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そんなことありません。
からかうのもいい加減にしてください。
嘘です。
悪ふざけはやめてください。

そんな否定の言葉ばかりを言い続けた私はいつの間にか四方八方を塞がれて、逃げるための術を失っていた。
敦賀さんは手持ちのカードを公開した上で最強の切り札を場に出し、私の残された数少ないカードを封じてしまった。

――君が好きだよ

真剣な眼差しで言う敦賀さんに、なぜとも、どうしてとも……もう聞く事はできなかった。

では、私は……一体、なんて言えばいい……?
どう返事をすればいいの?

『ありがとうございます』
『嬉しいです』
『私も好きです』

……違う……違う、違う……っ!

そんな言葉じゃない。
そんな想いじゃない。
そんな軽いセリフでは言い表せないっ。

敦賀さんを嫌いなわけじゃない。
そんなこと、あるわけない。
でも敦賀さんの意味するところの好きという言葉も言うことができない。

じゃあ私にとって敦賀さんは……っ?

分からない……答えられない……
答えが出ない……!

どうしよう、どうしたらいい……
私……私は……っ……!

「最上さん、最上さんっ!」
「あ……わ、私……」
「落ち着いて、俺を見て……ね、最上さん」

穏やかすぎるほどの敦賀さんの言葉に呼び戻され、荒れ狂っていた思考の波が白く霞みがかるようにぼやけ始める。

「敦賀、さん……」
すぐ傍らにいる敦賀さんに吸い寄せられるように目の焦点が合った。

「大丈夫だから……無理に答えようとしないで」
「……でも……」
「君に聞かれたから俺の気持ちを伝えた、それだけだよ。俺が望んでいるのは君の答えではないのだから」


          *************


「私の答えではない……」
最上さんがぼうっとした表情で、僅かに語尾を上げて俺が向けた言葉をリピートする。

「じゃあ……何、なんですか……?」
当然の如く返ってきた質問の、その答えを待つ彼女の頬を両手で包み込んだ。
ビクリと震えた身体に気がつかないフリをして、その視線を俺へと固定させるために上向かせる。

「俺から目を逸らして欲しくなかった。俺の声に耳を塞いで欲しくなかった。そして……俺から逃れるために、違う答えを導き出して欲しくなかった」
「逃れるなんて、そんなこと……」
「していないとは言わせないよ……?」

どれほど追い詰めてもあの手この手で逃げ出す君を捕まえるのに、どれほど苦心した事か。
自覚がないとは言わせない。
これから先、また同じようなやり取りをする羽目になるのは正直なところ御免だ。

こんな追いかけっこを続けていれば、最終的には先のない崖っぷちが待っている。
その時に危険が生じるのは間違いなく、俺ではなくて君だ。

「君は俺の気持ちに心の奥底では気付いていて、だから恐れ、怯えて恐怖した。俺の言葉をあえて曲解し、当たり障りのない結論を出して心の平安を保とうとしていた。でもそれでは困るんだ」
「なぜ……困るんですか……?」
無防備な目で聞く彼女に苦い思いがこみ上げてくる。

君は気付いていたくせに、やっぱり理解していないんだ。


          *************


「どんな形であれ好きな人に否定され続けて、終いには他の男でも同じなんて話になれば心中穏やかではないよ」

僅かに眉を寄せて話す敦賀さんに、私は不用意な発言をしていたことを知った。
そしてそれが敦賀さんを傷つけていたという事実を。

でも、そんなこと分からなかった……
敦賀さんは私が気付いていたと言うけれど、この人が私を……なんて、そんな大それたこと思いもしなかった。
分かっていたのは、敦賀さんの言動が私の心を直接揺さぶるという、ただそれだけ。

「敦賀さんの気持ちから逃げようとしていたわけじゃないんです。私は私が怖かっただけ……敦賀さんは私にとって、影響力があり過ぎるんです。敦賀さんを否定しているわけじゃない。……けど、やっぱり分からないのも確かで……」
「何が分からない?」
「……なぜ、私なんですか?敦賀さんほどの人が私を想ってくれるなんて……わざわざこんな捻くれたのを選ばなくても、世の中にはもっと優しくて綺麗で、素敵な人がたくさんいるのに……」

そうよ、何を好き好んで私みたいなのを……!

敦賀さんは小さな溜息を吐くと、私の頬に当てていた手を下へと下ろした。
与えられていた温もりがなくなり、冬の寒さを宿した空気のひんやりとした冷気を肌に感じた。

「では君が俺とこうして一緒に食事をしたり話をしてくれるのは、俺が世間で言うところの温和で、見た目がそれなりに良くて、君に優しく接するからなんだ?君にとって都合が良い存在だから……?」
「そんなこと……っ!」

そう言いかけて、ハッと口を噤んだ。
私が敦賀さんに言ったのは、そういうことなのだと……理解して。


          *************


「すみません……」
見るからに意気消沈して、彼女は頭を下げ謝罪の言葉を述べた。

本当にこの子は……
バカみたいに素直で、駆け引きも何もなくて、全てに体当たりで……あまりにも危なっかしい。
こんな調子では簡単に騙されて、相手のいいようにされてしまうだろう。

だが……だからこそ、俺はそんな君に惹かれてならない。
無垢な魂を持つ君だから俺はその放つ光に恋焦がれ、懸命に手を伸ばして求め続けている――

下を向いたままの彼女の背中に両腕を回して、その身体を抱く。
動揺している彼女を刺激しないように、壊れ物に触れるように優しくできる限りの注意を払って。

「敦賀、さん……」
「……ごめん、意地の悪い言い方をしたね。君がそういう意味で言っているわけではないと分かっているのに」
「……っ……」
華奢な肩が僅かに震え、彼女が言葉を詰まらせた事を直に感じる。

「ねえ、最上さん。俺は君が思うほど大した人間ではないよ。君も知っているはずだろう?気に食わないからと、ただそれだけの理由で君に嫌がらせをしたり、つまらない嫉妬で君を怯えさせたり……。どこにでもいる等身大のただの男なんだ……」
「でも……私にとってあなたは誰よりも尊敬できる人なんです」

腕の中で彼女が搾り出すような声で訴える。

「あなたのお陰で私は自分の道を見つけて、目標ができて……」
「ああ……」
「信用を失いたくないって、そう思うようになって……」
「……うん」
「恋とか愛とか……もし、そういうものであなたを失くす事になったりしたら……私……っ」

縋るように俺の胸元のシャツを握り締めて感情をぶつける彼女を、俺は加減をする余裕も持たないままに抱く腕に力を込めた。


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