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私が敦賀さんのイラツボを付きまくる傾向にあることは自覚している。
それはもう嫌というほどに。

それの何が困るかと言えば、敦賀さんが怒っている理由がいつも皆目見当がつかないということ。

『こんな料亭ではなく』……なんて……
普段、食に楽しみを見出せない敦賀さんが予約までしてくれたお店なのに、もしかして連れてきてもらったことを後悔させるような振る舞いをしてしまった?

そんな覚えはないのだけれど……やっぱり敦賀さんの考えることは分からないと内心溜息を吐きつつ、思ったままにお店の感想を述べて誤解を解くことを試みたけれど、どうも方向性が違ったようで。

「そういう意味ではなくて、気兼ねなく君と二人っきりになれる場所にすれば良かったと、そう思って……ね、最上さん……?」

では一体どういう……?
そう聞き返す間もなかった。

綺麗な長い指が差し出されたかと思うと、優雅な仕草で私の顎を取る。
驚いて敦賀さんの顔を見ると、そこにあったのはかつて見た微笑み。
誰をも魅了するに違いない闇に棲む艶やかな魔性……

まずいと心の奥底から警報が鳴り響く。
この人に関わってはならないと。

「こっ…ここでも十分、気兼ねなく二人っきりですが……っ」
焦りがそのまま言葉に表れている、それは分かっているけれど隠すほどのゆとりはなかった。

「それにあの、私……っ」
なんとか空気を変えられないかと話を続けようとしても、顎をとられているために思うように話すこともできない。
それでもと再び口を開こうとした時、顎を支えている指のうちの一本が意思を持って上へと移動した。

唇に立てて当てられた人差し指。

それは『静かに』という意味だと、ただそれだけの意味だと分かっているのに、その一本の指に意識の全てが集中する。
接触している部分はごく僅かなのに、そこからジクジクとした熱が生じている。

そう、熱いのは……触れている指、唇……そして何よりも、私を見つめる敦賀さんの瞳。

「本当に、他の男でも同じ……?」

敦賀さんの問いと共に、口に置かれていた指が動き始める。
それは薄く開いていた唇の隙間をなぞって、そこにある湿り気を拭っていった。
そのひやりとした感触と、敦賀さんの指を濡らしてしまったという恥ずかしさに震えが起きる。

「違うだろう?」

湿った指を口元に寄せると、敦賀さんは舌でペロリと舐め上げた。
その妖艶な仕草に、その行動の意味にカッと顔が火照る。

敦賀さんは私を見ると毒々しいまでに……まるで獲物を捕らえた肉食獣のように不敵に笑った。

「俺だから、君は心を乱したんだ」


          *************


「な、なっな……っ」

呆然と俺を見つめた数秒後、真っ赤に頬を染めてわなわなと彼女が震え出す。
その姿に思わずクスクスと笑いが漏れ、彼女の言う『夜の帝王』を解除した。

「からかうのもいい加減にしてください!」
「からかってなんていない」
「嘘です!」
「嘘じゃない」
「じゃあ、性質の悪い悪ふざけはやめてくださいっ。そりゃあ敦賀さんほどの人なら、これぐらいの事を言ってみたところで自信過剰にはならないんでしょうけど!」
「とんでもない」

彼女の言葉に、俺は頭を振った。

「自信なんてないよ……君に関しては少しもね。だからこそ君からのサインは見過ごしたくないし、見逃す気もない。それが例え些細なことでもね」

俺を想い始めている淡い恋心を見過ごしたくはない。
それを否定して避けようとする弱い心を見逃しはしない。

君を追い詰めたくはないけれど、でも逃げていくのを黙って見ていられる程の余裕もこっちにはないんだ。

「君にとって、俺はそんなに役者不足?」
「何の話……ですか」

警戒する彼女に、率直に話を切り出す。

「恋の前兆のことだよ。俺程度では君の相手として魅力が足りないのかなと思って」
「俺程度だなんて、そんなこと冗談でも言わないでください!敦賀さんほど魅力に溢れた人なんて他にいませんっ。そんなことを言おうものならバチが当たってしまいます!」
「バチ、ねえ……」

それを君に当てるとするなら、神様ではなくて俺だろう。
分かっているのか、君は。
そんなセリフを簡単に言って、その結果どんな罰が下されるのかということを。

愛しいと……かけがえもなく愛しいと。
その気持ちをぶつけたなら、君は俺の想いに応えてくれるのだろうか。
『自宅に君を招いていたなら』、欲望のままにその心に、身体に、触れていたかもしれないというのに。

その邪な本能にブレーキをかけているのは、いずれ君が俺を想ってくれるようになるかもしれないという、たった一本の細い希望の糸だけ。


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