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W、Xです。

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W…Wish

「マリアちゃん、寝ちゃったみたいだね」
蓮の言葉に、社とキョーコが彼の視線の先を追うと、久しぶりに再会した父親の腕の中でマリアはいつの間にか眠ってしまったらしく、別室へと運ばれて行く最中だった。

「いつもならベッドの中でぐっすりと寝ている時間ですものね」
「それはそうだ」
玄関へと消えていくコウキの背中を、三人は微笑ましい気持ちで見送った。

「パーティは大成功だったね」
「はい、思った以上に多くの人に来ていただけましたし、社長さんの趣向で大いに盛り上がりました」
「そうではなくて……俺が言いたいのは君の希望通りに、ということ」
「私の……?」
「君の願いはマリアちゃんに楽しんでもらう事だったんだろう?」
問いかける蓮にキョーコは少しばかり固まったかと思うと、ふっと表情を曇らせた。

「はい、マリアちゃんが喜んでくれて本当に良かったと思います。でも、私……詰めが甘かったなって反省しているんです」
「どういうこと?」
「私、マリアちゃんはお父さんに招待状を出したものだとばかり思っていたんです。でも本当はマリアちゃん、出すことができなくて……ずいぶん思い悩んで、散々迷った挙句に結局出せなかったんだろうなと、そう思うんです。私、準備に夢中になるばかりで気づいて上げられなかった」
「最上さん……」
「マリアちゃんの心の傷はもっと深いところにあったのに」

――コーンの辛い気持ち、いっぱい聞いてあげれば良かった……!

かつてのキョーコの言葉が蓮の脳裏に蘇る。
まるで自分のことのように、他人のことにも一所懸命になり心を痛めてしまう……必要以上に傷を増やしてしまう、その心。

「最上さん、それは仕方がないんじゃないかな……?」
「そうだよキョーコちゃん。心配なのは分かるけど、全てを背負うのは無理だ」
蓮と社の言葉に、キョーコは素直にコクリと頷いた。

「マリアちゃんもあまりお父さんのことは話してはくれないですし、やっぱり私ができることには限界があるんだということは分かっているんです。私自身、家の事情を話す方ではないので……」
「……そうだね……」

蓮にとってもそれは同様であった。
過去を捨て、名を捨て、日本人として芸能界に入った日から、彼は家族との絆さえも封印していた。

「でも私、嬉しくもあったんです」
「え…っ」
「どうして?」
今までの話の展開からは想像もつかない言葉に、蓮と社が思わず聞き返した。

「マリアちゃんの気持ちを慮って、お父さんをパーティに誘ってくれた人がいて、そしてお父さんが実際に日本に来てくれて。私があれこれ考えなくても、ちゃんとマリアちゃんには心配してくれる人がいるんです。マリアちゃんを大切に思ってくれる人がいるんです」
「最上さん……」
「だから、良かったなって、そう思って……」
感慨深げに言うキョーコに、蓮は胸が痛む思いがした。

一人森の中にいた少女はニコニコと笑うその陰で、どれほどの孤独を抱えていたのだろう。

「マリアちゃんはこれから、自分の誕生日を嬉しいという気持ちで迎えることができますよね」
「ああ……きっとね」

キョーコの問いかけに、蓮は何もかもを包み込むような優しい笑顔で答えた。


X…X-Day

「それにしても社長が係わると何でも派手になるよな。俺、キョーコちゃんに招待されたんじゃなければ、『社倖一様』なんて出迎えられた時点で帰るところだったよ」
あれは恥ずかしかったとぼやく社に、キョーコが笑ってフォローする。

「社長さんもマリアちゃんのためにパーティをやりたくてウズウズしていたんですよ。通りすがりの足ながおじさんでは物足りないぐらいに」
「確かに主役を食う勢いだったよね」
「本当に、しっかりと食われてゲストになってしまった気がします」

結果として招待主であるキョーコやマリアの方がローリィの企画に驚かされっぱなしとなったパーティ……しかしそれを彼女は特に拘ることなく受け入れているようだった。

「将来マリアちゃんが結婚するなんて話になったら、社長さんが張り切って大披露宴になりますよね。中世の王宮張りの舞踏会が開かれたりして……」
煌くシャンデリアの元、着飾って踊る紳士淑女を想像してキョーコがうっとりと目を細める。

「キョーコちゃんはそういうの好きなんだ?」
「え、だって素敵じゃないですか。物語の世界みたいで」
「ふうん……」
ニヤリと笑う社に、蓮は嫌な予感に眉を顰める。

「別にマリアちゃんとは限らずに、社長の事だから自分の会社の歌手や俳優のためなら喜んで披露宴をセッティングすると思うよ。なあ、蓮」
「なんで俺に振るんですか?」
「そうですよね!敦賀さんが結婚するなんてことになったら、社長さん、絶対に大喜びで披露宴を計画してくれますよ!」
「……俺としてはできる限り辞退したいところだけどね」

嫌そうに言う蓮に「どうしてですか?」とキョーコが小首を傾げる。

「俺はまだ結婚なんて考えてないけど……もしするにしても、社長に任せたりしたらいいように遊ばれるのは目に見えているし、どちらが主役か分からなくなりそうだ」
「うーん、そうですねぇ……今日みたいに場内を嬉々として占拠されてしまうのは間違いないですし、披露宴でそれはちょっと困るかもしれません」
「でも、蓮の披露宴なら俺に任せろっ!て言って、絶対に譲りそうにないよな、社長」
「譲らないですよね、きっと。抵抗するのは大変ですよ、敦賀さん」
「まるで人ごとのように言うね、最上さん」
無責任に言い放つキョーコに、蓮が少しばかりムッとした顔をする。

「君だって社長に披露宴をプロデュースされるかもしれないんだよ?」
「私は大丈夫です。結婚なんてしませんから!」
「……そう。君は結婚しなくて、俺はするっていうわけ……?」
蓮の気配に不穏な物を感じ、キョーコが我知らず一歩後ずさる。

「あ……あの……?」
「予言しようか、最上さん。俺が披露宴について頭を抱えるときは、君も同じように悩むことになるよ」
「な、なんですか、それ……」
「さあ、なんだろうね?」
意味深に笑う蓮に、キョーコの背中に冷や汗が流れる。

(そんな変化球じゃ、キョーコちゃんは意味も分からずに棒立ちで見送るだけだろうに)

この調子ではしばらく先になりそうだ、と社はこれから先の未来を思う。

来るべき二人のX-Day。
その日は一体いつになるのだろう……と。


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