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「最上さん、寒い?もう少しすれば暖房が効いてくるとは思うんだけど」
「いえ、大丈夫です」

料亭を一歩出ると、吹き抜ける風に思わず身震いをした。
外気の気温を反映してか車内もすっかり冷え切っていて、足元から冷気が漂ってくる。
エアコンの噴出し口から出始めた温風に、ようやく強張っていた肩の力が抜けた。

――返事はいらない。

敦賀さんはそう言ってくれたけど……
隣で運転をしている敦賀さんの顔を、そっと見る。

正直なところ返事云々よりも、まず実感が沸いて来ない。
敦賀さんが私の事を……だなんて。

何か思い違いをしているとか…若しくは勘違い、あるいは気の迷い。
その方がよほどしっくり来る。

「ようやく温まってきたね」
「はい……」

耳に心地良い、張りのある低めの声。
言葉以上に物を語る切れ長の目と澄んだ瞳。それを覆う長い睫。
スッと通った鼻筋に引き締まった唇。

綺麗な人だな……

造作が整っているというのは、こういう人の事を言うんだろう。
そんな風に敦賀さんを見たことはなかったけど、なぜ今まで気に留めなかったのか不思議なくらい、本当に……綺麗……――

敦賀さんの癖のない艶やかな前髪が、額の上でさらさらと斜めに落ちる。
こんな何気ない事さえ、様になってしまうんだなあ、この人は……

「最上さん?」
「……え…………」
「俺の顔に何かついてる……?」

赤信号で車を止めた敦賀さんが、私の顔を覗きこむように首を傾げていた。
その時になってようやく私は敦賀さんを無遠慮に見つめ続けていた事に気が付いて、一気に顔が火照る。

「うわっすみません、何でもないんです!」
「そう?あまりジッと俺を見詰めてくれているから、何か言いたいことでもあるのかと思ったんだけど」
「いえ、そういう訳では……っ」
敦賀さんに見蕩れてましたなんて、恥ずかしくて言える訳がない。

「本当に?何も隠してない?」
私の様子がおかしいと踏んだのか、敦賀さんが更に突っ込む。

ああ、もうどうしたらいいのよっ!

「聞けることは聞いておいた方がいいよ」
「で、では一つだけっ」
頭で考えるよりも先に、言葉が飛び出していた。


          *************


「何?」
「あ……あのですねっ」
「遠慮せずに、何なりとどうぞ?」
「えっと、その……敦賀さん、私を嫉妬で怯えさせたとおっしゃってましたが、あれはどういう意味なんですかっ」

っっ……!!

彼女の言葉が耳に入った瞬間、吐くべき息をぐっと喉に詰まらせてしまい、コホコホと咳き込んだ。

「敦賀さん、大丈夫ですか……っ」
「あ……ああ、ちょっとむせただけだから」

この娘は一体、何を言い出すんだ。
彼氏でもない俺が不当に彼女に怒りをぶつけてきた事に対して、ここぞとばかりに責め上げるつもりだろうか。
無論、言い逃れはできない立場ではあるが……

俺を見つめる彼女と視線がぶつかる。

……ああ、違う。
本当に分かっていないんだ、この子は……!

まっすぐに疑問を投げかける瞳に、はあっと脱力した。

自分で言うのも何だが、かなり露骨に嫉妬をしてきたという自覚はある。
もしこの場に社さんがいたなら、口を手で押さえ、ふるふると肩を震わせて笑っていたに違いない。
その姿が目に浮かぶようだ……嬉しくもないが。

俺の歪んだ怒りの原点に気が付かないのは彼女が恋愛を否定しているからか、彼女の俺に対しての信頼が厚過ぎるからか。

どちらにしても度が過ぎれば、これから先に不都合が生じてくるのは想像に難くない。
恋愛に目を背けられても、彼女の中の敦賀蓮像が美化されすぎても、結局は「対象外」になるだけだ。

……仕方がない。


          *************


「最上さん、本当に心当たり…ないの?」
「あればこんな事、聞きません」
「それはそうだね……」
敦賀さんが歯切れ悪く、言葉を返す。

正直、咄嗟に出てしまった質問に私自身焦ったけれど、でもこれは多分、気にかかっていたからこそ出た言葉。

昼間にも「妬いて嫌な思いをさせるぐらいなら」なんて言われて、聞き返せる雰囲気ではなかったからそのままで。
とにかく身に覚えがないだけにすっきりしないし、敦賀さんが嫉妬をするなんてどうもピンと来ない。
しかも原因が私だなんて……!
もし敦賀さんが何か思い違いをしているなら……その理由のヒントが見つかるかもしれない。

「あー、だからね」
「はい」
「……やっぱりやめた」
「えええっ!」

どうしてですか!と反射的に聞き返そうとした時に、車が道路の左側へと寄せられて路肩に停止した。
見覚えのある景色に、既にだるま屋の近くまで来ていたことに気が付く。

「はい、到着だよ」
「ありがとうございます……ではなくて!」
「何?」
「どうして『やめた』なんですかっ」
早々に話題を流そうとする敦賀さんに食い下がって質問をする。

「わざわざ君に教える事もないかなと思って」
敦賀さんは綺麗な笑顔を作って、サラリとそう言いのけた。


          *************


「教える事もないって……」
「何も自ら猛獣の生贄になることはないだろう?」
「誰が猛獣ですか!」
「だって怒るから君は、間違いなく。文字通り噛み付かんばかりにね」

実際俺は何度君を青褪めさせ、怯えさせたか分からないほどで、そのほとんどが身勝手な俺のエゴから来ていると知れば、決して面白くはないだろう。

「俺は自分から白装束を着て、首を差し出す勇気はないから」
むぅぅぅっ、と彼女がジト目で俺を睨みつける。

「ずるいです、敦賀さん!」
「ずるくて結構。俺も自分の身が可愛いからね」
「また私……敦賀さんの手の平の上で転がされてしまうんですか……?」
子供のようなやり取りを交わした後、最上さんが悲痛な光を湛えた目で俺を見る。

少し遊びが過ぎたか……。

「……そうだな。俺の思うままにされるのが嫌なら、君が俺の行動を考察してごらん」
「え……」
「俺がどんな時にどんな感情で君に接したのか。どんな想いを抱いたのか。考えてみれば答えは出るかもしれないよ?」

こんな問い掛けをするということは、君はまだ疑問を持っているのだろう。
俺の君への気持ちに、その想いのほどに。
この調子ではただ話を聞いたところで、きっと君は納得などできはしない。

それならば考えてくれ、俺のことを。
俺の想いのその片鱗を君は見てきているのだから。
衝動の理由を知った上でそれを見つけることは、決して難しい事ではないはずだ。

俺の思考を辿って、俺の行動を考えて、本当の俺を知って………俺のことだけで頭をいっぱいにして。

「君が答えを見つけた暁には、俺は喜んで君に叱られるよ」
「喜んでって……おかしいですよそれ、敦賀さん」
「じゃあ、不戦敗ということで俺の逃げ切りでいいかな?」

ニヤリと笑って見せると、冗談でしょう!と君はムキになって身を乗り出した。

「分かりました!こうなったら、何としても思い出して敦賀さんに突きつけてみせますっ。よくもあの時はって!覚悟しておいてくださいね!?」
「ああ、首を洗って待ってるよ」

君が俺を捕まえてくれるのを、ね――


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