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「日中は日差しがあって暖かい一日となりますが、夜になると雨が降り冷え込むでしょう。傘を用意してお出かけ下さい」

だるま屋で食器を洗っている時にTVから聞こえてきた天気予報。
12月も半ばを過ぎるとさすがに寒さも本格的なものとなり、店でもその日の気温によっては暖房をかけることが多くなっていた。

明日は新しいドラマの打ち合わせで、帰宅するのはおそらく8時過ぎ……雨が降り出して冷え込む前に帰れれば良いのだけれど。
絶賛売り出し中の看板を掲げている私としては、間違っても風邪をひくわけにはいかない。
ファーの付いたハーフコートだけでは不安を感じ、皺になりにくい生地のカーディガンを箪笥から出して、折り畳み傘と共に鞄の中に詰め込んだ。

――それが失敗を招く元になるとは思いもせずに。



「最上さん……っ!」
スタジオに入った途端、敦賀さんが私の名前を呼んだかと思うといやに早足で近づいてきた。

「おはようございます、敦賀さん……あの、どうかされましたか?」
「どうかしたかとはこっちのセリフだ。君、携帯は?」
「え……?鞄の中にありますけど……」

A4のノートが余裕で入る、小花を散らした柄の愛用のバッグ。
その中のいつもの定位置を右手でゴソゴソと探る。
あれ……?
内ポケットに携帯が入っていないことに気付き、バッグの中を覗き込んだ。

鈍い光沢のあるそれは小物の出し入れをした際にポケットから滑り落ちたらしく、カーディガンにすっぽりと包まれていた。

取り出した携帯に着信の表示が出ていたので、確認をしようと蓋を開いてぎょっとした。
着信が二桁、越している……!?

急いで履歴を見てみると、ズラリと並んでいるのは「非通知」の文字。
これって、まさか……もしかして……

恐る恐る目の前の先輩の顔を見上げると、彼は無表情でこくりと頷いた。

「おそらくその着信の半分が椹さんで残りが俺だ。椹さんから、君にどうしても連絡がつかないと電話があってね。電波が通じないわけでもないのに何度かけても電話に出ないから、終いには何かあったのかと心配したよ」

何度かけても電話に出ないって……でも着信があれば振動するように設定してあるのに、携帯が震えた気配は感じなかった。
……と、そこまで思ってハタと気が付く。

カーディガン……!
布の中に綺麗に携帯が収まっていたから、振動が弱められて気が付かなかったんだ……!

ということは……こともあろうに大先輩である敦賀さんに朝から何度も電話を入れさせたあげく、更には心配までかけたってこと……?
その事実に顔がサーッと青ざめる。

「全く……」
敦賀さんは一言呟いて電話の用件を説明すると、椹さんに連絡を入れるようにと私を諭した。

その後は敦賀さんのお説教タイムが続き、社さんが私を心配する程叱られて……でもそれは仕方がないことだと思う。
仕事に対して自分にも、そして他人にも厳しい敦賀さんだから。
今回はたまたま私の出番がないという連絡に過ぎなかったけれど、これが逆に急に仕事が入ったという内容なら私は多くの人に迷惑をかけていたことだろう。

「最上さん」
鬱々とどこまでも沈んでいきそうな思考。
それは私の名を呼ぶ、聞きなれない男性の声に断ち切られた。



悪いことは本当に重なるもので。
どうして私は朝からこんな酔っ払いまがいの絡み方をする男に捕まらなければならないのだろう。
しかも今日は携帯の話はあまりしたくないと言うのに……!

「だからさ、最上さん」
「何度聞いても無駄です。あなたに番号を教える気はありません。これは事務所から預かっている物ですし、仕事以外で使うつもりもありませんから」
「いくら事務所から支給された携帯だからってそんなにキッチリと使い分けている奴なんかいないよ。若いのに石頭だなぁ」

ええ、石頭で結構ですとも。
あなたみたいな軟派な男と話をするぐらいなら、硬派と言われて敬遠された方が百倍もマシというものだわ。

「それに私、もしあなたから電話が来たとしても、着信拒否にして出る気はありませんから」
「へえー、携帯を使いこなせていない君が、そんな高等テクニックの設定をすることができるんだ」
「そんな事、携帯を利用する上での基本中の基本じゃないですか!」
いかにも馬鹿にしたセリフにムッとして声が荒いものになる。

「ああ、さすがにそれぐらいは心得ているんだ」
良かった良かったと頷く目の前の男に向けて怨キョが一人二人と背中からヒョロリと湧き出した。

そして硬いと言われた頭で頭突きをする体勢になると、カウントダウンを始める。

(目標確認!敵までの距離、約130cm!)
(よし、攻撃に入る!3、2、1……)

「でもさ、別にいいよ」
「……えっ」

GOサインが出る寸前に攻撃目標の男が言った、その言葉の意味を捕らえ損ねる。

「そんな事しなくても。俺、最初から非通知でかけるから」
「……どういう事ですか」
自分の番号は知らせないと宣言するその図々しさに、怨キョを待機させつつ理由を聞く。

「事務所からは非通知で連絡が来るんだろう?それなら同じ非通知の俺の電話にも出ないわけにはいかないしね」
「着信拒否対策というわけですか」
「それもあるけどさ、その方が楽しいじゃないか」
「何がですか?」

ニコニコと上機嫌に言う男に、それが決して私にとって楽しいことではないことを確信して問いかける。

「事務所と俺と、どちらからの電話なのか当たり外れのあるクジを引くみたいでさ」
「そうですね、私としては大当たりの事務所だけを引き続けたいですけど」
「まあ最初のうちはね……」

途中で言葉を切ると、男は意味ありげな笑みを浮かべた。

「だけど俺は逆転させるつもりだから。俺からの電話が君にとっての大当たりとなるように」
「例え天地が逆転してもそんなことはありえません」
「評価の逆転なんて君が思っている以上によくあることだ。携帯の非通知の文字を見た瞬間に俺のことを思い浮かべるようにさせてみせるよ。事務所からであることが残念だと感じるようにね」

非通知の文字を見た瞬間に思い浮かべる?
事務所からであることが残念だと感じるように……?


『最上さん?俺~~!今いいかい?』
『……アア、サワラサン……ハイ……ダイジョーブデス……』
『……なんか……心なしかセリフに無関心な空気を感じるのだが……?』


――あの時思ったのは……
とてもいい香りの、温かなあの人のこと……


「……ね?だからどう?」

思いがけず近い所から声が聞こえた事に驚き、脳の活動が停止していたことに気付く。
この警戒態勢時に……やっぱり危険だわ!敦賀セラピー!!

「俺に教えてよ、君の番号」
「丁重にお断り申し上げます!」

わざわざ腰を屈め、私の目線に合わせて話しかけてくる男に何度目かの拒絶の言葉を放つ。
本当にいい加減しつこいわね、この男っ!!

「もう、私みたいな色気のない女よりも、もっと誘いがいのある綺麗な女優さんに声をかけたらどうですか!?」
「色気がない?そんなことはないけどな……さっきの君の表情……」

スッと腕が伸ばされ、長い指が私の顔へと近づいてくる。
いきなりの行動に遅れを取り、それを防ぐことができないと感じた瞬間腕の動きが止まった。

今にも頬に触れようとしていた男の手首を掴んでいたのは、背広を纏った長身の……いつも私に勇気を与えてくれる人の大きな手だった。


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