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「貴島君の出番がもっと早くからあれば良かったのに~」
「そうしたら軽井沢のロケも一緒に行けて、楽しい夜が過ごせたのにね」

俺が座っている椅子の周りにいるのは、メイドの衣装が似合う可愛い女の子達。
財閥・本郷家に仕えるお嬢さん達だ。

「俺も君達と早く親交を深めたかったよ」
いや~ん、そうよねーと嬉しそうに口々に言う様はなんとも賑やか且つ華やかだ。

「でも、このドラマには敦賀君がいるだろう。彼と楽しい夜は過ごさなかったんだ?」
彼がその手のコミュニケーションを好むタイプではないことを踏まえてあえて振ってみると、ピシリッと音がする勢いで4人の笑顔が固まった。

……どうしたんだ、一体?

「え……と、敦賀君と過ごしたかったのは山々でぇ…」
「だからつい、はずみで言っちゃったのよね」
「そうしたら魔性が光臨したのよ~~っ」
「敦賀君との甘い夜と引き換えでも、身代わりはちょっと…っ」

「皆さん、おはようございます!」
「きゃぁぁぁぁっっ!!」

元気の良い声が彼女達の背後から聞こえると、4人は悲鳴をあげて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
残されたのは椅子に座っていた俺と、何が起こったのか分からずに呆然としている京子ちゃん。

いや、状況が分かっていないのは俺も一緒だが……
あの悲鳴はマジで怯えていたぞ?

「……あなたは彼女達に一体何をしたんですか?」
「それを聞きたいのは俺の方なんだけど。あれは間違いなく、俺じゃなくて君に反応してたぞ。『軽井沢での楽しい夜』の話をしていたんだが心当たりは?」
「…………思い出しました」
「何を?」
「私、あなたには関わらないことにしようと思っていたんです」

クルリと背を向けて去っていこうとする彼女に、目の前の障害物が行く手を阻んだ。
勢いよくぶつかった京子ちゃんの身体を受け止めたのは噂の主だ。

「おはよう、最上さん」
爽やかに挨拶をするその姿に、一昨日のわだかまりは感じられなかった。



「あ、あの……っ、私、今日はこれで失礼しますっっ!!」

あの日、逃げるようにして京子ちゃんは走り去った。
彼女に話しかけていた敦賀君の顔を見ようともせずに。

おそらくこれが俺の質問に対する答え。

その意味を知らない敦賀君は、彼女が消えた扉をじっと睨むように見つめていた。

「行こうか、貴島君。休憩もそろそろ終わる時間だ」
何事もなかったかのように歩き始めた彼に、ふと悪戯心が沸いた。

「敦賀君、京子ちゃんの携帯ナンバーを知ってるんだろう?」
「ああ……同じ事務所だしね」
「じゃあ、俺に教えてくれない?」

前を歩く敦賀君の足が、ピタリと止まった。

「悪いね。本人の許可なく俺から教えるわけにはいかないから」
「あ、そう」

いかにも尤もらしい答えが返ってくる。
前に他の女性の携番を聞いた時には、知らないと言いつつも笑って受け流していたくせに。

部屋を見渡すと、左奥の休憩スペースで休んでいる逸美ちゃんが目に入った。

「そういうことなら敦賀君に迷惑をかけるわけにはいかないしな。逸美ちゃんに聞いて来るよ」
「貴島君……」
敦賀君の傍を通り抜けようとした時に彼が俺の名を呼んだ、その声に含まれていたのは強い引き止めの意志。

「……と思ったけど、次に会った時に本人から聞き出すことにチャレンジしてみるよ。その方が楽しそうだしさ」

……してやったり。
口元に出ているであろう笑みを隠さずに、敦賀君へと顔を向けた。

「貴島君。さっきも言ったはずだけど、あの子はそういう浮き事に慣れている子ではないから、あまり遊ばないでやって欲しいな」
「そんなもの、慣れていないと言うのなら慣れさせればいいんだよ」
ストレートな牽制をかわすと、彼は俺を射抜かんばかりの視線で見据える。

敦賀蓮という男が普段絶やすことのない柔らかな笑顔、その下の素顔を見た気がした。



……やっぱり、当たり障りなく人付き合いをしてもつまらないよな。

一昨日の出来事を思い出し、心の中で一人頷く。
いつも穏やかに笑って感情を見せない男なんて面白みがない。

彼が今日、どんな行動に出るのか楽しみで仕方がなかったなんて我ながら人が悪いとは思うが、この余裕を感じる態度から察するに何かしら状況が変わったんだろう。

できればもう少し遊びたいんだけどな……?

「貴島君、おはよう。また最上さんをからかっているのか?懲りないね、君も」
呆れたように彼が苦笑いをする。

「それは誤解だよ、敦賀君。俺は彼女に楽しい夜を過ごした感想について聞いていたんだから。そうだよな、京子ちゃん」
「それこそ誤解を招くような言い方はやめてくださいっ。全然違うじゃないですか!」
「俺は嘘は言ってないはずだけど」
「前の過程を端折って、微妙にニュアンスを変えたら全く意味が違ってきますーーっ!」

絶叫する彼女にふぅとこれ見よがしに溜息をつく。

「ほらね、交わす言葉が少ないとこんな風に誤解を生むんだよ、京子ちゃん」
「な、なんですか……っ」
彼女が警戒をするように身構える。

「しっかりとしたコミュニケーションは必要だと言う事さ。だからね、君の携帯番号を俺に教えてくれない?」
「い・や・で・す!」
きっぱりはっきりと断る様はいっそ気持ちがいいと言っても良いほどだ。

「貴島君はチャレンジャーだな」
クスクスと笑いながら、敦賀君が言う。

「まあね。ガードが固いから、少しばかり難航しているけど」
「難航した挙句に難破して沈没する前に、さっさと諦めてもらえるとありがたいんですが」
「俺としては宝物を手にして、ドラマティックに生還する予定なんだけどな?」
「それはほとんど確率がないエンディングですね」

言葉遊びで堂々巡り、そんなやり取りでも傍から聞いていればじゃれ合っているようにも見えるだろう。

「貴島君」
「なんだい、敦賀君」

彼は、どう出る?

「良い事を教えてあげるから、ちょっと……」
敦賀君が耳を貸せとばかりに、指をクイクイッと曲げてジェスチャーをする。
数歩前に出て彼の横に立つと敦賀君は小さく囁いた。

「君が知りたがっていた非通知の件だけど、相手は俺ってことだから……」

『だから彼女に余計なちょっかいを出すな』
彼は強い眼差しでそう威嚇した後で、にっこりとそれは綺麗に微笑んだ。

「まあ、そんな気はしてたけどね……」
一昨日の京子ちゃんの様子から彼だろうと予測はつけていた。
しかし、もう少し掻き回して遊べるかと思ったんだが……そういう意味では残念だ。

「悪いね」と晴れやかに言う彼に、全くそうは思っていないくせにと心の中で突っ込んだ。

「どうしたんですか?」
京子ちゃんが首を傾げて聞いてくる。

「いや、何でもないよ」
「そうそう、ちょっとした耳寄り情報を聞いただけだから」
さらりと流そうとする敦賀君に、あえて同意する。

「耳寄りな情報って何ですか?」
当然のように返ってくる質問に、笑って一言答えた。

「京子ちゃんの携帯番号」

「なっ……!」
「えっ……!」
同時に二人が声を上げる。

「敦賀さんっ!どういうことですかっ!?」
次の瞬間、響いたのは京子ちゃんの発声の良い声だった。

『京子ちゃんの携帯番号……に非通知で電話をかけていた相手の名前』

せっかくの面白そうな逸材をあっさりと持っていかれたんだ。
後に続く言葉を少しばかり省略するぐらい、カワイイ意趣返しだよな?

敦賀君に名前を呼ばれたような気がしたがそれには構わずに、俺は再び談笑を始めたメイドさん達の元へと早々に退散した。


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