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T~Vです。

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T…Tear

「キョーコちゃん、今日誕生日だったんだ」
「教えてくれれば良かったのに、水臭いなあ」
「分かってたらプレゼントの一つも持ってきたんだけど……とりあえず、こんなので良ければ好きなようにしていいから」

ブリッジ・ロックのメンバーの一人、慎一がキョーコの前にリーダーである光を押し出した。

「煮ても焼いても構わないので、キョーコちゃんのお好みでどうぞ」
「おい慎一、こんなマズそうなのをキョーコちゃんにあげて、食当たりでも起こしたらどうするんだ」
「そうそう、煮たり焼いたりするなら俺よりも坊の方が何倍も美味そうだ……って、お前ら、人を何だと思ってるんだ!」

目の前でいつもの如く、漫才を繰り広げる三人。
そのやり取りが可笑しくて、キョーコはクスクスと笑い続ける。
浮かんだ涙を人差し指で拭おうとした時、頭に大きな手がポンと置かれた。

「最上さん、あまり手で目元を擦ると肌が荒れてしまうよ。さっき君にハンカチを渡しただろう?」
優しい口調で諭すのは、キョーコやブリッジ・ロックと同じ芸能事務所の先輩俳優。

「そ……そうですねっ」
キョーコは慌ててコックコートのポケットを探り、男物のハンカチを取り出した。
蓮は見たからに高級そうなそれをキョーコの手から抜き取ると、顎をつまんで上向かせて彼女の目にそっと当てた。

「君の涙を拭くために渡したのだから、ある物は使わないとね」
「すみません……私、何だか子供みたいですね」
「君が子供なら、俺はこんなことはしないよ」
「……え……?」

狐に抓まれたような顔をするキョーコとは対照的に、ブリッジ・ロックの三人が顔を引き攣らせる。

「じ……じゃあ、キョーコちゃん、俺達はそろそろ帰ることにするよ」
「え、あ……はい、今日は来て頂いてありがとうございました」
雄生の言葉に、キョーコがペコリと頭を下げる。

「敦賀さん、俺達はこれで失礼しますので……」
「お疲れ様でした」

蓮はにこやかな笑顔で挨拶を返すと、クロークへと向かう三人に背を向けた。


U…Understand

「あーーあ、撃退されちゃったか……」
少し離れたところで様子を見守っていた社が、やっぱりといった調子で呟いた。
男三人に囲まれて楽しそうに話をしているキョーコが気になって、蓮が間に割って入ったのは一目瞭然である。

(それにしてもキョーコちゃんがブリッジと知り合いだったとは驚きだな。彼らはLMEでもかなりの売れ線だぞ。これは蓮もウカウカしていられないなぁ)

もっともアイツは彼らが何者かも分かってはいないだろうけれど……と社は苦笑する。

蓮は三人がキョーコにとって親しい存在であることを悟ったが故に警告をし、ブリッジ・ロックも彼の意図するところを理解したのだ。

――彼女に近づくな――

それに気づいていなかったのは、当のキョーコだけ。

(今の若手で蓮に逆らうような勇者はいないとは言え、アイツもやり方が露骨になってきたよな……)

さんざん彼をけしかけてきた身としては喜ぶべきか否か、この皺寄せはいずれ自分に返ってくるということを思うとマネージャーとしては判断に迷うところであった。


V…Visual

(そういえば……一人いたな。蓮に対抗意識を持つヤツが)

1年前の蓮ならば歯牙にもかけなかったであろう相手。
それが今は最も警戒すべき存在へと変化したのは、軽井沢の一件で容易に想像が付いた。

(本当に、以前の蓮なら余裕であしらったんだけどな……)

「よお、社っ!何をボーーッとしてんだ」
掛け声と共にバンッと背中を叩かれ、不意を突かれた社は思わず前へとよろめいた。
一体誰だ、と振り向いた先にいたのは歌手部門の主任。
少し酔っているらしく、顔を赤く染めている。

「今日は監督を始め、ダークムーンの主要メンバーが勢揃いしていたな。視聴率、このまま行けばオリジナルを抜くって話じゃないか。実現したら快挙だぞ!蓮も一皮剥けた演技をしているし、お前も鼻が高いだろう」
「まあ、お陰さまで……」

嘉月の演技に躓いて苦しんでいた蓮を知っているだけに、社は当たり障りのない言葉を返した。

「それに引き換え歌手部門は勢いが足りなくて困る。情けない事にアカトキに話題を持っていかれっぱなしだ」
「え……っ」
話の行方に嫌な予感を感じて、社の口元が強張った。

「不破だよ、不破尚!3ヶ月首位ジャックの可能性、不敗記録ときたもんだ。残念だが今日でそれは樹立するだろうよ」
「今日……?」
「出るんだよ、新曲が。発売前から話題沸騰のバラードだ。俺も聞いてみたんだが、悔しい事に認めざるを得ない。あれは……売れる」

(不破が新曲を出す?しかも新記録達成だと……よりによって今日、この日にか!?)

「不破は今までビジュアル系というイメージが強かったが、それも払拭されていくだろうな、本格派アーティストとして」

(まさ……か、俺の考えすぎだよな……?不破がキョーコちゃんの誕生日に合わせて……だなんて)

「彼もいよいよ勝負に出てきたというわけですね」
「れ……蓮っ!?」

今この場で最も聞きたくない男の声が背後からして、社の顔からサーッと血の気が引く。

「蓮、お前……」
「負けませんよ、俺は。彼にだけは絶対に……!」
心配そうに名を呼ぶ社に、蓮は険しささえ感じる表情で断言した。

「おっ、蓮、頼もしいな。ウチではまだ不破に対抗できる若手が育っていないからな。お前、一発歌ってみるか?」
「それは遠慮しておきますよ、中澤主任。俺は俺のフィールドで、LMEを優位に立たせてみせますから……アカトキよりも」
「なんだ、一瞬期待したんだが……。まあいい、ダークムーンが金字塔を打ち立てるのを俺も楽しみにしているよ」

中澤はそれ以上の追求をすることなく、他の知り合いを見つけて二人の元から離れていった。

「不破が今日、新曲を発売するのはただの偶然だったりとかは……しないよな……?」
「しませんね。明らかに狙っています。それが彼女に伝わるかどうかはともかくとして」
「蓮……」
「大丈夫です。今更……渡したりはしません……!」

自分自身に宣言するように言うと、蓮はキョーコへと眼差しを向けた。


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