど使わなくて」
「それで電話がきていることに気づかずに、トラブルが発生したとか?」

ズシンと地にめり込むが如く、沈み込む少女。
その彼女に視線を合わせるために若干屈んで、俯いた顔を覗き込む。

「余計なことを聞いちゃったかな?落ち込ませるつもりはなかったんだけど……ただ、俺でも力になれることがあればと思ったからさ」
俺の言葉にきょとんと目を丸くしてなぜかと理由を聞く少女に、女性を口説く時の定番の笑顔を向ける。

「可愛い女の子が困っていたら、助けたくなるのが男ってものだろう?」
「……可愛い女の子って、誰のことですか?」
頬を赤らめるでもなく、目の前の少女は抑揚なくそう切り替えしてきた。

「俺の目の前にいる君以外には、誰もいないと思うんだけど……?」
思いがけない反応に多少引き攣りつつも、気を取り直して言葉を続ける。

「お、おい!?話の最中だろう!」

彼女は大きく息を吐くと視線を扉へと真っ直ぐに向け、無言で俺の傍らを通り抜けようとした。
その行動に驚き、慌てて彼女の腕を掴む。

「私、初対面の女性にいかにも有りがちな褒め言葉を言う、正体を失った酔っ払いのような人は相手にしないことにしているんです」
「ちょっと待て、誰が酔っ払いだって?」

幾らなんでもその例えは酷くないか?
少なくとも俺は好意を前提に話をしているのであって、そこまで言われる筋合いはない。

「手を離してもらえませんか。今日は私、この撮影所にいる必要はないんですから」
「どうして」
不機嫌そうに言う彼女に、条件反射の如く口から疑問の声が出る。

「今朝、急に予定が変わって3日後に撮影するはずだったシーンを今日撮ることになったので、私の出番はないそうです」

予定変更……確かにその連絡は今朝早くに来た。
だから俺は違うドラマの撮影と予定が被ってしまい、他の出演者よりも遅れてこのスタジオに入ったわけだが。

なるほど、そういう事か。
彼女は朝、事務所から携帯に電話があったことに気づかずにこの現場まで来てしまい、それを敦賀君に注意されていたわけだ。

「ふ~~ん」
「な、なんですか……?」
たじろぐ少女に俺はニヤリと笑ってみせる。

「携帯のチェック一つで防げたミスということだな」
「……!」
俺の言葉に彼女はグッと言葉を詰まらせる。
本当に分かりやすい反応をする子だ。

「同じ事を二度と犯さないための、いい方法を教えてやろうか?」
「結構です」
間髪入れずに、考える間もなく速攻で断る彼女。
だがそんなことで退く俺でもない。

「君の携帯ナンバーを俺に教えてみなよ。君がチェックするのを忘れる間もないほどに、俺の声を聞かせてあげるから」
「遠慮します」
「なぜ」
「嫌がらせや悪戯電話に付き合うほど私、暇じゃないもので」

嫌がらせって……普通男が女に携番を聞いたら、もっと違う発想をするんじゃないのか?

「俺がそんな意地悪をする男に見える?」
「十分、見えます!」
「心外だなぁ。これでも女性には優しいフェミニストとして有名なんだけどな、俺」
「私、顔が良くて女性に見境のない男性は信用しないことにしているんです」

……どう取っていいのか微妙な発言だな。
褒めるか貶すかどちらかにして欲しいものだが、まあとりあえず前者の方を取るということで。

「参ったな、俺ってそんなに美形でイイ男?」
「誰が言いました?そんな戯言」
「君」
「あなた、むしろイイ性格をしてるって言われません?」

ああ言えばこう言う、打てば響くといった反応の良さ。
面白いな、この子。

「それはそれは、お褒めに預かりどうも」
「褒めた覚えなど毛頭ありませんが」
「で、そんなイイ男でイイ性格の俺の携番、知りたくない?」
「さりげなく良い解釈をして話を進めないでください……というより人の話聞いてます!?」

俺の言葉に食いつくその様子は、まるで猫じゃらしに懸命に爪を立てている子猫のようだ。
穂先を左右に振ってやれば、それに負けじと小さな手で捕らえようとする。

さあ、この子猫……どうやって口説き落とそうか?

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