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アルファベットお題、ようやく最終話となりました。
Y、Zです。

***************************

Y…Yet

夜中の1時を過ぎ、場内を占めていた訪問客が次々に帰り始める。
その様子を壁際で眺めているキョーコに、蓮が近づき話しかけた。

「最上さん、君はどうするの?」
「はい?」
「そろそろ帰るなら、家まで送るよ……?」
「ありがとうございます。でも私、できればパーティの終わりを見届けたいんです。社長さんにそう話したら部屋を用意するから泊まっていけばいいと薦めて下さったので、しっかりとご好意に甘えることにしました」
「そう……それならいいんだけど」

あの社長が夜中に彼女を一人で帰すような事はしないと分かってはいた。
けれどもう少し同じ時を共有したいと、そんな思いもあって切り出した蓮としては少々残念な心持ちであった。

「敦賀さん、今日はありがとうございました。パーティに足を運んでくださった上に、私の誕生日のことまで気にかけていただいて……」
キョーコが深々と頭を下げる。

「私、いつもクリスマスと一緒に誕生日を祝ってもらっていたので、プレゼントもお祝いの言葉も24日に受け取っていたんです」
「そう……」

知っているよ、遠い昔に君から聞いたから――
そう答える事もできず、蓮はあえて聞き役に徹した。

「だから25日に『おめでとう』って言ってもらった覚えがないんです」
キョーコは自分よりも遥かに背の高い蓮を、すっと見上げる。

「敦賀さん」
「…なに……?」
「誕生日になってすぐに敦賀さんがお祝いをしてくださったので、私…凄くびっくりして、そしてとても嬉しかったんです。最高のバースデープレゼントをありがとうございました」

再度礼を言うと、キョーコは嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべた。
蓮は返事の代わりに穏やかに微笑むと、無言のままコートのポケットに両手を突っ込んだ。

「あと……気が付いた事があるんです。いえ、気が付いてしまったと言うべきかもしれませんが」
「何を気づいたの?」
「コーンに言われた事があるんです。クリスマスと誕生日を一緒にお祝いしてもらうという話をしたら『それは少しかなしいね』って。私はその言葉の意味が分かりませんでした。両方一度にお祝いができるのにどうして、ってそう思って」
「……うん」
「だけど今日、敦賀さんや多くの人に祝ってもらって、実感として分かりました。『メリークリスマス』とセットではない『おめでとう』の言葉がこんなにも嬉しいものだなんて……私、思いもしませんでした」

1人でも多くの人に祝ってもらいたい――

バースデーソングの大合唱が流れる中、花束を抱えて幸せそうに笑っていたキョーコ。
蓮のささやかな願いは彼女を想う人達によって、現実のものとなった。

「良かったね、最上さん」
「はい。あの……こんな事を言ったら幻聴だって笑われてしまうかもしれないんですけど……」
「何……?」
「私、聞こえたような気がするんです。誕生日おめでとうって言ってくれるコーンの声が」
「……え…っ…」
「私が心から笑っていて嬉しい、良かったねって……そんな風にコーンが言ってくれた気がするんです」
えへへ、とキョーコは小首を傾げ、顔を朱に染めて照れ笑いをした。

本当に……と、蓮は思う。

本当に今、周りに誰も居なければ……!―――

紳士の仮面の裏の顔には気づかず、キョーコはふわふわと笑っている。
その余りの無防備さに、蓮は内心溜息を付いた。

(俺がコーンだなんてそれこそ夢にも思ってないんだろうな、この子は。ましてや俺がどんな想いを抱いているのかなんて……!)

人目があることでようやく繋ぎとめているにすぎない理性の鎖。
それを外してしまいたいと思う心をも共に縛り続けることは、どこまで可能なのか。
だが例え不可能だとしても、蓮はそれを自分自身に強いるしかなかった。

(まだ早い。早いんだ……)

いずれ彼女に全てを打ち明ける時が来るのかもしれないと感じる一方で、現時点では時期尚早だとも蓮は判断していた。
まだそれを自分自身に対して許す事はできない、と。

「コーンは気が付いていたのかもしれません」
「何を……?」
「私が目を逸らしていた事をです。私は結局、自分で自分を縛っていたんです」

己が心を覗いたかのようなキョーコの言葉に、蓮はギクリと身を強張らせた。
驚いたように目を見張る蓮には気づかず、彼女は話を続ける。

「多分、無意識に自分に言い聞かせていたんでしょうね。誕生日を祝ってもらえるだけいい、独りではないだけ幸せ、って。でもやっぱり歪みはあったんだと思います」
「歪み……」
「はい。私、皆さんにお祝いしてもらって見つけたんです。胸の奥に空いていた小さな穴を」
キョーコは目を閉じて、両手を胸に当てた。

「何年もあり続けたその穴が、今日……温かい何かでギュッて埋まった気がするんです」
ゆっくりと目を開き、見つめる蓮の瞳とぶつかると、少女はふわりと微笑んだ。

キョーコの話を聞きながら、蓮は過去の彼女のように己を縛っている自分を自覚すると共に、心の内で既に生じている歪みも意識せざるを得なかった。

どうすればいいのか、どうすべきなのか――彼にはまだ答えを出す事はできなかった。

だが、ただ一つ蓮は強く思った。

彼女のこの笑顔を守りたいと。
この決意だけは、決して揺るぎはしないと。


Z…Zero

(思えばゼロから始めたんだ……)

キョーコは人気のなくなったフロアーを一人歩く。

(アイツに裏切られて、何もかもを捨てた……身の回りにある物も、アイツへの想いも、それまでの自分も……何もかも全てを)

絶望のどん底から『復讐』という目標を掲げて這い上がり、そしていつしかその目標は違うものへと変化していた。
それと共にいつの間にか復讐の相手の姿を思い浮かべる日が少なくなっていたことも、彼女は気づいていた。

カツンカツンと、キョーコの足跡が静まった室内に反響する。

(なんだか現実味がないわよね。こんな豪華な迎賓館に私だけポツンといるなんて)

チョコレートの滝にケーキのお城、花が溢れ虹色の蝶が舞う、お伽話のような空間。

「まるで夢のようだった……」
「夢ではございませんよ」
独り言に答えが返り、キョーコは驚いて後ろを振り向いた。

「最上様が企画されたパーティを、招待客の皆様はとても喜ばれていました」
異国の容姿を持つ社長の腹心の部下は、キョーコに一礼をする。

「ありがとうございます。あまりに大勢のお客様でおもてなしも十分にはできなかったのですけど、そう言ってもらえると嬉しいです」
「それは仕方のない事かと存じます。最上様とマリア様がご招待された方々以外にも、多くのお客様がいらしていましたから……」

二人は顔を見合わせて、ふっと笑った。
足長おじさんの招待客は、企画者が招いた客の数倍にも及んでいたのだ。

「三次会、四次会に参加される方は全て奥の部屋に移動されました。最上様もお休みになられてはどうかとの旦那様からの言づてです」
「あ、はい。ではそうさせてもらいます」
「それではお部屋へご案内いたします。どうぞこちらへ……」

執事の後に従い数歩遅れて歩いていたキョーコは、幅の広い階段に足をかけた時にクスリと声を立てて笑った。

「どうなさいました?」
「いえ……私、25日の誕生日を皆さんにお祝いしていただいて、とても充実した時を過ごしたのに、これから一眠りをして目が覚めてもまた25日なんだなと思ったらなんだか不思議に思えてしまって……」

そんなの当たり前のことですよね、と照れて笑うキョーコに執事が首を小さく横に振って微笑む。

「もう一度過ごされる17歳のお誕生日が、最上様にとって素敵な一日でありますよう願っております」
にこやかに言うと、執事はカチャリと一室のドアを開けた。

「今晩はこちらでお休みください。何か御用の際にはインターフォンでお知らせいただければ参りますので、どうぞ遠慮なくお申し付けください」
「はい。ありがとうございます」
「それではお休みなさいませ」
「お休みなさい……」

(素敵な一日……か。うん、そうだといいな……)

キョーコは調度品も見事な来賓用の部屋のベッドに潜り込むと、ふぅっと何かに誘われるかのようにその目を閉じた。


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