更新履歴


カテゴリー


タイトル一覧


リンク


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
敦賀さん、あなたは知っているから。

私が芸能界に入った理由を。
私を捨てたアイツのことを、私がどう思っているのかを。
だから、今話した内容が決して誇張ではないという事も分かっているはず。

相手の気持ちに気づかないで思い入れたあげくに、別れを切り出されれば憎しみなどという理由でしつこく食い下がる。
そんな女相手に戯れでも恋の相手だなんて言うべきではないんです。
勘違いして、本気にでもなったらどうするつもりなんですか?

だから、止めてください。

私に思わせぶりな甘いセリフを言うのは。
ドキドキするような熱い瞳で私を見つめるのは。

私はもう錯覚なんてしたくないんです。
敦賀さんだって、そんなことになったら困るでしょう?
だから……

「構わないよ、君になら憎まれても」

予想していたものとはあまりに違う言葉が放たれて、一人歩きをしていた思考が止まった。

「……え……?」
「君がそれほどに俺を愛してくれるなら、俺を想ってくれると言うなら、俺は喜んでそれを受け入れるよ」

敦賀さん……まだ続けるんですか、この詮無い戯言を。
そこまで言ったら洒落にならないんですよ……!


          *************


驚いたように彼女は大きく目を見開いた。
俺が早々に話を打ち切ると、そう踏んでいたのだろう。

でも残念だけど、ここで引けるほど俺の想いも軽くはないんだ。

「俺は君の手を離すようなことはしない。だがもしそのあり得ない事が起こるかもしれないと君がそう思うなら、その時は俺を恨んでくれればいい」

彼女の顔に戸惑いが浮かぶ。
追い詰める俺から逃げるのをやめて、反撃に出たら空振りをした……そんな表情だ。

だが、あれは単なる牽制のための攻めの構えでははないはずだ。
おそらくは、紛う方なき君の本音――

他が見えないほどに盲目な恋をして、その恋を失くしたときに味わった絶望や孤独の痛みが辛すぎて。

ようやく手に入れかけた自分をまた見失うのではないかと不安で仕方がなくて。

そして誰よりも好きだった相手を憎んでしまった自分自身に対する懐疑心に震えて。

……君の声が聞こえてきそうだ。
助けを求める、悲痛な声が。

だから俺はこの話を途中で放棄するわけにはいかない。
例え君がそれを望んでいてたとしても。

最上さんは俺から視線を外すと、大きく息を吐いた。


          *************


敦賀さんは優しい人だとは思う。
でも、引き際は見極めるべきでしょう……?

自虐的になっている私を慰めるつもりで言ってくれているのだとは思うけど、あまりにも踏み込みすぎていて留まるべきラインを超えている。

「敦賀さんは、私の執念深さを知らないから、そんな暢気な事が言えるんです」
「そう?よく知っているつもりだけどな」
「知っているって、一体何をですか」
「そうだな……」

少し考える素振りをした後、敦賀さんはつらつらと昔の私の所業を述べ立てた。

「芸能界に入るために事務所の前に何時間も座り込んだり、執拗に椹さんをつけ狙って遂には白旗を上げさせたりと、君の目的を果たすための執念は忘れたくても忘れられないよ。他にも新開監督の映画撮影の折では……」
「いえ……もう十分です。敦賀さんの記憶力が良いことはよく分かりました」
「言えと言ったのは君だろう?『執念』とか『根性』……あの頃はそんな言葉が君の代名詞だったからね」

凄く失礼なことを言われている気がするのに、否定できない。
確かにあの頃の私は強い思いさえあれば、なんでもできると考えていたから。

「芸能界に入ったのは復讐をするためだと、俺に啖呵を切ったこともあったよね」
「……はい」
「あの話を聞いたときは、正直ふざけるなと思ったよ」

そう言ってスッと私を見据えた瞳は、ひどく冷たい光を宿していた。


          *************


かつて彼女のその言葉は、俺の心に引っかき傷のような傷跡を残した。

大して気にする程のものではないはずなのに、それは時にピリピリとその存在を主張しては俺を苛立たせ、目にすることがあれば思わず眉を顰める。
彼女と再会してからしばらくは、そんな状況が続いた。

「芸能界で生きていたいと願っても叶わない人間は多いというのに、そんな邪念でこの世界に入ろうだなんて、負けん気ばかりが強い世間知らずだと思ったよ」

とにかくこの子が目障りでならなかった。
癇に障って、つまらない嫌がらせまでして……それでいて、いつも心のどこかで気にしていた。

その理由も今ならば簡単に答えが出せる。
俺にとって君は……最上キョーコは常にあらゆる形で『特別』だったんだ。

「敦賀さんから見ればそうだったかもしれません。でも、当時の私にとってはあれが唯一の正論だったんです」

最上さんが怯むことなく、率直に俺に言葉を返す。
こんな彼女を見るのは久しぶりだと、頭の端の方でちらりと考えた。

「でも今の私ならあの時の敦賀さんの気持ちが分かる気がするんです。自分自身のことよりも演じている役が大事だと思えるほどに、私はこの仕事を好きになっていますから」

皮肉だ、と思う。
俺も今ならあの時の君の気持ちが分かる。

もし君がこれから先、俺に背中を向けて他の男と連れ立っていくようなことがあれば、俺は君とその男に対して強烈な負の感情を抱く事は間違いないのだから。


関連記事

Powered by FC2 Blog
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。