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タイミング 4

「やあ、こんばんは、最上さん」
「つ、つ、つつつつ……っ」
「ん?」

蓮からキラキラと眩いほどに光が舞っているように感じるのは、俺の気のせいだろうか。
いや、舞っている……ではなく突き刺さる……か?

「つ、つ、つれ……お連れ様がいらしたようなので、奥のお席の方にご案内いたしますぅぅぅぅぅ!!」

滂沱の涙を流しながら、キョーコちゃんは目に見えぬ速さでテーブルの上の料理を盆に移動すると「こちらへどうぞ」と俺達を案内した。

移動する際に他の客の視線が流れるように追ってくるのを感じる。

190cmを超える身長にスラリとしたしなやかな肢体。
その体格だけで蓮は十二分に人目を引いてしまう。
ツバの広いキャップを被りサングラスをしているためすぐに正体がバレることもないが、その顔の造作の良さ自体は隠しようがない。
この高年齢者向けのこじんまりとした居酒屋では、更にそれは際立って見えた。

せめて店中の人間の前で修羅場を繰り広げることだけはやめてくれよ……

これからの展開を考えると頭を抱えたくなる。

「こちらです」
キョーコちゃんが新たに用意してくれた席は座敷席で、襖を締めて仕切ることにより個室として使えるようになっていた。

た、助かった……

少なくとも災難の種をここに隔離することができる。
俺はキョーコちゃんの機転の良さに心の底から感謝した。


「お飲み物は何になさいますか?」

特に何事もなく別室に入れたことに安心したのか、キョーコちゃんはホッとした顔で蓮に注文をとる。

本当はこれからが怖いんだけどね、キョーコちゃん……
知らぬが仏とはこのことだろう。

「ウーロン茶にしておくよ。車を運転してきたので、酒を飲むわけにはいかないからね」
「はい、かしこまりました」

伝票に書き込み、立ち上がろうとしたキョーコちゃんの腕を蓮がグッと掴んだ。

「……あ、あの?」
「最上さん、着物よく似合っているね。凄く可愛いよ」
「あ、ありがとうございます」

サングラス越しに蕩けそうな笑みで言う蓮に、キョーコちゃんは頬を真っ赤に染める。

「ここではいつもその格好で手伝っているの?」
「はい、そうです!LMEではピンクのツナギが、そしてだるま屋ではこれが私の戦闘服です!」

胸を張り、ドンッと胸元を叩くキョーコちゃんの仕草に蓮が噴出した。

やっぱり面白いよなあ、キョーコちゃん。
普通の子とは一味も二味も違って見ていて飽きないよ。

「それじゃあ戦場に戻って、お飲み物をお持ちしますね」
「ああ、頼むよ」

一礼をしてキョーコちゃんが空間を隔てるための襖を閉める。

……と同時に部屋の空気が一変した。

不穏な気配を発しているのは意外なことに前にいる蓮ではなく、隣に座っている田中の方だった。

「俺に彼女と仲が良いことを見せ付けているつもりか?」
「おや、そう見えましたか?いつもの会話をしているだけだから、特に意識していませんでしたよ」

あああぁぁぁぁ!!
この二人もばっちり戦闘モードに入っちゃったよっっっ!!!

棘丸出しの言葉に、にっこりと嫌味たっぷりの言葉を返す担当俳優。
蓮~~、お前売られた喧嘩を買うほど子供じゃないって言ってただろう!?

田中も田中だ!
普通はこの蓮の容姿を見ただけで戦意喪失しそうなものなのに、どうしてここまで食って掛かろうとするんだ!

「君、キョーコちゃんの何?」
「あの子は俺の後輩なんですが、懐いてくれるのが可愛くて色々面倒を見ているんですよ」
「先輩ならこんなところにしゃしゃり出て来ないで、一歩引いたところで温かく彼女を見守っていたらどうなんだ?」
「あいにく世間知らずの彼女が悪い虫に引っかからないようにアドバイスをするのも先輩の役目だと思っていますから」

「失礼しまーーす!」

キョーコちゃんが明るい声と共に襖を開けた。
……が一瞬凄い表情で固まり、そのまま勢い良くパシンと閉めなおしてしまった。

負の気配に敏い彼女は、部屋の中に充満している悪意を感じ取ったのだろう。
俺もそっちに行かせてくれっと喉元まで出かかった言葉をなんとか飲み込んで、キョーコちゃんに話しかけた。

「ウーロン茶を持ってきてくれたんだよね?入ってくれるかな…?」
「は、はい……」

蚊の鳴くような声で返事をした彼女は、恐る恐る襖を開けて顔を出した。


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